小さな旅&日記
みんなで伊豆へ、初夏の旅 
2006.5.13-14

土肥ー清水のフェリー 久能山・東照宮
5月13日(土)14日(日)、連休をとって伊豆へ。
去年から今年にかけて、何回、伊豆に出かけただろうか。
今度は土肥と久能山へ。
そして、今年、二度目の堂ヶ島へ。
初日の土曜日、天気は予報通りの生憎模様。
秩父・上尾の親戚連中とは、沼津で落ち合う計画。
秩父からは、雁坂峠を抜け、甲府から山中湖を経由して、御殿場、そして沼津へ。
我々は、走りなれた東名で真っ直ぐ沼津へ。
2時間たらずで沼津へ到着。
柿田川湧水公園
携帯に連絡が入る。
秩父から到着まで、まだ時間があるようだ。
ママの計画した、「柿田川湧水公園」へ向かう。
沼津から10分程のところにある。
実際は、道に迷ったので、もう少し、時間オーバーなのだが。
公園は閑散としていた。
入口から公園の遊歩道へ。
  
柿田川湧水公園
傘をさしながら、森閑として肌寒い木々の冷気を浴びながら進む。
雨に木々が打たれ、森の木々の精霊の香気が充満している。
おぞましい人間の滓を、洗い流してくれるようで気持ちよい。
富士山から湧き出る清冽な水の中、育つ草花は生き生きとして美しい。
水辺に咲く黄色い菖蒲が、楚々として可憐。
 
堂ヶ島の遊覧船
雨に濡れた遊歩道を行くと、広い川が流れ、晴れているなら、川面はきらきら輝いているのだろう。
その向こうには、きっと、秀麗な富士山が見える。
木々に囲まれた道を進むと、小さな湧水池があった。
水は綺麗に澄み、遠くで鳥の鳴き声。
新緑の芽吹き、雨に濡れて緑が冴える。
雨に煙る木々の香気に誘われながら、階段道を歩くのは楽しい。
小さな湧水公園を、ぷらぷらと一回りの散策。
 
そろそろ、沼津市場に集合の時間。
すでに、一時丁度のお昼時。
秩父と東京はうまく合流。
上尾ティームは少しの遅れで、私たちは先に食事。
この前来た時は「千本一」で、地魚の鮨定食を食べた。
今日は、漁師鮨のうたい文句「武田丸」
さすがに、昼時、混んでいた。
 
遊覧船から見た島々
しばしの待機。
八人の席が空き、座敷へ。
刺身の豪華な定食。
マグロの丼セット。
それぞれが、好きな料理を注文。
出てきた料理は、どれも新鮮でうまそうだ。
でも、魚市場のすぐ隣だからと言って、けっして、値段が安いわけではない。
たしかに、ネタは良くて、新鮮。
このあたりの料理屋、漁師料理でネタが良いで、繁盛しているのだろう。
しかし、サービスは、けっして良いといえない、どこかぞんざいな感じ。
見たところ、ほとんどが県外。
やはり、観光地の強みなのか。
 
私は、静岡名物の生シラスに、生の桜海老、そして、大トロの握り。
生シラスたっぷりの軍艦巻き。
ぷりぷり、ぷちぷち、口にふくむとぷちょっと弾け、さすが新鮮。
酢飯の相性も抜群。
ほんのりと薄桃色の桜海老。
つるりとした感触。
ぷちっと口に含むと、甘い海老の旨味が口に広がる。
甘海老よりはあっさりしてるが、なかなか気品のある味わい。
長さ一センチ五ミリ位の海老なのだが、高雅で気品がある。
  
天窓洞と船内
店の中の賑わいも、だいぶひけてきて、空席もちらほら。
上尾ティームも目出度く合流。
食事も済ませ、いよいよ、土肥のホテルへ向かう。
天気は回復する兆しもない。
せめて、本降りにならなければと妥協の心境。
ここから、堂ヶ島まで何処を見学する事もなく、三台の車は、一路西伊豆路を南下する。
初夏の136号線。
 
