小さな旅&日記


テアトルエコー「暗くなったら帰っておいで」鑑賞
2005/11/27<日>

開演は2時。
川越街道は途中、かなりの渋滞。
でも。余裕を持って出かけたので、すれすれでセーフ。
エコー劇場はすでに満席。
席に着くと、1ベルが鳴る。
やがて、観客席の明かりが落ち、舞台にはすーっと照明があたる。
中央には椅子。
布団にくるまった女性、こちらに足を向けて寝ている。
どうやら、出産のシーンから始まるようだ。

主人公のイディー・ヒルの出産場面。
足の悪い紡績工イディーが、作者の分身・息子のトミーを生み落とす。
やがて、父親役の山下さんが登場。
真面目一筋の紡績工の親爺は、娘の出産に驚き、娘を責める。
娘は父親の男の名前を、頑なに閉ざす。
山下さん、声に張りもあり、なかなかの存在感。
ピーポッポで見る山下さんとは、当たり前のことだが、別人。
子供に対する親の愛、そして、当時としては非難と侮蔑の対象、父親なしの出産の不幸。
苦しくも切ない父親の役を好演している。

イディーの息子トミーは、さまざまな人々に見守られながら成長。
やがて、イディーの父親は喘息が悪化、イディーたちに見取られながら息をひきとる。
紡績工場から、舞台中央のベットに運ばれた山下さんの迫真の演技。
見る側も苦しく、切ないほどの迫力。
トミーは、イディー、叔父さんのアルフィー、聾のりディーたちに守られながら成長する。
正義感の強いイディーは、劣悪な労働環境に、何所よりも低い賃金。
イディーは賃金闘争に立ちあがる。

が、蓋を開ければ仲間は脱落。
イディーは孤立無援、利益至上主義の社長に解雇。
職を失い途方にくれる日々。
しかし、根っからの明るさ、逞しいイディーは、掃除の職にありつく。
イディー・ヒル演じる黒川なつみは、はつらつとして、無駄な演技をせず、素直に演じて好感がもてる。
イディーは、生まれながらにして片足を引きずる、薄幸の女性。
だが、明るく、逞しく、何時も人を信じ、愛する母親を充分に生きる。
舞台の進行の中で、歌あり踊りあり。
エコーの若い俳優のエネルギーが迸る。
狭い舞台空間から弾き出そうなほど。

その分、少し、整理不足のところありだが、若者たちの溢れるばかりのエネルギーで余りある。
息子のトミーは素直な子供に育つ。
成績は抜群、性格も格別。
偶然にも、運命の悪戯。
自分を解雇した経営者の、今は掃除婦イディー、人一倍の働き者だ。
かつて教員だった社長夫人に可愛がられる。
今は、何不自由ない奥様だが、単調ですることのない日々に辟易している。
イディーは、トミーの勉強を見て欲しいと嘆願する
奥様はもろ手を上げて了承。

そして、トミーと若奥様との2人3客が始まり、大学受験を向かえる。
かつての自分の上司モーリスは、生産性低下の責任を取らされ解雇。
奥様の口添えもあり、後がまの工場責任者に座る。
そして、トミーの大学受験。
やがて、試験の結果がトミーのもとに届く。
合格の通知に、奥様とトミーは歓喜。
そして、合格の祝いに、みなが集まるパブへ。
そこには、大勢の労働者に混じって、職を失い、酒びたりで憔悴したモーリスがいた。
イディーは勿論、工場仲間が、トミーの合格を祝う、いちだいパーティーが展開し始めた。

そのとき、モーリスが、トミーの謎めいた出自を呟く。
トミーの父親は私で、イディーは淫売女だと罵る。
イディーは否定する。
私は淫売ではない。
犯したのはモーリス。
トミーに必死に語るイディーの目から、ボロボロと大粒の涙が流れた。
役者は演技をしている。
他者を演じているはず。
役になり切るなど、憑依でも無いかぎりありえぬことだが、イディーの流す涙は本物のようだ。

