クテルの語源

NO1
昔むかし、イギリス海軍が世界の海を制していた帆船時代のこと。
メキシコのユカタン半島のカンペチェという港に、船が停泊していた時、
酒場で少年がさまざまなお酒を、不思議な形をした木の枝で混ぜていた。
船員達は、強いアルコールのスピリッツ類を混ぜて飲む習慣がなく、
何時も生(NEAT)でグビグビッと飲んでいたので、とても不思議に思った。
ところが、当時カンペチェでは、ドラックス(DRACS)といって、
さまざまなお酒を混ぜた現在で言えばカクテルが、大変に流行っていた。
船員の一人が、「ボウズ、その酒はなんつう酒や」
少年はてっきり、かき回している木の棒のことかと思い自信満々に「コーラ・デ・ガジョ」と答えた。
少年は、かき回す木の棒が、雄鶏の尻尾に似ているので、いつも木の棒を
コーラ デ ガジョ(雄鶏の尻尾)と呼んでいた。
船員達は、てっきり、酒の名前がコーラ・デ・ガジョと思い込んでしまった。
なお且つ、飲んだ酒はとても美味い。
COLA DE GALLOとは、英語でTAIL OF COCKの意味で、
船員達は、船が停泊した先々で、テイル オブ コックを注文した。
それが、やがてカクテルになったという。

NO2
アメリカがイギリスから独立するために、激しい戦争が戦われていた頃の話。
ニューヨークに程近い街、エムスフォードに「四角軒」というバーがあった。
女将は大変な美人で、なお且つ気風が良く、
いつも独立軍の兵士に、酒を振舞い励ましていた。
或る日の事、美人女将が、豪華なローストチキンをメインデッシュに、
彼女の自家製のミックスドリンクを兵士達に提供した。
酒も美味いがチキンの味も格別で、兵士達は酒を飲み、
チキンを食べ、おおいに気勢が上がった。
バックバーに飾られたミックスドリンクには、何処かで見た事のある、
大きくて立派な雄鶏の尻尾が、これ見よがしに飾られていた。
其れは、独立反対派の近所のクソ親父が、御所大事に育てた見事な雄鶏の尻尾であった。
昨日、彼女がソット忍び込み、盗み出したものであった。
女将の心意気に感動した独立派の兵隊達は、「カクテル万歳!」と叫びながら
ローストチキンをツマミに大いに盛り上がった。
そのときから、女将特性のブレンド酒を注文する時、
「ママ、コックテール」と言って、注文するようになり、
そして、何時の日かカクテルになった。

NO3
昔々の、アメリカの話
時は1779年、ひっそりと旅籠屋を営む、ジムと言う男がいました。
ジムには、大変に気立ての良く、器量よしのマリーと言う、自慢の娘がいたのでした。
そして、もう一つだけ、自慢の宝物がありました。
それは、どんな闘鶏の大会に出しても、決して負けることのない無敵の雄鶏でした。
或る日の事、無敗を誇る雄鶏が、なんと行方不明になっってしまった。
ジムは、半狂乱になって、雄鶏を探すが、皆目見当がつかない。
余にも落胆して、失意のどん底に叩き落されたような、ジムの姿をを見かねた娘のマリーは、一計を案じた。
「私の大好きなパパの大切な雄鶏を、見つけてくれた人と、私は結婚しても良いです」と宣言した。
やがて、とてもダンディーな男前の騎兵隊の青年仕官が、
娘の次に大切な雄鶏を抱えて、ジム達の下に現れた。
ジムは、天にも登るほどに喜び、近くにあった酒をすべて混ぜ合わせ、
オリジナルブレンドを作り、パーティーを開く。
ジムは、皆とおおいに飲み、祝杯をあげ、一晩中酒を酌み交わした。
そのオリジナルブレンドは、飛び切りに美味かった。
皆は、この酒を、ジムの御所大事な雄鶏の尻尾にちなんで、
コック(雄鶏)テール(尻尾)と言い合いながら、楽しいパーティーを盛り上げたのである。

NO4
やはり、昔々のメキシコでの話し。
メキシコに、トルテックという種族がいました。
酒を飲むのも好きだが、色々な酒をブレンドして、お酒を造るのも大好きという粋人がおりました。
やがて、その酒は評判を呼び、王様の耳にも伝え聞くことと相成った。
さて、、トルテック族の酒が大変に美味いという噂を聞きつけた王様は、その酒を、何が何でも所望したくなった。
王様の気持ちを察した粋人は、早速、この上なく美味なオリジナルブレンドの酒を調合し、
自慢の可愛い娘のホック トル(XOC-TL)に持たせて、王様のもとへ献上させたた。
娘の美貌もさることながら、その酒の美味さといったら、まさに、甘露甘露で、この上ない至上の喜びであった。
王様はいたく感動し、粋人の心根を讃えるため、オリジナルブレンド酒に、娘の名前のホクトルと命名した。
そして、何時の日か、アメリカに伝わりカクテルとなったという。

NO5
18世紀頃のアメリカでの話
仲の良い親娘がいた。
或る日の事、父親が大変に大切にしていた闘鶏が逃げて行くえしらずになる。
親父さんがガックリしているところへ、青年仕官が雄鶏を見つけて現れた。
親父さんは感動し、若き将校に、美味しいお酒で精一杯もてなす様に、娘に命じた。
しかし、娘は、青年仕官のあまりの美貌に目がくらみ、ボーッとしたまま、
様々な酒をドボドボッと混ぜてしまった。
あら大変、後の祭り、もうどうにもならない。
しかし、飲んでみると、この混ぜ合わさった酒はとてもとても美味!
そこで、父親は、この酒に、闘鶏の尾っぽのコックテイルの名前をつけた。

NO6
18世紀頃、ジャズの発祥地ニューオリンズにフランス人のペイショーという薬剤師がいた。
コニャック・ベースに、色々な酒を混ぜ、強壮剤を作って、なかなかの評判であった。
そして、その酒は、なんと、エッグ・スタンドに注がれて提供されていた。
エッグ・スタンドとは、フランス語で「コクチエ」である。
アメリカ人は、この「コクチエ」の発音がなかなか出来ない。
何時の間にか、発音のし易い「コクテル」に転化したとも言われている。

NO7
三島由紀夫「魔群の通過(1958)」より
「十八世紀中葉の一書誌の著者が云う。
その処方は著者がヨンカーズ町のコックステール・タバーンなる居酒屋の美しい女将ペギー・バン・エイクよりの直伝の秘法であって、
彼女はさる年の某月この調合法をば、許婚なる船長アプルトンのために調整し、
その酒の勢で、彼女の父親の不機嫌に圧倒されないように元気を附けたのだった。
すると彼女の大好きな闘鶏があたかも重大事件を寿ぐかの如く、声高く鶏鳴をつくり、思い切り羽博いたので、
彼の素晴らしい尾羽が一本ヒラヒラと舞い降りてこの美しい娘(今はコックステール・タバーンが女将)の前へ落ちた。
その羽を拾って、彼女はグラスの中を攪きまわした。かくしてこの飲み物がカクテルと命名され、爾来その名で呼ばれるようになったのである。」