ホテルから眺める、土肥港
雨に煙る色とりどりの木々の緑は、日一日、色彩も鮮やか。
この道を、去年から今年にかけて、何回通ったのだろう。
眼下に見渡す広大な駿河湾。
しかし、今日は、水平線も見えず、灰色の空、煙る霧、どんよりと群青色の海が広がるだけだ。
小高い伊豆の愛くるしい山々。
トンネルを越えるたびに、伊豆の里山は鄙びて、懐かしい日本の風景の趣きを増す。
雨で増水した、狩野川の清流。
彼方に煙る伊豆の山々。
山間の道を登りつめると、霧に煙る駿河湾が大きく広がる。
快晴ならば、まさに、風光明媚な絶景なのだが。
豪華な料理 どでかいアワビ
戸田を過ぎ、恋人岬を過ぎると、やがて、懐かしい堂ヶ島に到着。
加山雄三ミュージアムに駐車。
さすがに雨、閑散としている。
でも、交通整理の叔父さん曰く、少し前までは、人でごったがえしていたとのこと。
加山雄三のサイン会があって、ファンが大勢詰め掛けていたそうだ。
私たちは地下道を抜け、チケットを買い桟橋へ。
相変わらずの小糠雨、五月雨、菜種梅雨か。
快晴なら、デッキでの眺望を楽しみたいところだが、今日は無理。
やがて、観光船はゆっくりと向きを変え動き始めた。
  
楽しい宴会風景
船内に流れる説明を聞きながら、船は海に浮ぶ奇岩や岩礁の間を滑りぬけてゆく。
船の窓越しに見る景色、いがいに美しい。
波の飛沫を窓辺に受けながら、遠くに奇岩の数々。
やがて、天窓洞へ。
エンジン音は洞窟の中で、不吉な響きを奏でる。
やがて、光がぱっと燐光のように煌めき、海水はエメラルドグリーンに輝く。
閉ざされた洞窟に、一閃の光り。
海に映し出される光の静寂は幻想的。
  
元気いっぱい、いつもニコニコ泰杜くん
やがて、船は岩窟を抜け海上にでる。
狭い岩穴から抜け出したせいか、駿河湾の広さ青さが目に焼きつく。
雨はいぜんと降り続ける。
海上に屹立する奇岩の数々は遠ざかり、堂ヶ島の桟橋がだんだんと近づいてくる。
20分の遊覧は終った。
  
いよいよ、恒例のカラオケ大会の開始
でも、時間以上に、充分に、奇岩めぐりは堪能できる。
すでに、時間は5時を回っている。
途中、ガラスのミュージアムへ立ち寄り、目的地桂川シーサイドホテルへ。
ホテルの全室から、土肥の港を一望に出来る絶好な立地。
部屋に入り、一休みして、夕飯まで、温泉にのびのび浸かる。
大浴場はとにかく広く、ゆったりとしている。
他に客も殆どおらず、手足を大きく伸ばし、彼方、土肥の港を見渡す。
隣には露天風呂。
木々に囲まれ、雨に濡れた木々からは、精妙な香気が流れる。
  
息もぴったり、三橋さんのデュエット 私も、久々のカラオケ
そして、七時。
我らの夕食の宴が始まった。
席毎に刺身は豪華船盛り。
有頭海老の刺身。
天麩羅。
酢の物。
和え物。
塩辛。
名物のトコロテン。
茶碗蒸。
茶蕎麦。
etc
圧巻は、アワビの地獄焼き。
大きな丸のアワビが鍋に。
蓋を開けてみると、生アワビが蓋にくっつき、もぐもぐ動いている。
中には、サイコロほどのバターが。
火がつけられ、やがて、鍋が蒸気で充満。
蓋を開けると、フワーっと蒸気が立ち上り、バターの香が広がる。
ナイフいれると、すーっと身が切れる。
口に入れると、磯の香とバターの芳香が交じり合う。
噛めば、身は程よく柔らかく、アワビの甘さと磯の香が、口の中にじゅわーっと広がる。
祭り男、昌士さんの秩父音頭 音頭につられ、踊り始めた、福島夫妻
美味しい料理に、旨き酒。
そして、楽しい親戚との語らい。
やはり、多くの心を許せる友と過す宴は楽しい。
酒も入り、宴も佳境に。
次々と、壇上では、カラオケで熱唱の数々。
私も、久しぶりのカラオケ。
たまに歌うせいか、なぜかいまいち声の伸びが悪い。
でも、気兼ねなく、心許せる友と、思い切り、声を出すのは楽しい。
  
夜も更け、宴会も佳境に
若者達の歌は、私の知らない歌が殆ど。
私ももそこそこ、世間知らずの浮世離れか、浦島太郎。
秩父夜祭・本町連の昌士さんが皆野音頭を歌えば、福島夫妻が踊り始めた。
まだまだ一歳にも満たない赤ん坊の泰杜君、泣かずぐずらずとても元気だ。
  