トミーは歓喜の瞬間に、最悪の真実を知り、失意のどん底へ。
進行役の叔父さん、アルフィーの語りが寂しい。
トミーは優秀な成績で大学を卒業。
やがて教職につくも、結婚はせず、独身のまま。
イディー達のいる町には、2度と帰ることはなかった。
やがて、イディーは、52歳にして、紡績工場特有の、肺の病気で死去。
明るく、逞しく、みんなに愛され、優しくも人を愛したイディーには、もう少し幸せな結末であって欲しかった。

舞台の照明がするりと落ちた。
暫らくして、何所かで、パチパチと力ない拍手。
思い出したように、拍手が続く。
そして、拍手の波が大きく重なる。
舞台に照明が、パッと灯った。
拍手に誘い出されるように、役者たちが、かわるがわる、一列横隊になって登場。
どの顔も、晴れ晴れして清々しい。
約2時間半、楽しくも、心にじーんと響く芝居を、ありがとうございました。。


富士山&富士五湖の紅葉
2005/11/13<日>-14<月>

11月13日(日)、今日は富士五湖の精進湖(しょうじこ)へ。
快晴ではないが、何とか天気は持ちこたえている。
最近、我われも早起きになった。
11時頃には起きて、1時半頃には家を出る。
首都高速から中央高速道に出る。
道は空いているから、ドライブは快適。
勿論、運転はママ、私は助手席。

コンビニで買ったミネラルウォーターのエビアンで、まずは咽へのお湿り。
高井戸から中央道に出れば、道は一直線。
雲海をキラキラと太陽が照らし、ぐんぐんと車はスピードを上げる。
雄大な空を、一本の道が、真っ二つに切り裂いて進むようで楽しい。
東京を発って1時間くらい、すでに相模湖を過ぎててしまった。
日曜のこの時間帯、普通の人とは逆の行動パターン。
何時も、滅多なことが無いかぎりは、道路は空いていているから嬉しい。
現代は、距離ではない。
渋滞に巻き込まれないかぎり、距離はあまり関係がない。

談合坂のPA 富士五湖へ向かう中央高速
目的地もだいぶ近づいてきた。
談合坂パーキングエリアで、休憩ついでに食事を取ることに。
何か食べようと思うだが、あまり食欲を誘うものも無い。
昨日の酒もまだ残り、腹も少し下痢気味。
私はホットコーヒーで済ますことに。
ママは、ラーメンに作りたてのおにぎりを一つ。
ラーメンは東京風の醤油味、見た感じもさらっと薄味みたいだ。
さて、遅めの昼食を済まし、これから河口湖インターまでのひとっ走り。
空には太陽が弱々しく現れたり消えたりの頼りなさ。

とにかく、雨さえ降らなければ良しにしなければ。
だらだらの緩い登り坂、心地よくすいすいと車を走らせる。
遠くに見えていた山々は、すぐそこまで近づいている。
きっと、あの山の向こうに、富士山は隠れているのだろう。
40分もすると、河口湖インターについた。
インターを降りると、そこはすでに山梨。
行き当たりばったりの何時もの旅。
取り敢えずは、コンビニ、この辺りを特集したガイドブックでも購入しなければ。
セブンイレブンがあった。

やはり、観光地のコンビには以外に親切。
ちゃんと富士五湖の特集雑誌が置いてある。
この、雑誌を頼りに、今日明日の旅が始まる。
目的の精進湖に行くには、まだまだ時間がある。
本の地図を見ながら河口湖へ。
15分もすると、河口湖の湖畔に着いた。
弱々しい日もさらに力なく落ちはじめた。
無料の湖畔の駐車場に車を停める。
ぷらりと湖畔へ。
紅葉の河口湖 河口湖の日が翳り始めた
日曜日の夕暮れ時、観光客もまばらだ。
湖畔の木々は紅葉真っ盛りで美しい。
湖畔から吹き付ける風がすでに肌寒い。
どうしたことか、何所を見回しても、富士山の影も形も見えない。
富士山は気紛れ、近くに来ても姿を見せないことも多いのはしばしば。
今日のところ仕方がないか。
すでに、喫茶やレストランは閉店し、なんとなく閑散としている。

