花彫紹興酒に乾杯!
2013年1月26日

 
8時頃、お店に電話がかかって来た。
「マスター、Tです。5人でお店に伺いたいのですけど」
そして30分ほどして来店した。

その日はTさんが指導する弓道部OBの新年会。
その2次会でやってきてくれたのだ。
中高一貫校で城北地区では名高い進学校。
文武両道を校是とするJ校の弓道部は、全国区の強豪でもある。

先日花彫紹興酒を、私のHPにアップした。
するとその翌日、Tさんからメールが入り、近々飲みに伺うとのこと。
私はいつ来店してもいいように、未開封の花彫紹興酒を倉庫から出して用意をしておいた。

20年来の蔵出しである。
すっかり埃りにまみれていたのを、綺麗に拭いて化粧をしてあげた。
いよいよ花彫紹興酒の開封の時がやって来た。

菰蔓から花彫紹興酒を取り出す。
酒壺は開けられるのを拒むように、一点の隙もなく封印されている。
蓋を見ると針穴を大きくしたような穴が3つ見える。
 
その穴へアイスピックの先を拗入れ、グイッグイッと力を加えると蓋が壊れ、セメントのような生地が露出した。
その欠けたところを、アイスピックの柄の底の金属部分で、ガツッ! ガツッ! と力を込めて叩く。
するとガサッと蓋が壊れ、濃褐色をした壺の丸い口が露出した。
だが壺口には錆色のコルクの栓がしてあった。
 
きっとコルクも年数が経ち、かなり脆くなっているはずである。
ワインオープンナーを恐る恐る捩じ込む。
案の定、コルクはボロボロになっていた。
 
注意深くオープンナーを刺し入れ、ゆっくりと引き上げるが、途中で折れてしまった。
がコルクが壺の中に落ちないように、破損したコルク栓を細心の注意を払って、引き上げることに成功した。
さらに壺口の内側にこびりついたコルクの残骸を拭き取る。
そして壺の紹興酒をミキシンググラスなどへ、茶漉しで濾過して移した。
すると30年くらいの深い眠りを醒ました、紹興酒の香りが、馥郁と辺りに漂った。
揺らぐように華やかで妖艶な香気が、店の中を満たしていった。

そして紹興酒を元の壺に戻し入れ、壺から小さなグラスへ注ぎ入れると、さらに豊潤な香りが立ち上り広がる。
長い熟成の間、壺の中に眠り続けた紹興酒は、漆を溶かし込んだような褐色で、過ぎ去った時の長さを伝えていた。
注ぎ終わった紹興酒を見ると、照明に照らされ燦きながら、鏡のような表面に酒紋が滲んでいる。

紹興酒を開封する長い時間の経過の後、5人のお客様たちへ、紹興酒が満たされたグラスが行き届く。
そして皆で乾杯をした。
それぞれにグラスを持ち、香りを愉しむ顔に、長い歳月の時を愛おしむような微笑が零れていた。