新潟の佐渡ヶ島から駆けつけた、朝日診療所の堀院長の、みごとな美声が響く
にこにこの笑顔可愛く、今日はみんなのアイドル。
宴会も二時間経過した頃、秩父夜祭でお世話になる、朝日診療所の堀さんが登場。
昼の三時まで、新潟県の佐渡ヶ島で診療。
そして、水中翼船で新潟へ。
上越新幹線で東京。
そして、伊豆急で修善寺へ。
そこから、タクシーを飛ばして三十分。
やっとのことで、この時間に辿り付いた。
なんとも忙しい一日。
駆けつけ三杯。
 
ホテルからの、朝の眺め
料理をつまんで、早速カラオケ。
旅の疲れも吹き飛ばす、見事天晴れな歌いっぷリ。
伸びのある高音。
豊かな声量。
堀さんをまじえ、カラオケ大会はいよいよヒートアップ。
貸切の宴会場、土肥の夜はとっぷりと暮れた。
気がついてみれば、なんと11時。
そろそろの終宴にしなければ、明日が大変。
部屋に帰り、再度の賑やかな飲み直しで長い一日は終った。
ホテルの玄関、全員集合
翌日、朝風呂を浴びながら見る土肥の港は、かすかに霞んで見える。
快晴とはいかないが、何とか最悪の雨は避けられそうな空模様。
広い大浴場には人もいず、温泉にゆったり浸かり、足を伸ばして、大きく深呼吸。
ざぶーっと頭からお湯を浴びると、体中にエネルギーが呼び覚まされるようだ。
風呂上り、大広間で、朝食はバイキング。
私たちが食堂についた頃、すでに仲間たちは食事を済ませていた。
昨日、飲みすぎたわりに、食欲があるのは嬉しい。
私は、野菜やフルーツ類をたっぷり取り、まずはエネルギーの補充を充分に。
  
乗船するフェリー
部屋に戻り、一休みして、10時前にはチェックアウト。
ロビーで、船の時間潰しをして、土肥港のフェリー桟橋へ。
すでに、桟橋では、フェリーに乗り込む車の長い列が出来ていた。
出航は10時50分。
暫らくすると、乗船時間がやってきた。
車は次々と船の中に吸い込まれてゆく。
これから、清水港まで、65分の船旅が始まる。
いよいよ、フェリーへ フェリーから見た、ホテルの全景 遠ざかる、土肥港
ボーっと汽笛が咽び、ドンドンドンとエンジンの音が重低音で響く。
桟橋を船は離れる。
一夜過した土肥のホテルの遠景。
土肥の港から、船は群青の海に、白い一筋の航跡を残しながら進む。
空は曇り、霧に霞むように、巨大な雲が流れる。
すでに、土肥の港は遠く、伊豆の小高い山が眺められるだけだ。
広い船室から、デッキへ。
階段を登り最上階へ。
風は冷たく強い。
船は、ゆったりと、右に左に微かに揺れる。
  
駿河湾に浮ぶ富士山<画像をクリック>⇒拡大 フェリーのデッキ
船は一路、大きく海を切り裂くように清水港へ。
すでに、航海の半分は通過したのだろうか。
進行方向右手に、巨大な雲海の彼方、大きな雪をいただいた富士山が見える。
富士山の長くなだらかな裾野は、雲と霧に隠れ、3合目辺りから上の部分が顔を出している。
どんよりと、弱い陽光に照らされた雲海の微かな輝きに、巻かれるように、富士山の山容。
晴れているならばと、ついついないものねだりも仕方がないほどの絶景。
陽光に輝く富士山が、煌めくエメラルド色に輝く駿河湾を抱くように、どっかと佇む姿は、蜃気楼のように美しいのだろう。
生憎の曇天、雨でないだけまだましと、仕方なく、寂しくも納得。
阿佐美さん&堀さん 私&ママ
でも、自然というものは、どんな状態でも、そこには、厳然とした美が存在する。
味わう側、観賞する側の心により、今ある姿と向き合えば、
そこには、そのときしか味わう事の出来ない、一期一会の美を楽しむ事が出来る。
大きな雲海はますます大きく流れる。
富士山は雲に巻かれ、消え入りそうになるが、さすが霊峰、荘厳なまでに輝く。
昔は田子への航路があって、富士山を正面に、富士山に向かって進むさまは、原語に尽くせぬ素晴らしさだったらしい。
 