やっと見つけたカフェレストランでコーヒーを。
最近は、何処へいっても、コーヒーが美味しいのは嬉しい。
窓越しに見える湖畔の日も、だいぶ落ちかけてきている。
レストランのお客様もはやひけ、広い店内は私たちだけになる。
これから、西湖へ抜けて、精進湖まで行かなければならない。
店を出ると、さらに日が傾き、湖畔から吹き渡る風は一段と寒い。
車に戻り、地図を頼りにドライブは再開。
国道139号に出て、河口湖大橋を渡る。

すると、突然、富士山の雄姿が、正面に、ドカッ!と登場したのにはビックリ!!
私たちは、たぶん、富士山を背にしながら車を走らせていたのだ。
そして、私たちが降りた湖畔は、丁度、富士山の見えない死角だったのだ。
すっかり、日は沈み、湖水もどんよりと暗く、残光を微かに残した空に、影絵のように富士山の雄姿が輝く。
今日、初めて出合った富士山に、我われは大いに感動。
幸い、橋は渋滞模様。
こんな時の渋滞は大いに歓迎。
河口湖湖畔のママ 朝6時頃、ホテルから望む
橋を渡り、さらに進み、交差点を右に折れる。
車には殆ど出会わなくなった。
1本道、道も暗く、森は深くなる。
やがて、一度入ったら、2度と帰還できないと言われる青木が原を真っ直ぐに抜ける。
かなり外は冷え込んでいるのだろう。
車の窓は冷気で曇っている。
やがて、かのオオム真理教で、一躍有名になった上九一色村に。
ここに、今日投宿するのホテルがある。
ホテルは精進湖のほとりに立っていた。
私たちのチェックインを、ホテルの人が笑顔で迎えてくれた。
8時頃、日が差し始めていた
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朝、精進湖の前で
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チェックインして、3階の部屋へ。
窓を開け放つと、湖水を渡る風、夜の湖畔の森閑さ、ハーブのように芳しい冷気が部屋を包む。
窓の正面には、湖が黒く広がり、暗闇の彼方、富士山の威容がうっすらと浮かび上がる。
夜空には月がぼんやりと輝き、星も幾つか点在し、きらりきらりと光っている。
きっと、明日は晴れてくれることだろう。

