小さな旅&日記

「ツルツル、スベスベ軟質の湯」
2002.12・13<金>NO1

昨日の大雪が嘘のように、今日は朝から晴れ上がった。
閉じ込められた雪の一日から開放されるかのように、近くの銭湯に出かけた。
午後の3時半、もうあいてるはずだよなと、半信半疑になお且つ、無理矢理確信させながら、
旧中仙道のかつての宿場町、仲宿にある、以前から気になる、「花の湯」に自転車で出かける。

さすがに12月の風邪は冷たく、ジャンパーの襟ぐりから入り込む風邪がツツーンと肌をさす。
6-7分で銭湯に着いた。シッカリと営業している。
営業時間は午後4時から午前1時と入り口に掲示してあるが、
もうとっくに営業しているみたいだ。

ホット安心して、下足にスニーカーをしまい中へ入る。
風呂屋の女将が「いらっしゃーいませ」気持ちよくも小気味良い出迎えだ。
これはいけるぞとワクワクしながら、番台で400円を払い、中へ入る。

さすが、私の行く時間だけあって、何時も空いている。
脱衣所で服をロッカーにしまい、風呂場に直行する。
湯船に入る前に、銭湯の礼儀、身体をサクッと洗う。

アレ、何時ものお湯と違うな。ナンなんだろう。湯がツルツル、スベスベしている。
気のせいかしら。きっとそうなんだ、そうに決まっていると自己合点。
ジャグジーの風呂に入った、その瞬間、待てよ、ツルッと底のタイルで足が滑った。
又しても、ツルツル、チャンとタイル磨いてんのかよなんて、怒り出したくなる。

風呂に浸かる。やはり、何時もと湯質が違うようだ。
ユックリと湯船に浸かり、身体が暖まったところで、身体を洗い、ヒゲを剃り、
今度は隣の大き目の風呂に浸かる。右手のボードに何か書いてある。
ボーッと湯煙に曇っているが、近ずいて何とか読むと、
謎を解き明かすメッセージが書いてあった。

硬質の水はカルシウムやマグネシウムを含むが、「花の湯」の水は、東京で初めて、
浄化装置により、完全に軟質化しているので、一切カルシウムもマグネシウムも除去している。
なるほど、そうだったのだ。知らない事ほど恐いものはないなと反省する。
感謝をしても、怒るなんて、おおいに筋違い、お湯さま申し訳ございませんなんて、少しだけ謙虚になる。

隣に居合わせたご隠居に、
「此処のお湯は軟水なんですね。さっきから、ツルツル、スベスベするので、
不思議だななんて思っていたんですけど」
「そうなのよ。この湯に浸かっていると、肌はツルツルピカピカ。
帰りの道はポカポカで湯冷めもしないのよ。ありがたいね此処の湯は」

ツルツルスベスベの理由が分ったらもう大変。
ありがたさが身体の心までヒシヒシヒタヒタ伝わってくる。
いい湯だな~、いい湯だな~なんて鼻歌でもついつい歌いだしたいくらいだ。

しかし、私の入る時間は何時もそうだ。
第一に人が居ない。驚くほど空いている。
第二に平均年齢がとてつもなくたかい。この年で、私が何時も最小年齢である。
どこもかしこも、一物の袋がズルリと下がりぶらついている、昔の若衆ばかりだ。

そう、私もやがてはああなるのかと、深くいたく感慨に浸る。
そして、頭髪は、真っ白か、ツルリと無残にも剥げあがっている。
此処では、私なんかはまだまだ若造なのだ。

何故か、皆長い人生を生きてきただけあって、額の深い皺にも威厳がある。
此処まで来た人生には、喜びや悲しみ、苦しみや楽しさ、いろいろな事がきっと色々あった事だろう。
人は、楽しさよりも苦しい事が多いかもしれない。

しかし、苦しさが大きいからこそ、一瞬かも知れない喜びに感動する。
辛くながい冬のあとに、パッと弾けるように、復活と再生と歓喜の春が来るように。
苦しい時はシッカリと栄養をつけ、いつかは訪れる春のために、強くひた向きに準備しておくにかぎる。
しかし、そうは思いながらも、何時もいつも準備を怠り、なんども痛い目にあっている私である。



「赤虫を食べたら、幸せになれる」
NO12002.11.11

もう、だいぶ昔の話しなのだが。
自称、私の弟子だと称していたテルちゃんが、先輩の鹿野さんを連れてきた。
「マスター、ガキのときから、俺達と遊んでくれた、兄貴です」
「兄貴というほどでもないんですけど。
ゲーセンで一緒に遊んだ、仲間みたいなもんです」

「マスター、兄貴に、何か縁起の良くなる酒、出してやってよ」
「縁起の良くなる酒?難しいな」
「例えば、彼女がすぐ出来るような凄い奴」
「ますます、大変だね。鹿野さん、酒は何でもOK?」
「あまり強くはないですけど。いちおう、何でもいけると思います」

「それなら、テキーラの兄弟みたいな酒、どうかね。正確に言うと、メスカルなんだけれども」
「ダイジョブです。ガツッと、いってみます。いいことありそうですか?」
「グサーノ・ロッホという酒なんだけど。スペイン語で、赤虫のことを、グサーノ・ロッホって言うんだ。
この酒を飲んで、最後に残った、一匹の赤虫をゴクリと食べたものに、幸運が訪れると言われてる」