微かに見える、富士山を背景に
しかし、利用客も少なく、残ったのは、清水港一本の航路。
富士山と並走していた船は、いよいよ、清水港に近づいて来た。
遠くには港の港湾施設が建ち並ぶ。
左手には、三保の松原が細長く広がる。
港に近づくにつれ、海の色はだんだんと暗く、群青色に黒色が増す。
海がだんだんと汚れていくのがよく分る。
自然は破壊されてからでは間に合わない。
自然に対しては、何時も尊崇と畏敬の念をもっていないと、何時か必ず逆襲される。
フェリーの船内 フェリーから眺める、三保の松原 清水港
時間通り、65分の船旅はあっという間に過ぎた。
フェリーは港に入り、私たちは清水に上陸した。
これから、三保の松原を通過して、徳川家康の菩提寺・久能山に向かう。
天候はだいぶ回復して来たが、まだまだいまいちの空模様。
ナビゲーション付の秩父の車が先導役。
清水港からは距離は10キロあまり。
時間にすれば30分ほどだ。
しかし、車のナビは意外にお馬鹿。
あれあれ、まあまあで静岡の駅近くまで来てしまった。
ロープウェイ東照宮駅からの眺め 東照宮の桜門と急峻な階段
途中で停車し、戦略の建て直し。
やっとの事で、日本平に到着。
大きな富士山が、薄もやの中、雲海に包まれるようにして、威容を誇っている。
ここから見る富士山は日本一の誉れが高い。
堂々として、優雅にして、優美。
威厳があり、神々しささえ漂う。
ここから、登りののなだらかアスファルトの道を進めば、
目的地の久能山・東照宮へ。
そして、ロープウェイ乗り場に到着する。
道の終点は広い駐車場。
そして、ロープウェイの乗車駅日本平。
鳥居をくぐり、拝殿へ 古い鼓動 拝殿
我々は、往復1100円のチケットを買い乗り込む。
するすると、久能さ山に向けて5分の旅。
前方には、山の頂上辺りに寺の屋根。
その向こうには、駿河湾の紺碧の海。
そして、空は何処までも蒼く、空の雲海も輝く。
眼下には、深く切り立った谷。
新緑に光る深い木々の中、淡い紫色の藤花が、ひそやかに、そして、艶麗に咲いている。
  
きんぴかな拝殿と欄干の獅子
ケーブルを降りて、東照宮へ。
楼門へ向かう道、入場料が350円とは驚き。
チケットを購入してなかへ。
急な階段を登ると、江戸時代に創建された由緒ある山門。
潜って、更に進むと金と朱に彩られた本殿がある。
社殿で観光客に説明する人、参拝する人。
さすが、徳川家康の菩提樹。
こんな天気でも、訪ねる観光客もそこそこにいるからさすが。
 
参拝をして、家康の墓所まで、工事中の特設の木の階段をのぼる。
木々は深く、森厳。
ひんやりととした杉の木立の中、墓所があった。
柵に囲まれた墓所は、威風堂々、そこに、家康が眠っている。
手水鉢の後ろには、大きな杉の木、「金のなる木」。
家康公の霊廟 金のなる木と手水舎 三本の金のなる木
昔、家康が家臣達に語った。
自ら三本の木の絵を描き、「よろづ程のよ木」「こころざしふか木」「しょうじ木」と書き、
これを心掛ければ必ず富貴を得られると。
そして、三代将軍家光が植樹したのものが現在にいたる。
樹齢300年を越えるこの杉に、人々は幸運の願掛けをするようになる。
信仰心の薄い我々、金のなる木と聞いて、願掛けをしたのは勿論のこと。
朝のチェックアウトから、すでに、5時間は経過。
ロープウェイで下り、あとは、東名の道中。
途中、富士川のインターで、みんなで食事をして別れた。
天候には恵まれなかったが、それはそれで感動満載。
また、何時の日か、皆で愉快で気ままな旅をしたいもの。
  
ロープウェイからの眺望
子の権現へ
2006.5.8(月)

秩父のママの実家で一泊。
昨日とうって変わって、今日は晴れ。
芝桜でも見物したいところだが、許せる時間の余裕無し。
昼過ぎに実家をたち、芝桜に未練を持ちながらも帰路へ。
何時も気になる、吾野あたりの標識、子の権現。
今日は、思い切って出かけてみる事に。
子の権現、平安時代に創建された。
正式名は天龍寺だが、子の権現と呼ばれひたしまれている。
 
飯能の手前、吾野から右に折れ、なだらかに傾斜する、川沿いの山道を進む。
道はだんだんと細く、人里も離れ、傾斜も急になる。
森は森閑とし、木々の樹影も深く、木漏れ日が樹林の緑を際立たせる。
ますます細く、急峻な道を進むに従い、天候も少し危うく。
やがて、霧が深く垂れ込め、視界も頼りなくなる。
グイーン、グイーンとエンジン音を響かせながら、登る道はますます険しい。
すれ違う人もない、寂しい山道。
 
