小さな旅&日記

湯島で観梅
2/27<火>


昨日は湯島天神へ、観梅に。
駐車場は何処も満車。
偶然にも、すぐ近くの、目立たない造りの駐車場に駐車。
ぶらぶら、大鳥居を潜り、湯島の参道へ。
さすが、観梅の季節、大勢の見物客が、列をなしての参拝。
参道を挟んで、昔ながらの懐かしい風情の露店。
私達も、列の最後尾につき、本殿で参拝。

日も高く、暖かな一日。
たくさんの人たちが観梅を楽しんでいる。
参集殿の方では、賑やかに、白梅太鼓。
うら若い女性の叩き手が、半纏に、にじり鉢巻姿で、威勢よいリズム。
大勢の人だかりの中、そのリズムに共鳴するかのように、
天神神輿の担ぎ手たちの、掛け声が境内に響く。
懐かしい、湯島弘道会の綿貫さん、楽しそうに、舞台からビデオ撮影。

太鼓の演奏も終わり、神輿も下ろされ、氏子代表の、さーあ!の〆の合図。
担ぎ手たちと、太鼓の叩き手が、気合を込めての一本締め。
太鼓と神輿は終った。
私達も、湯島天神境内を散策し、観梅。
3時を過ぎて、日も少し翳り、どこか肌寒い。
狭い日本庭園の梅の花が、楚々と咲く。
熱海の梅園の木々は若々しく、梅花にも華やぎがあった。

湯島の梅木はかなりの老木。
梅花も小さく風趣の豊かさ。
梅花に鼻を近づけ、香を嗅ぐ。
古の梅の香りが、そこはかとなく、優美に、そして甘美に匂いたつ。
古雅の耽美な香に、しばし、酔いしれる。

梅木の姿、枝ぶりに、年輪の重さ、風雪の重さが、木々に宿る。
紅く、白く、淑やかに咲く梅花付けた、老樹の姿は、江戸版画の雅の世界。
複雑に、絡み合うように、幾重にも広がる、梅木の枝の舞のシルエット。
木々の枝ぶりの向こうに、青い空が広がる。
庭園を一回りして、参集殿へ。
先ほどの神輿衆たちと禰宜さんが、神輿納めの義を執り行っていた。
日も落ちはじめた境内の風も冷たく、若衆たちも寒そう。
禰宜さんのお払いも終わり、散会。

境内の板木には、合格祈願の絵馬が折り重なり、
ずれ降りそうに吊られていた。
懐かしい、急峻な男坂を降りる。
階段を折りきった、すぐ左手に心城院という、小さなお寺様。
江戸名水と言われた湧水井戸、柳の井がある。
その井戸の水で、髪を洗うと、どんなに縺れ、絡み合った髪も、
さらさらと、綺麗に、ほどけるといわれている。

その隣に骨董屋さん。
そして、その隣に、居酒屋「太郎」
ご主人は、人間国宝の講談師・一龍斎貞水師匠。
開店祝いに、行きつけの「スナックてんじん」のマスターと、
一升瓶を抱えて出かけたのも、今は懐かしい思い出。
マスターの店があった角地には、ビルが建ち、一階はブティックになっていた。
私より、4歳上だったマスターも、すでに、6年くらい前に、他界している。
光陰矢のごとしと言うが、月日が経つのは、本当に早い。


箱根から熱海へ
2/12<月>ー13<火>


箱根へ向かう峠道
変則的な日曜日の営業は、3時に終了。
店の後片付けをしたら、3時30分。
近くの駐車場の車を発進して、熱海に向かう。
深夜でも、寒さを感じさせないのは、やはり、暖冬なのだろう。
北池袋から首都高へ。
さすがに、高速はがらがら。
すいすいと、ネオン輝く東京の街を、縫うように、滑るように、快適に進む。

助手席で、缶ビールを飲みながら、ほとんど、車のいない、都心を走るのは楽しい。
首都東京を突きぬけ、東名へ。
真っ直ぐ、ひたすら、高速を南下。
あっという間に、まだ暗い多摩川を越し、川崎、そして、町田。
まだ、1時間も経っていないのだから驚きだ。
昼間なら、西神田・飯田橋辺りを抜けるだけで、1時間近くかかる。