夕飯は6時から。
まだ時間がある。
露天風呂で一汗流すことに。
温泉にはすでに人影はなし。
正面には、うっすらと富士山のシルエットが見える。
貸切状態の風呂、のびのび足を伸ばし、頭から湯をかぶり、今日一日の旅は終わった。
精進湖の私。クリックで拡大
肉眼では逆さ富士は見えないのだが、写真ではバッチリだから不思議
食事は大広間で。
ほう葉に盛られた辛味噌漬けの牛肉、刺身、茶碗蒸、炊き合わせ、そして、たっぷりのズワイ蟹などなど。
そして、メインディッシュは、どかっと土鍋の蟹鍋。
かつては、これでも料理屋の支配人、私が綺麗に盛り込む。
風呂上り、浴衣に丹前を着込み、ビールを飲みながらの鍋は最高。
仕上げには、土鍋の汁にご飯を入れての蟹雑炊。
焦げないほどに、固まらないほどの頃合を見計らって、溶き玉を流しいれる。
溶き卵がふっくらと盛り上がり、黄身と白身の柔らかなグラデーションが奏でられたらできあがり。
蟹のエキスが沁みこんだ雑炊は、かくも美味いものかと自画自賛。
精進湖辺りの紅葉 肉眼では見れない逆さ富士
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部屋に帰り、ビールでさらに乾杯。
アサヒビールの当地限定「富士山」は美味い。
ホップがしっかりと決まって、爽やかな中にも切れがありこくもある。
売り文句は、富士山の伏流水を仕込み水にしているといううことだが、
新鮮なホップもたっぷりと使っているのがわかる。
暖房をいれ、さらに炬燵にあたりながら飲むビールは心地よい。
窓越しには、薄暗闇にうっすらと浮かび上がる富士山を見ながら、決めはやはり日本酒。
山梨甲斐の開運・純米吟醸・冷やおろし・限定仕込み。
グラスに注ぐと、うっすらと霞みがかかり、微かに山吹色。
139号から21号へ 青木が原の紅葉
もともとの日本酒はこの色。
清酒全盛期、猫も杓子も、日本酒は澄んでいれば良いとばかりに、活性炭などでろ過し化粧させた。
でも、日本酒の本来の色は山吹色。
口にふくむと、やわらかな吟醸酒特有の芳香が漂う。
ほどほどのコクがあり、しかも重たくはない。
切れ上がりもきりりとして、戻り香が鼻先を心地よくくすぐる。
やはり、旅先、土地の料理、土地の人との楽しい会話、土地の自然と空気、そして土地の地酒は最高の贅沢。
すでに、時間は夜中の2時を廻っている。
湖面には月が映り、空の星の数は増えていた。
きっと明日は晴れてくれるだろう。
西湖へ向かう道の紅葉 野鳥の森からの眺め
朝、眼がさめた。
ママが窓辺へ。
窓辺の部屋と部屋の段差、ママが足を取られてしまった。
かなり痛そうだ。
足が脹れてきている。
ママは少し足を引きずっている。
帰京して、検査をしたら、骨折していたのだから痛いはずだ。
窓を見ると、大きな大きな富士山が、でーんと鎮座している素晴らしい光景。
山頂は僅かに冠雪している。

湖面はうっすらと霞みがかかり、富士山の上空には、ぽっかりと帽子のような雲がかかっている。
太陽の光線が微かに雲間をかすめ、雲がやわい黄金色に光りだしている。
どうやら、今日は雨はなさそうだ。
朝食は8時からで、まだ時間がある。
さっそく、朝湯の露天風呂へ。
朝まだき、またもや、露天風呂は貸し切り状態の優雅さ。
風呂に浸かりながら見る富士山の雄姿、さすがの一言。
日本の山を代表するだけでなく、日本という国家を象徴するのもわかる気がする。
だんだんと、富士山の上空に太陽がゆっくりと昇り、ゆっくりとたなびく雲海を黄金色に染め上げはじめる。
野生の森からの富士山クリックで拡大
西湖のほとりで
やがて、私より少し歳上の人が入って来た。
軽い挨拶を交わす。
見ず知らず、一期一会になるであろう、束の間の旅先の挨拶は楽しいもの。
昔は、ハイキングをしてても、行き交う人たちは、軽く、優しく、心ある挨拶を交し合ったもの。
今日この頃、こんなに素敵なコミュニケーションの習慣を、失い始めて寂しいかぎり。
見ず知らずの人と挨拶を交わす心が、人に対する心配り、優しさ、思いやりに繋がるもの。
挨拶ができない社会は、剣呑で殺伐した社会になるは必定。
冷たい風に吹かれ、裏山の紅葉が、はらはら、ひらひらと舞い落ちてゆく。
富士山の上空には太陽がゆらゆら昇り、さらにさらに耀きを増し始めた。
さて、これから朝食をとって、少し早めに出かけることにしよう。
西湖にてクリックで拡大
紅葉越しの河口湖クリックで拡大
大広間で朝食をとる。
外の冷気で、窓一面の大ガラスは曇っているが、大きな富士山の威容がでかでかと見える。
富士山を眺めながらの食事は快適。
旅行でもしなければ、滅多に朝食などとることはない我われ。
下手をすれば、昼食も食べないことさえ、珍しいいことでもない。
朝風呂に浸かり、清涼な空気に触れ、美しい自然の中の食事は美味く、きれいに食べきれるのが嬉しい。
デザートを食べ、新鮮なジュース、牛乳、そしてコーヒーを飲む。
どちらかと言えば小食の私、全部食べきれることに誇らしくなる。
部屋に戻り一服。
ママはだいぶ辛いみたいで、すこぶる歩みが遅い。
チェックアウトは10時だが、9時にホテルを後にする。
まだまだ、外は冷たく冷涼な風が少し痛い。
河口湖にてクリックで拡大
河口湖の富士山は見事
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来た道を戻らず、精進湖を一周することに。
しばらく行くと、さらに富士山の絶景ポイントに出くわす。
車で湖畔に下りる。
富士山がどっかりと、湖を抱きかかえるように居座っている。
やはり、何処から見ても、富士山は美しい山だ。
完璧なまでの富士山を見て、さらに満足の私たちは、西湖へ向かう。
精進湖沿いの道を進むと、あの大きな富士山が消えてしまった。

