小さな旅&日記


日本の文化行政の貧困 
5月23日<金>

今月、両国の「シアターX(カイ)」で、無料の俳優養成学校がスタートした。
モスクワ芸術座を創立し、劇作家チェーホフやゴーリキーを世に送り出した、
スタニスラフスキーの演技システムのもと、
三年間、無料で、講師の西村 洋一氏らが指導に当たるそうだ。
まことに喜ばしい事。

スタニスラフスキーの演技システムを、
三年間ジックリと時間をかけて、体系的に指導するのであろう。
演劇教育は、とてつもなく時間がかかるもの。
最近は、至るところに劇場と言う、見事な公共の演劇的構造物が、
日本の津々浦々に出来上がっている。

しかし、練習場やスタジオは付け足し程度であり、見るに耐えないほど貧弱である。
ましてや、演劇を育てる俳優養成所や、公立劇団など公的機関は殆ど皆無。
諸外国、特にヨーロッパなどは、国立劇場は勿論のこと、
国立劇団を持ち、演劇の根っこから支え育てている。
そして、勿論、国家の貴重な財源をキチンとあて、
文化と伝統を護り発展的に継承し、未来のために育成している。

日本の場合は、劇場という「箱」は造るが、
一番大切な「中身」を、まったくと言うほど無視しているのは、
行政の文化に対する貧困さに由来するのではないだろうか。
時の為政者は、劇場という構造物を、自分自身のメモリアルとして、
自分の名前を、歴史に永遠に刻み付けたい気持はいたく分る。
しかし、大切なことは、劇場で上演される、芝居なりオペラなりオーケストラなのである。
いくら立派な酒瓶であっても、なかのお酒が不味くては、全く意味のない事。


いつか食べたいね、アキラさんのフレンチ
 5月20日<火>

5月12日<木>、玄関にエアーメールが届いていた。
ムム、フランスからだ、誰だろう。
裏を見れば、アキラさんだった。
早速開けてみた。
レポート用紙を切ったような紙6枚に小さな字でビッシリと書かれていた。
日本を発って、フランスに行って2ヶ月になる。
アキラさんは今、フィリップスブルグという、フランスとドイツの国境沿い、
小さな小さな村にあるレストランで働いているみたいだ。

言葉もドイツ語訛りのフランス語で、なかなか聞き取りにくく、苦労しているが、
日本人なんて見たこともないので、村の人たちの人気者になっているようだ。
でも、ここに正規の社員で就職できるまでは、職探しで大変だったみたい。
フランスで正規で働くことの難しさ、そして無謀な考えであった事を、身をもって体験したと書いてある。
今は職につき、大好きなフランス料理の修行をし始めた。
日本にいれば一流のレストランで腕を振るえるのに、本物のフレンチを体得するため、
あえて、日本での「現在」を捨て、未知なる本場フランスで、
本物のフランス料理を勉強したいという、強い願望を現実に変え始めた。

やっと、最近はドイツ語訛りのフランス語にも、冗談が言えるようになったと書いてある。
そして、暇を見つけては、南仏に行ったり、パリへ、リヨンへ、ストラスブルグへ出かけている。
オーナーシェフもいい人で、週に一度は市場へ連れていってくれるそうだ。
いろいろと文化の違う国で、何もかも一人で決め一人で行為する事の難しさを、
痛感しているのがよくこちらにも伝わってくる。
時には、哀しく、時には苦しく、そして孤独にもなる。

でも、村人達は善良で朴訥、そしてアジアから来たたった一人の日本人に、
何故か心優しいのは凄く恵まれている。
それも、きっとアキラさんの人柄ともって生まれた「星」なのだろう。
アキラさんは当たって砕けろの精神で、
今をときめく三ツ星レストランMARC VEYRAT(マーク ベイラ)に履歴書を送ったそうだ。
そしたら、OKの返事が届き、本人がまずはビックリ!そして調理場の仲間たちシェフもビックリ!
レストランの全員が喜んでくれた。
シェフは三ツ星レストランで働いた経験もあり、早速MARC VEYRAに電話をしてくれたそうだ。
MARC VEYRAはスイスとの国境にある、現在世界が注目している三ツ星レストラン。
2003年度、フランスNO1の評価をうけている。

また未知なる処へ出かける不安はあるが、今年の10月から働けることのアキラさんの感動が伝わる。
一人の若者が、自分の描いた大きな夢に向かって大きく船出した。
自分の願望が大きく強くあればあるほど、夢は実現出来るもの。
自分の果てしなく大きく強い願望であれば、その事のために自分の全身全霊を注げるもの。
アキラさん、頑張って下さい。

何時の日か、アキラさんが三ツ星レストランで一流の料理人になるのを楽しみにしてます。
そして、そのレストランへマスター&ママで出かけ、アキラさんのフレンチを食べたいもの。
これからが大変、身体にはくれぐれも気をつけて下さい。
また、暇な時に、フランスレポートをピーポッポに届けてください、楽しみに待ってます。
そのうち、酒類や本の注文もしますので、その時はよろしく。
ムッシュ・アキラへ、マスター&ママより。


歴史の風化はなんとも早いもの
 5月19日<月>

先日新聞を読んでいたら、カルチェラタンの記事が載っていた。
1968年、フランスの学生が中心になり、フランス文化の中枢である、
カルチェラタンを解放区にし、国立第二劇場「オデオン座」をも占拠。
世界的に有名な哲学者サルトル、
不思議な男女関係をサルトルと結ぶ人気作家ボーボワールも共鳴。
世界中の目がカルチェラタンに注がれた。