充電でき、やっとデジカメで撮影
足柄パーキングエリアに、着いた時は5時頃。
パーキングに車を止め一休み。
私は温かいコーヒーを飲み、ママは軽く食事をとる。
先ほどまでのビールも、ほどよく回り、車の中で、2時間ほど仮眠をとる。
そして、朝日と共に目が醒める。

ドアを開け、外に出る。
心地よい、朝の新鮮な冷気を、胸いっぱいに吸い込む。
太陽が山々を照らしながら、陽光も強く照り始めている。
空は青く、雲は白く、左から右に、緩やかに流れる。
今日は、間違いなく快晴。

十国峠から見た富士山
そして、御殿場インターから、箱根へ。
インターの手前右手、雪をいただいた富士山が、どっかりと、裾野も長く、雄姿を見せた。
何時見ても、富士山は秀麗な山だ。
だが、どうしたことか。
裾野には雪が無く、黒い山肌を、無残にも晒している。

山頂の雪も薄く、8合目あたりは、うっすらと、山肌が露出している。
やはり、今年の暖冬は異常。
春の雪解けも無く、今年は、どうやら、水不足の気配だ。
やがて、御殿場インターに到着。
なんと、高速料金は1250円。
こんなに、軽快な旅をさせていただき、さらに、どうやら、祝日深夜割引とはありがたい。

熱海のマリーナ
箱根街道の山がちな九十九道。
車もまだまだ少なく、冬枯れの峠道を進む。
山々を照らす陽光は、ますます、力強く耀きを増し、木々も目を醒まし始めた。
山間の冷気を吸い込みながら、車は進む。

峠道の彼方、富士山が陽光に照らされ、冠雪は白銀に輝く。
車を降り、温かい太陽の日にあたりながら、深い深呼吸。
山々の霊妙な空気が美味しい。
山々に抱かれながれ、天高く、富士の霊峰が聳え立つ。
芦ノ湖まであと僅か。

ホテルにて
7時30分ころ、懐かしい、箱根レークホテルを通過し、湖尻に到着。
2年前、仙石原に来て、ここに辿り付いた時は、すでに、薄暗闇で閑散としていた。
我々の旅は、何時もそんな具合の連続。
でも、最近は違う。
遅すぎてではなく、早すぎて、湖尻の湖畔は閑散としているのだ。

人間、考え方を変えると、180度違うことを体験できる。
箱根の山、九十九を折りながら、窓外の自然を眺めながら、上り車線を軽快に進む。
やがて、道は下り坂。
富士山が見え隠れ。
あの雄大な、天にも突き抜けるほどの、霊峰富士山のかくれんぼ。
今、見えたかと思うと、すぽっと消えるのが面白い。

ホテルからの眺め
やがて、芦ノ湖に到着。
湖畔の無料の駐車場に車を止める。
芦ノ湖の湖面の漣、陽光にきらきらと麟光の輝き。
静謐な湖を、山々がいとおしく抱きかかえている。
湖畔には、まだ、人影もほとんど無く、ボートも静かに、繋留されている。

誰もいない、微かに、朝靄にけむる芦ノ湖を、撮影しようとデジカメを出す。
ところが、なんと、電池切れで愕然。
しかし、ないものは仕方なく、諦めも肝腎。
美しい景色は、自分の目でしっかりと見て、感動を脳裏に焼き付けることが、本来の姿。
一度インプットされた映像は、大きな想像力に変容する。

着換えて、リラックス
てくてくと、湖畔から、懐かしい、箱根神社へ。
手水舎で手を洗い、口を清める。
人気ない神社へ続く階段を上る。
そして、まだ、人気のない境内に出る。
鬱蒼とした、杉の木立に囲まれた、急峻な階段を上り切ると、箱根神社の本殿。
広い境内の白砂に、陽光は降り注ぐ。
お賽銭をあげ、手を合わせる。

まだ、時間は8時半。
普段なら、我らは、家の寝床で、爆睡の時間。
階段を降りきったころ、まばらな観光客と、すれ違うようになった。
参道の彼方、さらに強い陽光を受け、芦ノ湖が輝いている。
湖畔の売店や食堂も開店準備を始めた。
すでに、開店している蕎麦屋もあった。

まだ明けやらぬ空
芦ノ湖を後に、春の気配の峠道を進み30分、十国峠に到着。
広大な駐車場に車は無く、やはり、閑散としている。
大きな土産物センターも、まだまだ、開店の準備。
食堂はまだ人気なく、スタンバイの気配もない。

