「遥けき秩父、春夏秋冬」

秩父の霊峰三峰山に春が来て、陽光が山脈(やまなみ)照らす。
日本武尊の神代から、神々が住む杜(もり)三峰神社。
雅に篳篥(ひちりき)や笙(しょう)が響き、渓谷を流れる荒川は、春日に煌めく。
かつて下りし檜筏(ひのきいかだ)、船頭の舟唄乗せながら、江戸は隅田の木場へ流れる。
ああ遥けき秩父の春、草木が芽吹き鳥が啼く。


小鹿野の里に夏が来て、小鹿野歌舞伎のお囃子が聞こえる。
江戸は昔の小鹿野往還、本陣が構え、今も時代を伝える風情の家並。
開幕合図の柝(き)が入り、太棹三味線の音で、小鹿野歌舞伎の幕が開く。
小鹿野の町は華やぎながら、夏日の中に暮れてゆく。
ああ遥けき秩父の夏、両神山が夕闇に静かに沈む。


荒川躍る長瀞に秋が来て、川下りの船頭の声、川面に響く。
白壁の石畳はあやなす紅葉、荒川の清流に秋色を映す。
紅色、黄色に燃える水面を、川下り船が二つに割って滑りゆく。
宝登山神社は優しく見守り、長瀞は静寂のなかに眠りゆく。
ああ遥けき秩父の秋、長瀞の夜に幾千万の星が瞬く。


秩父神社に冬が来て、秩父太鼓も勇ましく武甲へ轟く。
絹の繁栄を今に伝える秩父夜祭、百花繚乱、豪華絢爛の山車引き回し。
武甲山の男神、秩父神社の女神、年に一度の邂逅を、歓喜とホーライが祝う。
漆黒の空に轟く花火、千変万化の色彩に、夜空が染まる。
ああ遥けき秩父の冬、夜祭は宵闇を彩り、1年に別れを告げた。