場所によっては、まったくの死角、姿を垣間見れなくなるのだから不思議。
さらに進み139号線に。
青木が原を切り裂くように、国道が真っ直ぐ突き抜けると、そこに野鳥の森公園があった。
車を降りてみる。
無念の捻挫、歩行のままならないママは車の中で待機。
私だけが辺りを少し散策。
芝生は黄金色にひかり、木々の紅葉の向こうに、取り澄ましたように富士山が顔を出す。
ママを待たしてもいけないので、早々に此処を立ち去り西湖へ。
河口湖へ抜ける街道、燃えるように赤い紅葉。クリックで拡大
街道を進むほどに、民家もまばらで少し寂しい感じだ。
西湖が現れた。
以外に小さいのにがっかり。
すこし、車を降りて湖畔の水辺へ。
だいぶ、湖畔の気配も柔らかく、風のそよぎも、幾分優しくなっている。
さらに、湖畔を右に見ながら、車は紅葉の美しい道を進む。
進むにつれ、西湖の全貌が見え始めた。

精進湖より小さいのかなの勘違い、さにあらん。
蛇行して行く道沿いに、大きく西湖の湖面は、さざなみを立てながら、朝日に輝いていた。
道沿いの木々は紅葉し、風に揺られながらきらきら輝いている。
富士五湖の山々の紅葉は、ひときわ美しく鮮やか。
まさに、錦繍の秋とはこのことを言うのだろうか。
湖水の彼方には、道々、富士山が角度を変えながら、さまざまな表情を見せる。
西湖を右手に、左には紅葉を見ながら、くねくねと21号線を進み10分足らず、河口湖に到着。

昨日とは湖の反対側に位置するのだろうか、富士山の雄姿が真正面に見える。
絶好のポイントに駐車場があり、観光客の車が駐車している。
私たちも車を停める。
燃えるような鮮紅色に染まった紅葉越し、望む富士山は、まるで絵葉書の世界。
ママの写真を撮っていたら、若いカップルの男性が声をかけてくれた。
「一緒の写真を撮りましょうか」
すこし、照れくさいけれども、お言葉に甘えて、パチリ1枚撮ってもらった。
さりげなく、なにげない、さらりとした、人の好意は嬉しい。
5合目に向かうスバルライン 5合目から見る富士山
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ここからさらに進み、河口湖を1周。
どこからも、富士山が美しく、とても感動的なドライブ。
あまりにも綺麗に整った富士山と河口湖の構図。
あまりにもドンピシャのコンポジション、どこか安っぽい絵葉書のように感じてしまうからおかしい。
ママが時々、紅葉と富士山に見とれてよそ見するのが少し怖い。
助手席の私、秋の富士五湖を堪能しながらのナビゲーターは得な役割。
昨日渡った河口湖大橋に着いた。
昨日は、薄暗闇の黒い大きな富士.
それはそれなりの風情はあったが、やはり昼間の富士山は美しい。