ロープウェイの改札口へ。
別に頂上に登る気もなく、ベンチで休む。
まだまだ、時間はたっぷりとある。
ぼやっと休むうちに、何となく、ロープウェーに乗ることに決まる。
あてもなく、ぶらりぶらり、ゆったりの旅は楽しいものだ。

微かな陽光、そして朝
標高差300メートルを登り切り、頂上に到着。
風もなく、穏やかな陽光が暖か。
暖かさに誘われて、山々の木々も笑っている。
青い澄み切った空。
山頂に雪をたたえる富士山が、正面に、典雅な姿を見せる。
銀灰色の雲の帯、ゆっくりと、左から右に流れる。
展望台に上る。
ほとんど、人影はなく、時おり、カップルが現れるのみ。

朝焼けに輝く海
入り口近くの壁に、何となく目をやる。
すると、電気のコンセントがあった。
殺風景な展望台、時には、何かのイベントや展示会に使われるのだろう。
断る人も、誰もいない。
そっと、デジカメの充電をさせていただく。
充電期間は、約40分余り。
全面ガラス張りの展望台の窓から、陽光が強く射し込む。
ゆったり、冬の日溜り、日光浴と決め込む。

日本三代古泉の走り湯の前にて
広い丘の彼方、駿河湾が広がり、左手には、懐かしい大瀬岬。
十国峠の山頂も、だんだんと、観光客で賑やかになってきた。
陽光を浴びながら、うとうとしているうちに、とりあえず、充電は終わり、階下へ。
山頂へ吹く風は、少し冷たかったが、燦々と照りつける陽光は、初夏の陽射し。
どっかりと、居座った富士山は壮麗。

富士山を背景にして、念願の写真を撮る。
たっぷり、山頂の時間つぶしは終った。
ロープウェーを降り、改札口に来たら長蛇の列。
早起きは三文の得とはこのことなのか。
駐車場も、観光バスやら自家用車で、一杯に塞がっていた。

ホテルの前 走り湯の神社
十国峠をあとに、熱海へ。
ここから緩やかな下り坂。
30分くらいで熱海に着いた。
まだまだ時間はある。
今日の旅は、熱海梅園でしめよう。
やがて、梅園通りに出る。
きっと、この街道を進めば、梅園に到着するはず。
くねくねした下り坂を進むと、車の長い渋滞。
観光客が、歩道を、数珠繋ぎに歩いている。
何処の駐車場も満車。
今日の観梅は諦め、明日へ、急遽、変更。
何時も、ほとんど、行き当たりばったりの旅。
何時でも、自由に変更できるのが楽しい。

梅園に続くトンネルと滝
時間つぶしに、錦ヶ浦へ。
絶好のポイントはすべて私有地。
美麗な景観を、すべて、私有地とは悲しい。
個人や企業が、景観を支配するのは許せんなどと、ちょっぴりの義憤。
食事するところもなく、来た道を戻る。

戻りの道は、とても混んでいた。
後で分ったことだが、河津桜見物の、帰りの列に、巻き込まれたようだ。
とろとろ、牛歩の歩みが続く。
しばらくして、何とか渋滞の呪縛から、解放される。
熱海の地下駐車場へ、車を止め、街を散策。

梅園から見た滝の前で
そろそろ、昼時、何処かで食事でもと、店を探す。
街は、観光客も少なく、閑散としている。
だが、なぜか、人だかりで、列をなしてる店もあった。
私の基本は、食事するのに、並んで待たないがモットー。
手頃な場所もない。

ママは少し、歩き疲れ気配。
近くに、ランチサービスのレストランがあった。
テラス風の瀟洒な建物。
表のメニューを見て、期待もせず中へ。
ママは、ベーコンとマッシュルームのスパゲッティーセット。
私は、シーフード・スパゲッティーセット。
そして、生ビール。

流れ落ちる滝と清流
まだまだ、不慣れなウェーター君のサービス、
危なっかしくて見ていれない。
でも、精一杯やっている姿があどけなく可愛い。
早く、慣れて、早く、お店の戦力になれよと老婆心。
ホールの真ん中には、テーブルが置かれ、そこはサラダバー。