東京から、幾ばくもない距離。
信じられないような秘境のおももち。
道は一本道。
間違いなく、子の権現には到達するはずなのだが、やはり、一抹の不安がよぎる。
かなり、霧が深く、車のフロントガラスを、ワイパーで拭い去るほどに深い。
蛇行しながらの、かなりの急勾配の道を進みきったところに、子の権現の駐車場があった。
車を止め外へでる。
山頂の冷気が、肌を刺すほどに冷たい。
足元を灰白色の霧が、ゆっくりと、悠久の時を流れていく。
権現様の山門まで、登り道を歩く。
山の霊妙な香気が身体を包み、都会の垢を洗い流してくれるようで清爽。
 
茶店が二軒。
しかし、すでに、店じまいを始めている。
月曜日の三時すぎ、客などいるはずもない。
前方には大きな格式のある山門。
それを、まもる大きな仁王様がどっかりと二体。
山門を潜り中へ。
正面に、茅葺屋根の本坊。
左手の谷は深い奈落、厚く垂れ込めた霧の中、杉や竹や檜が幾層にも重なる。
深山幽谷、山水画の世界。
幻想的で幽玄。
思わずの感動。
寄り道した感慨も深い。
 
本坊の前の階段を上がると本殿があった。
朱色の建物はまだ新しく、深淵で幽玄な風情には、少し似つかわしくないおももち。
手水鉢で手を清め、本社に手を合わせる。
別に神仏を信じている訳でもないのだが、素直に祈れるから、日本人は不思議だ。
このいい加減さ、おおらかさがあったからこそ、西洋史における、凄惨な宗教戦争が起らなかったのだろう。
境内には、大きな大きな特大の金の草鞋。
その横には、やはり特大の夫婦下駄。
子の権現は足腰の神様。
この険しい山稜を上り下りすれば、黙っていても、足腰は強くなる。
霧はさらに深く、山々の暗色はつよく、霊妙な冷気は香る。
想像以上に幽玄な子の権現、何時の日か、ゆっくりと、自分の足で登ってみたいもの。

秩父の芝桜
2006.5.7(日)
  

秩父の新名所・羊山公園に出かける。
生憎の雨模様。
秩父駅から、車で、10分ほどで公園に着く。
街道には、芝桜の立看板やら、案内の標識やらで賑やか。
標識に沿って進む。
  
整理券をもらって、特設駐車場に駐車。
傘をさしながら、公園に向かう一筋の、なだらかな登り勾配の道を進む。
そぼ降る霧雨に、新芽の緑も鮮やか。
道を登りきると、彼方一面に、色彩鮮やかにの芝桜。
雨にぬかるんだ赤土の道を、花の精華に誘われるように逍遥。
見事に咲きそろう芝桜の饗宴は、想像以上の美しさ。
  
雨交じりの肌寒い一日。
それでも、多くの見物客が訪れている。
花の盛りはすでに過ぎているようだが、名残の芝桜も見事。
6年くらい前、ある鉱泉旅館の主人のアイデアで始まった芝桜園。
今では、秩父の春の新名所。
多くのお客様を秩父へ誘う。
町おこし・村おこし、素晴らしい、魅力あるアイデアの威力はすさまじきかな。
  
広場の売店で、生ビールを飲む。
快晴ならば、燦々と照りつける太陽を浴びながら、飲むビールはさぞかし。
肌寒い雨交じりの秩父。
冷えたビールの今日の味、身体にしみる。
秩父名物の岩魚鮨を食べながら、クルミ豆腐をつまみ、何を見るとなくビールを飲む。
酒を飲めないママは山菜おにぎりと舞茸うどん。
肌寒い山間の一日、暖かいうどんは美味そうだ。
 
時計はすでに、3時過ぎ。
まだ時間に余裕がある。
芝桜に別れを告げ、私たちは「美の山公園」へ。
来た道を戻り、皆野方面へ。
黒谷の奥。
整備された道を登る。
  
雨に濡れた木々は、どこか寂しそうな佇まい。
道は急峻な登り勾配。
遙かなた、秩父の山稜。
山々に抱かれるように秩父の街が、霧に霞みながらも見える。
晴天ならば、格別な眺望。
雨降りで口惜しい限り。
この道を登りきったところが、きっと目的地なのだろう。

ママの実家あたりの景色
すれ違う車もなく、勿論、民家や旅館もあるはずもなく、少し不安がよぎる。
ただ、道なりに登れば着くはず。
切なく響くエンジン音。
「美の山公園」は山頂にあった。
車を停めて階段を登る。
雨足は急に激しく、傘に落ちる音は不規則なリズム。

家の前の藤は満開 夕暮れ時の山々