春爛漫! 東松山ぼたん園(東松山市大字大谷1148番地1)へ
2014年4月20日

初夏のような陽気に誘われながら、関越自動車道 を下り入間川を渡る頃、前方に秩父の山々が朦朧と霞む。
空は高く澄み渡り、木々の若葉が瑞々しい。
やがて東松山ICを降り約20分ほど進むと 、「東松山ぼたん園」に到着した。

「東松山ぼたん園」は、平成2年に東松山市が開園した公園である。
同市内の近くにある「箭弓稲荷神社ぼたん園」が狭くなり、この地に開園した。
開園当初は野田の地名に因み、「野田ぼたん園」と命名されていた。
だが平成10年の拡張整備とともに「東松山ぼたん園」となり、関東有数のぼたん園になる。

園の敷地面積の30000㎡、350種・約9100株が植栽され、例年4月下旬から5月上旬が見頃である。
何年前になるであろうか、「箭弓稲荷神社ぼたん園」へ出かけたことを思い出す。
その時はすでに花の盛期は過ぎ、名残のボタンであった。
 
だが藤棚に淡紫の藤の花が咲き匂い、色とりどりにツツジが咲き誇っていた。
園丁の老人が、「ボタンの盛りは難しい」と言っていたのが懐かしい。
無料駐車場に車を置きボタン園へ。
ボタン園の入り口近く、桃色に薄緑で「ぼたん祭」と染め抜かれた幟が、春風にはためいていた。
遠く広場を見渡すと、色々な露店のテントが見える。
入園料を500円払い園内へ入る。
すると正面にボタン畑が広がる。
そしてボタンの花々には、名前を示す立て札が立ててあった。
連休最初の日曜日、園内は老若男女で賑わっていた。
昼下がりの陽光を浴び、ボタンが朱色も鮮やかに煌めいていた。
  
なだらかな丘陵に咲く、色とりどりのボタンに混じり、純白なハナミズキが、蝶のように碧空に泳いでいる。
さらになだらかな傾斜の散策道を進むと、様々な種類のボタンの花園が広がる。
すると高貴な匂いを漂わせながら、柔らかな春風が吹きわたってゆく。
  
中国の詩人の李白や
白居易(白樂天)が、玄宗皇帝の寵愛を受けた絶世の美女・楊貴妃に見た典雅なボタン。
風に優美にゆらゆらと揺れる。
中国盛唐以来、数々の詩歌に歌われたボタンは、「花中の王」、 「百花の王」と謳われる。
さらにその高雅な姿にもまして、古来より
根の樹皮部分が漢方薬になっている。
丘陵を吹きぬける微風に、妙麗に揺れる姿は優雅である。
大きな白い花弁がそよぎ、降り注ぐ陽光に照り映えていた。
それは観る者を桃源郷へ誘うようである。
散策道を巡り、花々を愛でる人たちの顔には、笑顔が零れている。
美しい花々は人々の心に、しなやかな感動を贈る。
ボタンの花を写真に収める人も真剣である。
ボタン園の散策道沿には、初夏の到来も近いことを知らせる、色とりどりのツツジが咲いている。
さらに遠く見渡すと、芝生の中、長椅子にお年寄りたちが座り、陽光を浴びながら談笑していた。
すでに子育ても終え、老後を愉しむ姿は美しく気高い。
その長椅子の後方には東屋があり、遠く咲くボタンの花々を、鑑賞している人たちがいる。
さらに散策道を回遊すると、彼方に眺望が開ける。
武蔵野の面影を偲ばせる、名残の雑木林の若緑が、花々の鮮やかさと調和している。
やがて木々の日影に入り、木々の漂う涼気が爽やかである。
その匂いはすでに初夏の香気を思わせる。
日射しの強さと日影の涼しさが心地よい。
広い花園に咲き匂う花々は、陽光に照らされ、光と花の高雅な協奏曲を奏でている。
すると路傍に野菊などの野草が、清楚に密やかに咲いていた。
大輪のボタンの華麗さに対し、その姿は澄まし顔で可憐である。
自然で自己主張をしない素直な美に、懐かしさをおぼえる。
小菊の花をよく見ると、花心に若緑色のバッタがとまり、花蜜を吸っている。
私の視線に驚くことなく、じっと身動きもせずにいた。
散策道には大勢の人たちが、降り注ぐ昼下がりの陽光を浴びながら、上り下りのすれ違い。
強い陽光を避けるために、目深に帽子を被る人、日傘を射す人たちが、初夏の近いことを教えてくれる。
やがてボタン園の奥の、雑木林が深くなり、緑濃い木陰に入る。
木々の木漏れ日が、地面に影絵を映す。
見上げると陽光に照らされた、木々の葉裏の葉脈が、新緑に萌え眩い。
すると彼方から小鳥の囀りの声が聞えて来た。
この花園の艶なる匂いに誘われてきたのであろう。
木陰を抜けて行くと、花園が咲き煌めく。
光と影の自然の律動が、景色に印象を深める。
 
相変わらず陽光は陰ることを知らず、燦々と降り注ぐ。
なだらかな下り道を進むと、深紅のボタンが咲き匂う。
するとその深紅の花弁を、薄桃色や白の花びらに、色の階調を染めるボタンが混じる。
 
すると少し距離を置いた花畑に、作業着姿の男性がいた。
そしてボタンの花を見ながら、何やらメモ帳に書き留めていた。
私は近くにより男性に声をかけた。
 
「あそこにあるボタンなんですが、不思議な色合いですね。何という種類ですか?」
すると親切に笑顔で答えてくれた。
「島錦ですね。日の当たり方や土壌によって、花の色に変化が生まれます。
ですから全ての花に、微妙な色調の差が生まれるのです」
私は男性にお礼を言い、もう一度花畑に引き返してみる。
そしてよく見ると、言われた通り、全ての花の色調に柔らかな違いがあった。
花の繊細な生命力の不思議さを面白く思った。
春爛漫の花園に溢れる、妖艶なボタンの匂いに誘われての散策。
隈なく園内を歩くと園の端近くに、ハナミズキが真っ白な花を咲かせていた。
樹下から見上げると、ハナミズキの花が、モンシロチョウのように、ひらひらと碧空に舞っていた。
 
ツツジが咲きハナミズキの純白が舞い、ボタンの花々が咲き匂う。
春たけなわの花園に、春が満ち溢れている。
春の躍動する生命が、なだらかな丘陵地に漲っていた。