意外と、サラダもケーキもしっかりした味。
盛り替えもしている。
だいぶたってから、スパゲッティーが運ばれて来た。
太さは1.5ミリくらいで、ボリューム感はないが、アルデンテでしっかりした味。
仕上げのコーヒーを飲みながら、気持のよい、小1時間の昼食。
レストラン「なぎさ」は、〆て2500円はお値打ちだ。

清流に架かる、情趣溢れる橋
外に出て、熱海サンビーチに出る。
ヨットハーバーにはたくさんのヨットが繋留されている。
紺碧の海、空は青く高く、雲海は陽光に輝き、かもめが空を舞う。
岸壁から釣り糸を垂らす人。
公園で日光浴のカップルや家族ずれ。
ベンチで肩を寄せ合う恋人達。

ぶらぶらと、人工の海浜へ。
浜では、子供達が、波と戯れている。
時間は2時30分。
海のホテル「中田屋」へチェックイン。
駐車場を出て、熱海ビーチラインを進むと、すぐ左手にあった。
今まで、この前を、いったい、何回通ったことだろう。

清流は陽光に輝く
部屋は5階。
正面には、相模湾。
きらきら光る海の向こうに、軍艦のような形の初島が、蜃気楼のように輝いていた。
扉を開け、ベランダに出る。
生暖かい潮風に吹かれながら、広大な海を眺める。
夜通しの旅、まだ覚めやらぬ、旅の余韻に浸りながら、暫しの休息。
まだまだ、食事には早い。

私は、1階の大浴場へ。
まだ、大浴場には誰もおらず、広い浴槽に足を一杯に伸ばし、頭から温泉をかぶる。
何時もは、到着が遅くて、風呂場の独占。
だが、今は、早すぎてだから、我ながら感心しきり。
温泉を出て、部屋に戻り、目の前に広がるパノラマを眺めながらの、湯上りのビール。

夕食は6時。
まずは、一日中運転をしたママと生ビールで乾杯。
海の幸をたっぷりと味わい、飲む酒は最高。
暮れ行く相模湾を眺める。
残光に輝く漣は、金隣のように煌めく、琳派の世界。
遠くに浮ぶ初島も、洋上の夕闇の中へ消えて行く。

満開の紅梅・白梅
部屋に戻り、一休みの後、露天風呂へ。
屋上の露天風呂に浸かり、ゆったりと足を伸ばし、空を仰ぐ。
月が輝き、星が煌めき、柔らかな風が吹き渡る。
身体の節々、骨の髄まで、温泉でひしひしと蘇生される。

誰もいない露天風呂。
小さな声で囁いてみた。
「楽しい旅をありがとう。何時までも、元気で働かしてください」
人間、言葉に出すってことが、こんなに素敵なことかと、今更ながらの感慨。
部屋に戻ると、窓外の海は暗く、初島の灯も落ち、夕闇におぼろげに浮ぶ。
今日一日、私達の旅の1幕は終った。

昼下がり、冬日の影は長く
翌日、朝の日の出を、ぜひとも見ようと、5時頃起きるが、まだ日は暗い。
うとうとしながら、また、布団に入る。
そして、6時過ぎに目を醒ませば、海面をきらきらと、朝日が海面を照らす。
金色の燐光、海面は、神々の黄金の道。

そして、海上には、くっきりと、初島の姿が浮かび上がる。
どうやら、今日も快晴のようだ。
8時から、食堂で朝食を取る。
バイキングスタイルで、料理は盛りだくさん。
あれやこれや、ついつい、食べ過ぎて1時間。

花の蜜に誘われる小鳥
部屋に戻り、一休み。
チェックアウトは11時。
屋上の露天風呂へ。
脱衣所には、湯上りの人たちがいたが、浴場には誰もいない。
遠くに、陽光に光る相模湾。
そして、初島がぷかりと浮ぶ。

手足を大きく伸ばし、深く深呼吸。
熱海の湯が柔らかく肌を包み、身体の細胞を、ゆっくりと蘇らしてくれる。
都会生活の垢や滓を吐き出し、新しい生命の源を、注ぎ込んでいるようだ。
高く青い冬空を、トンビが一羽、風に吹かれながら旋回している。
吹く風は生暖かく、柔らかく香る。