「マスター、それ下さい。飲みます、グイグイやります」
「グイグイやらなくてもいいから、来るたびに欠かさず飲めば良いじゃないの。以外に早くなくなるものだよ」
「そうですか。チョコチョコ来ていいですか?」
「勿論、大歓迎ですよ」

「マスター、ストレートでダブル」
私は、メキシコの岩塩と櫛形にカットしたライムを出してあげた。
「塩を舐めながら、ライムを口の中でブチュッと噛んで、メスカルをグビグビッと飲み込むといいよ」

「ウスッ!、美味いです。もう一杯ください」
「じゃー、今日は、もう一杯だけにしておきましょう。
飲みなれない酒は、あとで効くから」

それ以来、鹿野さんは、ピーポッポに来るたびにグサーノ・ロッホを飲んだ。
彼は約束どうり店に度々来てはメスカルを飲み、やっと念願の赤虫をゴクリと飲んだ。
「マスター、きっといい事ありますよね。赤虫効果すぐ現れますかね」
「私も、書かれてあったのを、読んだだけで、現実に体験した訳じゃないから」
「マスター、急に頼りない発言だな。でも、俺は信じるよ」

やがて、3ヶ月経った頃、若い女の子と一緒に、彼は楽しそうに登場した。
「マスター、凄いね、赤虫効果、てき面ですよ。出来ちゃいました。彼女、綾乃さんです」
彼女は照れながら、私に自己紹介をした。

「私の言ったこと本当ダロー。信じるものは救われるのよ。信じる力が夢を実現する力になるの」
「マスター、俺が赤虫を飲み込んで、聞いたじゃない。本当に信じるよ、俺って言ったら。
マスター、結構、弱気になったんで、俺心配になっちゃった」
「私もはじめてのケースだから。自信なかったのよ。でも、良かったね。夢が実現して」

やがて、6ヵ月後、神田明神の夏祭り、彼らは目出度くゴールイン。
彼ら2人を祝福するかのように、神田明神の屋台囃子が賑やかに鳴り響く。
神田のホテルで、豪華に挙式と相成ったのである。

私も当日の司会を引き受けることとなった。
華燭の展は豪華に盛大に、そして無事に楽しく終わった。
私も、我ながらうまくく進行したものだわいと思いながら、店に戻った。
結婚式の一週間後、新郎新婦がお礼にやって来た。

「マスター、ありがとう御座いました。辛口の親父もとてもいい司会で,良かったと言ってました」
「そう、それは本当に良かったね。私も気持ちよく司会が出来て、楽しかった。
人の幸せのお手伝いが出来るなんて最高ですよ」
「うちの兄貴なんか、感動してましたよ。あんなに盛り上がった結婚式、初めてだって」

私達は、結婚式の写真やら見ながら、楽しく話題が弾んでいるところへ、シノちゃんが現れた。
「マスター、なんかいいことありませんかね。このところ散々ですよ。彼女には振られるし」
鹿野さん、待ってましたとばかりに、間髪をいれず、隣に座ったシノちゃんに、
「グサーノ ロッホを飲むと良いですよ。間違いなしに、彼女が出来ます、ねー、マスター」
「ウン、保障するね。この2人が証明したから。ねー、鹿野さん」

すると、新婦のアヤちゃん「そうなの、うちの人、マスターに言われて、
そのお酒を最後まで飲みつくしたの。そして、ビンの底に残った赤虫を飲んだのね。
そしたら、間も無くして、私達は出会い、一週間前に、
マスターの司会で結婚式をあげたんです。今日は、そのお礼にピーポッポに伺ったの」

「マスター、ほんと?僕もその酒飲む。今日から来るたんびに、ドンドン飲んじゃう。
マスター、ストーレートでダブル」
「まー、慌てることはないから、ユックリ飲んだほうが身体にいいよ」
「マスター、善は急げですよ。ガンガンやります」
シノちゃん、もともとがラクビーの名門、○○大学のラガーマン、ガッツが違う。
来るたびに、ガンガンメスカルを飲んで、ボトルを開けた。

「マスター、飲みますよ。ウス!これで彼女、間違いなし」
やがて、またしても、3ヶ月位して、シノちゃん、彼女をつれてきた。
「マスター、ミヤさんです。あの酒の力、本当に凄いですね。アッいうまに彼女できました」
「信じるものには、福来るですよ。でも、よかったね。こんな綺麗な人と出会えて」
そして、やはり半年後に結婚し、今は子供も2人生まれ、関西の西宮で幸せに暮らしています。

この話しを聞いた、シノちゃんの会社の同僚の女性も、勇敢にもグサーノ・ロッホに挑戦!
「マスター、私も飲む」
「でも、女性は初めてなので、チョット自信ないな」

やがて、彼女も目的の赤虫にありつき、エイヤ!っと、目を瞑って飲み込んだ。
彼女も、赤虫の効果か、暫らくして彼氏が出来結婚をした。

この話しを聞いたボクサーのヨッチャン、
「ヨシ!それなら、俺は二匹入りのこれを、ガツっと飲みますよ、ウス!」
メスカルのテファナ・ドスを飲み続け、二匹の赤虫をイッキにゴクっと飲み込んだ。

しかし、二匹はおおいに効き過ぎたのだろうか、なかなか効果が現れなかったみたいだが、
最近になり、とても素晴らしい人に出会い、そろそろゴールインするようだ。
赤虫を飲んだ勇敢な皆様に乾杯!
いつまでもお幸せに。