すいすいと進み139号線に入る。
これから、富士山5合目へ向かう。
河口町をしばらく進むと、富士山5合目へ続くスバルラインの標識が出る。
片道1車線の道を行くと、スバルラインの入口が見えた。
道は広く1本道、どんどん突き進む。
何時までも料金所がない。
え?この道、有料じゃないの?と喜んだのも束の間。
そうは問屋が卸しませんよとばかりに、料金所が出現。
往復料金、〆て2000円也。
東京アクアラインが片道3000円に比べれば、うんと安い計算、まあいいだろう。
小御岳神社 小御岳神社の展望台から
道の両サイドの木々は紅葉しているが、明らかに、今まで見てきた紅葉とは段違い。
華やかさがなく、殺風景で、寂しいかぎり。
登るに従い天気はどんより、少し愚図ついてきている。
1合目、 2合目、3合目と登るにつれ、木々の背丈も低く、どこか荒涼とし、赤茶けた風景が展開する。
登る車も下る車もあまり無く、グーングーンとエンジン音を響かせながら進む。
やがて、左手の低い潅木の向こう、薄っすらとくもやった山々が幾重にも連なる。

晴れていれば、さぞや素晴らしい眺望だろ。
でも、とにかく、雨さえ降らなければ、今日の天気模様からすれば上々。
さらに、風景は寂寞とし、山肌がゴロゴロと露出し始め、樹木もめっきり疎らになる。
突然、右手に、うっすらと雪化粧をした富士山出現、聳え立っている。
そして、広い広い駐車場がそこにはあった。
車も観光客も殆ど無く、ただただ、だだっ広いだけ。
外に出ると、さすがに標高2305メートルの風も空気も肌を突き刺すほどに寒い。
展望台から見る山中湖
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逞しいく生きる5合目の木々
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土産物屋兼山小屋の上に、どっかり座った富士山の山肌は、黒くざらついている。
河口湖から見た壮麗で気品に満ちた美態は、何所へいったのだろうか。
麓からなだらかに絞り上げたようで、艶かしくも華麗な富士山の容姿は今は無い。
荒々しく荒涼とした風景の中、富士山の威容は雄大で荘厳。
あくまでも、人をどこか拒絶するような威圧感がある。
遠い昔から、人々が恐れおののきながらも、一身に崇め崇拝し、祈る霊峰であることも納得。
ママは痛い足を引きずりながらも、やっとのことで、レストハウスに辿り着く。

売店をぶらぶらしながら2階のレストランへ。
広い店は閑散としている。
私は数量限定の茸汁。
ママはたぬきうどんを食べる。
味噌汁は何のこともない、キノコが少々入った白味噌仕立て。
ママはぼそぼそしてコシもないうどんをさすがに残した。
でも、此処は富士山の5合目、文句は言えまい。
暖をとらして貰っただけでも、感謝しなければいけない。
売店の中で。クリックで拡大 立山連峰を背に
一息つき、身体も温まり、階下へ。
土産物を少し買い、ママはプリクラ葉書を撮りに。
私はすぐ近くの小御岳神社へ。
参道は少しの勾配。
階段を上ると小さな社があった。
お賽銭をあげて柏手を打つ。
普段はまったくの無神教。
神社仏閣があれば、お賽銭をあげての神頼み、何時もながら浅ましい。
でも、それを許してくれるのが、日本の神仏の懐の広さ、寛大でおおらかななところ。