満開の紅梅
11時少し前に、チェックアウト。
ホテルの人たちは、どの人もみな、さり気なく温かいもてなし。
爽やかな気分で、ホテルを後に。
ホテルのすぐ裏にある、 約1300年前の養老年間に発見された、
「日本三大古泉」の一つ、伊豆山の走り湯に出かけてみた。

尽きることなく湧き出る湯が、奔流のごとく、
海へ走るように注ぎ出ていた様から、走り湯と言われたそうだ。
今でも、洞窟の中には、114本の源泉がある。
そして、毎分約170リットル、平均約66.7度の湯が湧き出ている。

源泉は、まさに、ホテルの裏。
私達が泊まった、ホテル中田屋が、源泉の管理をしているような風情。
狭い洞を、中腰で進む。
湯煙が立ちのぼり、温泉の熱気で熱い。
中には、脈々と温泉が沸いている。
外に出て、小さな神社に参拝。

猫の額ほどの、小さな境内の桜が、見事に咲いていた。
遠くには、相模湾が、陽光に煌めく。
この神社の上には、伊豆山神社があるようだ。
この神社で、後に、鎌倉幕府を開府した、源頼朝と北条政子が愛を誓い合いあったそうだ。
そして、当時の修験者の霊場でもあった。

駐車場を出て、熱海市街地を抜け、熱海梅園へ。
熱海の街の道は、狭く、入れ込んでおり、上り下りの坂が多い。
梅園通りの名前を頼りに、かなりきつい坂道を行くと、車の渋滞。
片側1車線の道、待つしかない。
やっとのことで、梅園へ。
だが、駐車場は何処も満車。
やっと見つけた駐車場は、梅園まではかなりの距離。
仕方なく、駐車場代500円を支払い駐車場へ。

下り坂をのんびりと進む。
歩道の下から、清流の音が聞こえる。
澤田政廣(さわだせいこう 1894~1988)記念美術館から梅園へ。
急な階段を下りて、岩を刳りぬいた、細いトンネルを進む。
二人並んで進めないほどの広さ。

崖側を彫りぬかれた窓を、岩の上を伝い落ちる滝。
幾つもの窓からも、滝の水が飛沫となって光る。
トンネルを抜けると、いよいよ梅園。
たくさんの観梅客で溢れていた。
太陽は中天に昇り、陽光は眩しい。

梅園には、朱色、桃色、白色の梅の花々が咲き匂う。
清流を渡る橋に寄せる紅梅。
花の蜜を吸う、緑色も鮮やかに、目の周りは白く可愛い、たくさんのメジロが囀る。
朱色鮮やかな梅花・鹿児島紅に、メジロは絵になる。
楽しそうに、美味しそうに、リズミカルに、花蜜をついばむ。

艶やかにに匂い咲く、紅白の梅の回廊。
老若男女の見物客が、楽しげに行き交う。
梅を背景に、写真を取り合う人。
梅の花を、真剣な眼差しで、アングルを探すカメラマン。

売店は賑やかな人だかりだ。
茶店の特設の桟敷では、団体客の宴会が始まっている。
梅の香が匂う満開の庭園、飲む酒も、きっと甘露。
わたしも一杯といきたいところだが、今日は東京で仕事だ。

それに、付け加えれば、飲みたい酒がないので、我慢もできる。
あちらこちら、梅の花と、柔らかな陽光に誘われながらの漫遊。
回遊道の柵の中、いたるところに、楚々として、黄色い花を咲かせた水仙。
何処か取り澄まし、凛とした姿は健気で愛くるしい。

イベント広場で、一休み
梅園の正門を出ると、歩道沿いに、土産物屋や売店が続く。
ほかほかの名物饅頭を、美味しそうにほおばるママ。
すこし、甘さ控えめの漉し餡は、懐かしい味。
途中のお茶の試飲サービスも、静岡ならではの美味しさ。

道路を渡ると、川沿いの熱海桜が満開。
生暖かい風に揺らめき、強い、昼時の陽光で、桜花は朱色に輝く。
河津桜の淡い桃色はパステルの調べ。
熱海桜の華やかな色調は、油絵の朱の奏で。

健気に咲く水仙
ぶらぶらと、戻り道。
正門から入りなおし、催し広場のベンチに坐る。
昨日は、この会場で、熱海芸妓衆の踊りなど、色々な催しがあったようだ。
うららかな陽光。
爽やかな陽気に誘われ、知らず知らずのうとうと。