そして、開催予定のカンヌ映画祭をも、学生達に共感した若き心ある、
新進映画監督たちが中止に追い込む。
翌年、新たに「監督週間」を立ち上げ、
ヌーベルバーグの存在を、世界に高らかに宣言する。
パリ五月革命を、歴史上の単なる暴動と捉えられるのか、
おおいなる歴史の転換点と認識されるかは、
いまだに定まらないこの年は、フランスワインの大不作の年であったのも何かの因縁か。

しかし、歴史の風化するのもなんとも早いもの。
当時大学生であった者たちも、近じか会社を定年する年頃。
当時世界中の人気者、時代の寵児だっただったサルトルもボーボワールも、
既にこの世にはいないのは勿論のこと、
哀しくも忘れ去られた存在になりつつあるのはまことに寂しい。


楽しかったな歌蔵ワールド。
5月15日<木>

5月12日桂 歌蔵さんの独演会を見に行く。
開演は6時30分、近くのすし屋で腹拵え、楽しみに池袋の東京芸術劇場へ。
会場には既に、たくさんの老若男女が集まっている。
落語会だというのに、ピカピカギャルもたくさんいる。
トッポイお兄ちゃんから、コワモテのお兄さんまでいるから驚きだ。
さすが、歌蔵さんの交友関係の広さに感心。
さて、いよいよ幕が開いた。

春風亭 べん橋の一席が始まる。
まだまだ話しに余裕がないのだろう、早口で話しが見えにくいところがあるが、
一生懸命熱演していることは、こちらにも伝わる。
そして、与太郎のかぼちゃ売り。
歌蔵さんの与太郎、これが馬鹿を地でいっているようで、なかなか味があって面白い。
なかなか馬鹿も堂がいってる、なんて言ったら怒られるかも。
次は、春風亭 柳太郎さんの創作落語、
導入部の枕から話しが進むにしたがって、だんだんと調子が上がる。

後半はかなり快調に話しが展開、本人もこちらもなんとなく心地よく聞ける。
なにせ、柳太郎さん、目一杯やってるのが、こちら側に伝わる。
そして、「あたま山」。
ロックグループの「アナーキー」のギタリスト、藤沼 伸一さんと、
我が「歌蔵」さんとのジョイント立体落語が始まった。
歌蔵さん、中央の一段高い四角い高座にドカッと座る。
アナーキーの伸一さん、頭にてぬぐいを海賊まきにかぶり、
ギター抱えて、高座の右下に胡座でドシッと座る。

いよいよ、ロックと落語、ミスマッチなバトルが展開する。
もと空手&ボクサー歌蔵、ギターのボリュームとリズムに負けずに、エイヤと気合で落語を語る。
伸一さん、ガガッと決めて話しに合の手を入れる。
歌蔵さん、ググッ攻められ負けじとガガッと掛け合い、勢いつけて話しは絶好調。
額からは汗が滴り、照明にピカピカッと稲妻の一閃、見事に光る。
有名な「あたま山」も最終編。
ワイワイガヤガヤ、もう御免と頭の櫻を折って安心、と思いきや、
今度は掘られた後は池になり、魚ウヨウヨ何たることか
、なんて俺は呪われていると嘆き悲しむ歌蔵さん。

伸一さん、この時とばかりに、ハッシと頭の手ぬぐいをパシッと取り去り、深々とお辞儀。
ホールはアッと爆笑の渦。
歌蔵さん参った、伸一さんイッポン!
頭のテッペンには魚の黒赤の彫り物が二匹、つるつるの強面頭に彫られていた。
落語的講談といおうか、立体的で骨のある楽しい一席でした。
休憩。

そして、今はときめくマルチタレントでアーティスト?みうら じゅんさんとの対談。
サングラスをかけて長髪のじゅんさん、何でもなくたわいないない話しを面白おかしく語る、
じゅんさんの話術、さすがなかなかですな。
中身は何もなくても、話しのリズム、テンポの小気味よさ。
さすが、マスコミやTVの人気者であるのが分る。
たわいない話しを語りながらも、その人の物の考え方や姿勢、
そしてユーモア溢れる人となりが伝われば、対談と言うものは楽しく成立するもの。
軽妙洒脱な対談も終わり、林家 二楽さん登場。
ひょひょうとした足取りで高座へ。

なにやらモグモグブツブツ語りながら紙きり芸が始まる。
見事に切りあがった作品がスライドのように背景に照射される。
思わずアット驚き、パチパチと拍手がおこる。
会場からのリクエストは松井。
ゴヂラとユニホーム姿の松井が切りあがり、バックに大きく映しあがる。
ついつい二楽さんの話術に乗せられながら、チョキチョキ、チョキチョキ作品がつぎつぎと出来上がる。
何か、私たちが失いかけている、日本の懐かしい芸事に触れたようで、ホロホロと心がほぐれるようだ。

やがて、歌蔵WORLDの最終章がやって来た。
「らくだ」が始まる。
暗く切なくおどろおどろしくもグロテスクな話しを、歌蔵さん、
メリハリの利いたなかなかユーモラスな語り口で極上に仕上げる。
さすが、歌蔵さん、今日はやったね、大変にご苦労さんでした。
ピーポッポにギタリストの伸一さんやヨッチャン、チッシーたちと来た時はもうグッタリでしたね。
5月12日はとても楽しい1日をありがとう御座いました。