この寛容で慈悲深くも優しい神仏を、世界宗教にしたらどうだ。
そしたらきっと、血なまぐさく、全てを破壊し殲滅する、凄惨極まりない戦争はなくなるのではなんて、
難しいことをのたまうノーテンキさ。
神社の脇に展望台があった。
階段を上ると、富士山を背に遙彼方、
柔らかな青のパステル色の山々に包まれるように、山中湖が静かに眠る。
近くの木々は赤茶けているが、冷たい風に吹かれながらも、しっかりと梢を空に突き上げ、踏ん張っている。
やはり、自然はなんて逞しいのだろうか。
レストハウスと富士山 5合目の展望台からの立山連峰
レストハウスに戻ると、ママがプリクラ葉書を見せてくれた。
富士山を背景にして、ママの写真が綺麗に写っている。
絵葉書には、「また来たい」と書いてあった。
大病をして来年で5年目。
ママにとっては、とてつもなく意味のある年の節目。
「よし、来年はお祝いで、もう一度此処にこよう」
お店の人に、前方に広がる連峰の山々を聞いてみた。
「最近は、あまり聞く人もいなくて寂しいですね」
と言いながら、嬉しそうに、親切に説明してくれた。
遙彼方に広がる雄大な山々、厳しい自然が織り成すロマンがある。
どこか、世の中がデジタル化し、即物的になってしまったのは悲しい。
5合目からの眺めは美しい。クリックで拡大
外に出るとかなり曇り始め、天気もおぼつかなくなっている。
一段と風は冷たく、上着を冷気が突き抜ける。
ベストを下に着ていなかったら、薄着で、暑さ寒さに強い私でもギブアップだ。
ママは足を引きずりながら、先に車へ戻る。
私は立山連峰を見渡せる展望台へ。
目の前を切れ切れに煙った薄い灰色の雲が流れていく。

その幾千里の涯に、立山連峰が幾重にも折り重なる。
人は殆ど回りにはいない。
深閑として静謐。
まさに、日本の幽玄の美に触れているようで、素直に感動できる。
自然はやはり素晴らしい。
小賢しい人間業ではどうしようもない、勇壮で荘厳な美が存在する。
帰り道、休憩所からの景色
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売店の親父さんが撮ってくれた
雨がポツリ。
山の天気は気紛れで移り気。
早々に此処も退散しよう。
来た道を引き返す頃、またもや薄日がさしてきた。
車で下る途中、素晴らしい景色の休憩所があった。
車を降りると、売店があった。
人懐こいおじちゃんがいろいろ話し掛けてきて、前方に広がる山々を説明してくれる。
説明に釣られて、ママはイカ焼きを。
私はおでんを食べることに。
本当は、まだお腹は一杯なのだが、立山連峰をバックに写真を撮ってくれたのだから仕方ないか。
此処で、普通なら、お酒を一杯といくところなのだが、東京へ帰れば仕事が待っている。
昔だったら、きっと飲んでしまうのだが、今は少し自制心が働くだけ成長したのかも。

売店の親父さん、手際よくパチリ!クリックで拡大
さてさて、これから東京へ帰らなければならぬ。
来た道を下ると、不思議と景色が変るから面白い。
見上げる景色と見下ろす風景は、不思議なほど印象が違う。
下るに従い、樹木の背丈が高くなる。
遥かな向こうに、雄大な雲海に浮ぶように、立山連峰が連座している。
すると、突然、ママが車を止めた。
何事かとビックリ!
富士山の麓、色あせたようで輝きのない樹木の紅葉に囲まれて、富士山が見事に顔を出した。
なるほど、このコンポジションは素晴らしい。
思わず写真をパチリ!
ママの美的センスもなかなかのものだ。
人懐こい売店の親父さん ママが選んだスポット
感動は人によりさまざま。
人は何時も、何気ないものにも、感動できる繊細な感性を持っていたいも。
車をさらに走らし、料金所も過ぎる。
これから真っ直ぐ、東京に向かう。
でも、途中富士吉田あたりで、名物の「ほうとう」でも食べていくか。
暫らくすると、富士吉田に出る。
さすがに、富士吉田、富士登山の玄関口。