右に左に身体が揺れながら、暫しの日光浴。
身体の毒素が抜け落ちたようで、どこか軽やか。
空は青く高く、陽光は輝き、吹く風は梅香の匂い。
急な階段を上り、澤田政廣記念美術館の庭で、コーヒーを飲む。

美術館の庭は、彫像のテラス。
燦々と降り注ぐ太陽を浴びながら、庭に咲き誇る、
熱海桜を愛でながら飲むコーヒーは至福の時。
時間はまだ早い。
これから、ゆっくり、ゆったり、美しい熱海の海岸線を北上して、東京へ戻ろう。
紅梅・白梅の揃い踏み 澤田政廣記念美術館の庭で

穴守稲荷へ
2/4<日>


境内のお狐さま
土曜日の飲みすぎが祟り、日曜日の目覚めは遅い。
すでに、時間は昼下がり。
それでも、決めた計画、実行あるのみ。
3時半、すでに、日は傾き始め、雲海は残光に耀く。

首都高を羽田で降りると、すぐ近くに、目的地・穴守稲荷の表示板。
だが、うっかりの通り過ぎ。
途中でUターン。
すこし戻り、今度こそと目を凝らし、左折すると、そこは、穴守稲荷。
神社の中の駐車場に車を止める。

お稲荷様の使い、狐さまの眷属
すでに、日は落ち薄暮。
境内には人気もなく、ひっそりとしている。
手水舎で口をすすぎ、手を清め、心静かに、本殿に進む。
緩やかな階段を上がり、鈴を優しく響かせ、お賽銭をあげ、手を合わせる。
階段を下りると、すぐ隣には、赤いちいさな鳥居の回廊。
その千本鳥居の奥、ひっそりと、奥之宮が見える。
すでに、日はさらに翳り、奥之宮の明かりが鈍く輝く。

本殿
千本鳥居の回廊を、真っ直ぐ進むと、奥之宮。
すでに、扉は閉ざされ、ひっそりとしていた。
もっと早ければ、この院で、霊験あらたかな御神砂を頂けるのだがと溜息。
なにせ、残念至極、出てきた時間が遅すぎた。
霊妙に手を合わせる。
赤鳥居の隣に、小さな祠があり、子供を大切に抱える狐さまたちが、両脇に鎮座。
その近くにも祠。

やはり、狐さまに護られて、何気ない佇まい。
境内の大きな狐さま、祠の小さな狐さま。
どの狐さまも、優しく、子狐を抱きかかえて、おだやかな面立ち。
狐さまの幸せが、境内に充満しているようだ。
赤鳥居の横を、ぶらりと歩いていると、またもや、小さな祠。
その横に、なんと、御神砂が2袋置いてあった、

千本鳥居と奥之宮
きっと、誰かが、奥之宮から、此処に移して、置いてくれたのだろ。
好意に甘えて、1袋だけ頂き、上着の内ポケットへ、御所大事にしまう。
赤鳥居の回廊の前から、奥之宮を望む。
人によっては、奥之宮の前に、白い狐が見えるという。
私にも、何となく、白い狐が何匹かいるように見える。
きっと、それは錯覚、思い過ごしなのだろうけど、見えたことに決める。
境内はすっかり暗く、暖冬とはいえ、すこし、肌寒くなってきた。

築山はお狐さまに護られて
社務所の玄関は閉まっていた。
玄関の前に、佇む我々を見つけ、若い神官が、鍵を開けてくれた。
「何か御用でしょうか?」
「神主さんはいらっしゃいますか?」
「いえ、ただいま、出かけられました」

「そうですか。それでは、神主さまにお伝えください。埼玉のHさんがよろしくとのことです」
「かしこまりました」
以前、穴守稲荷で、神官の修行をしていたHさんに勧められて、
今日、穴守稲荷にやって来たのだ。
今日頂いた御神砂も、Hさんが来店した時に、作法通り、玄関に撒いて貰うつもりだ。

せっかくの穴守稲荷。
この界隈、ぶらり散策と決め込む。
昔懐かしい風情の商店街。
すでに、多くの店は閉じられ、閑散としている。
ローカル線のような穴守稲荷駅。
踏み切りを渡ると、ひっそりと、小奇麗な和菓子屋さんがあった。
「礫崎屋」さんの扉を、がらりと引き開け、なかに入る。
ショウケースの中の和菓子は、派手なさはないが、どれも美味しそうだ。
真っ白な薄皮に巻かれた俵型のお饅頭・吹雪饅頭を一つ。
漉し餡と粒餡の2種類・穴守最中を二つ。
みたらし団子5本を購入。