富士山がスッポリと町を包み込むように聳えている。
本で紹介されてるうどんや「桜井うどん」にやっとのことで辿り付く。
残念至極、閉店していた。
まだこの時間、閉店はないだろうと思うのだが、仕方がない。
諦めて、一路、東京を目指す。
きっと、途中の街道沿い、「ほうとう」を食べさせるうどん屋はあるはず。
下りのスバルライン 富士吉田への道路標識
くにゃくにゃの昔からの街道は、風情があり楽しい。
高速道は便利で早いが趣がない。
古い街道には歴史とロマンがある。
時間が許せるならば、ゆっくりゆったりの旅の醍醐味は心に沁みる。
物事、捜す時には、探し物はなかなか見つからないものだ。
139号線を行けども行けどもうどん屋はなし。
そうこうしてる内に、もう、大月に来てしまった。
此処からは、高速に上らなければ、ピーポッポの開店時間に間に合わない。
「ほうとう」は諦める事に決定。
花咲き宿にさしかかるると、「名物ほうとう」の看板が。
駐車場に車を停めて店へ。
富士吉田市内、金鳥居 大月の紅葉
何の変哲もないサッシの玄関を入る。
いらっしゃいの声はない。
カウンターには金髪のお姉さんがこちらを見ている。
座敷には、カイゼル髭の親爺さんが、何故か二人の自衛隊員としみじみと話している。
どうやら、此処は居酒屋のようだ。
私は「食事だけですけど良いですか?」
金髪のお姉さんは頷く。
私たちは座敷に上る。
私はやっと「ほうとう」にあずかり嬉しいかぎり。
ママは魚のフライ定食が食べたかった。

別々の料理を注文する。
金髪のお姉さん、カイゼル髭の旦那に、心配そうに御用聞き。
「マスター、定食いいですか?」
カイゼル髭のマスター、「今日は魚のフライ定食は売れきれ」
そっけない断り。
まー、いいだろうと「ほうとう」を2人前注文。
カイゼル髭は相変わらず自衛隊員と離している。
どうやら、自衛隊員はお客ではないらしい。
店には、この店を紹介する雑誌や新聞の切抜きが、これ見よがしに、べたべたいやらしく貼ってある。
車窓から見る大月の景色 初めての「ほうとう」
やがて、自衛隊員はカイゼル髭に、丁重に挨拶をして店をあとに。
熱々の白味噌仕立て「ほうとう」鍋がテーブルに。
手作りの飾り気のないうどん、ジャガイモ、里芋、人参、インゲン、
キヌサヤ、椎茸、油揚げ、ねぎ、カボチャが少しずつ。
山梨出身のお客様から聞いた「ほうとう」は、まだまだ野菜たっぷりのようなのだが。
「旦那さん、ほうとうを食べるの初めてなんだけど」
カイゼル髭の旦那の反応、極めてそっけなくぶっきらぼう。
これが、雑誌で紹介されてる「ほうとう」の老舗かと思うと、雑誌の記者達は何を見ているのだろうか。
自分の足と目で確かめて、記事を書いているのか疑いたくなる。

私もかつては老舗の料理屋の支配人を長年勤めた経験がある。
それ程の料理屋かなと、少しは苦言を呈したくなる。
なんと、親切さ、優しさの欠落した店なのだろうか。
それなりの老舗になった時、落とし穴は此処に極れり。
同業者として、我々が一番気をつけなくてはいけないことを体験できたのは、貴重な反面教師。
やはり、旅をし、いろいろなことに接することは、良きにつけ悪きにつけよい勉強になる。
まだ人気のない店内
ぶらぶらの山梨の旅もこれで終わる。
すぐそこは、大月のインター。
いっきに東京へ。
知らないうちに、時間は4時に近い。
急がなければ、店のオープンに遅刻する。
渋滞がないならば、1時間オーバーで東京に着く筈。