奥之宮の前で
玄関から表通りへ。
店灯りの消えた商店街を進むと、趣のある居酒屋「ひもの屋・網十」があった。
店頭に置かれたメニューを見る。
なかないけそうな予感。
玄関を開けて中へ。
いらっしゃいませの華やぎのある声が響く。
飾り気のない黒の基調の外観とは異なり、店内はなかなか豪壮な趣。
一段高い焼き場で、いろいろな肴が炭火で焼かれている。
私達は、焼き場の前、店内に造られた、岩石からちょろちょろと流れ落ちる、滝沿いの席に着く。

この築山の横に、御神砂が置かれていた
まずは、生ビールで咽喉を潤おす。
車の運転役のママは、勿論、お茶だ。
お品書きを見ると、どうやら、ここの名物は干物のようだ。
ビールを飲みながら、注文した料理が、次々にテーブルへ。
イカの魚醤に漬け込まれた、さばのいしる。
淡いこげ茶色に焼かれた身は、箸でほぐすと、さくりと皮から外れる。

口にふくめ、噛むと、もっちりとした食感。
そして、いしるの芳醇な香が、口内に、甘やかに広がる。
飛び魚の干物・あごが一匹。
鰯のような風合いだが、確かに、両脇には羽がついている。
強火で焼かれたあごは、手で持つととても軽く、細い木炭のようである。
がぶり噛みと、意外に軽く噛み切れる。

和菓子屋さん
かさこそと噛み味を楽しんでいると、干物特有の懐かしい薫臭。
やはり、この香、この味はお袋の味、日本人の酒の肴。
やはり、ここは、燗酒に限る。
お店推奨の酒、灘の酒・杜氏鑑のぬる燗を注文。
まぐろの刺身。
ごてっと切り込まれたまぐろの刺身が、豪快に盛り込まれている。
口に入れて噛むと、ひやっとした食感のあと、もっちりとした歯ごたえ。
そして、まぐろの旨味が広がる。
美味しいので、もう一皿注文。

居酒屋さん
すると、今度は、中トロほどではないが、微かに、白いサシが入った赤み。
ボリュームが違うので、ママはあれって怪訝な顔。
大根のつまに大葉敷いて、その上に、短冊ようの赤身。
注文したものが同じなのに、さく取りも違い、ものも違うのは、すこし残念。
レバーの大串焼き。
串から身を外す。

中まで熱はしっかりと通っているが、生焼けのように柔らかくぷちっとしている。
辛し味噌をつけ噛む。
ぷっくり、むっちり、ジューシーで、レバーの滋味が味噌と共鳴する。
さらに、和歌山県の地酒・万葉浪漫を冷やで。
そして、手羽先の焼物。
手羽先の皮はぱりっと焼かれ、香が優しく鼻先を漂い、
手羽正肉はむちっと盛り上がり弾ける。

店内の焼き場
生を一夜漬け込んだ島ホッケ。
強火の遠火で、こんがりと、狐色に焼きあがっている。
箸で身をほぐすと、ぷちリと弾ける様に身が離れる。
櫛型に切られたレモンを搾ると、身がしっとりとした輝きをおびる。
口に含むと、熱々の身が踊るように、ホッケの蛋白ながらも、旨味が広がる。

酒の飲めないママは、干物のお茶漬けを、美味しそうに食べている。
だんだんと、奥の様々に区切られ、趣向を凝らしたお座敷も、賑やかになってきた。
良き肴をつまみながら、酒も進む。
酒どころ、広島県西条の銘酒・白牡丹を冷やで。
ママも明太子おにぎり。

ぼてっと、大人の拳ほどある、明太子がぼそっとのった、大きな大きなおにぎり。
それを、大きな海苔がごそりと被せてある。
軽く飲み、食べる予定が、充分の腹応えになった。
さすがに、私も、ほろ酔いの上機嫌。
そろそろ、穴守稲荷さまとお別れをして、板橋まで帰らなければならない。
会計は、〆て7570円。
穴守稲荷のひもの屋さま、大変に、美味しゅうございました。