禁酒運動(temperance movement)とトーマス・クック旅行会社

禁酒運動と言えば、アメリカ合衆国の禁酒法(Prohibition)が有名である。
「高貴な実験(The Noble Experiment)」と揶揄されながらも、米国憲法修正第18条の下、1919年から1933年まで施行された。
だが、世界的な視点に立てば、19世紀から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパ諸国に禁酒運動団体が、多数発足していた。

英国でも、バプティスト派などのプロテスタント教会が中心となり、禁酒運動活動を推進。
飲酒の代わりに、紅茶を飲むことを勧め、紅茶を飲む習慣を促進したとも言われている。
やがて、厳格なバプティストの両親に育てられた、 トーマス・クック(Thomas Cook, 1808年ー 1892年)は、
様々な職業をしながら、バプティストの布教活動をしながら禁酒運動を推進した。

或る日のこと、 トーマス・クックは、禁酒運動の集会に行く途上、
イースト・ミッドランズにある、レスターシャー州 (Leicestershire)キブワース (Kibworth)で、駅馬車を待っている時、はたと思いついた。
禁酒運動に参加する人達に、旅行を提供してはどうかと考え、団体旅行を考案した。
それは1839年のこと、ミッドランド・カウンティーズ鉄道のレスター駅から、フラバラー駅までの、11マイルの日帰り旅行計画であった。

そして1841年、トーマスクックは鉄道会社とかけあい、鉄道会社はラフバラーで開催される禁酒運動大会へ向かう臨時電車を出し、
500人程の乗客は、往復運賃と食事付きの乗車券を、1人1シリングで、世界初の日帰り団体旅行を楽しむことが出来た。
これを機会に、 トーマス・クックは旅行代理店を創業し、近代ツーリズムを確立。
1885年にはヨーロッパ諸国にも、団体旅行を企画斡旋した。

その後1871年に息子たちと、トーマス・クック・アンド・サン社を設立し、さらにトーマス・クック・ヨーロッパ鉄道時刻表(Thomas Cook Continental Time Tableを発刊。
旅行客に、ホテルの予約や乗車券の手配、そして団体旅行の企画・斡旋・代行業務を行い、当時はまだ高額であった鉄道にも、気軽に乗車出来るようにした。
まさに、近代的な意味で、世界最初の旅行代理店であり、1874年にはトラベラーズチェックも扱い始めた。


また、1872年には世界一周旅行を行い、220日の旅をトーマス・クック他8人のお客と楽しみ、日本にも立ち寄る。
そして、トーマス・クック社は1907年に、日本支社を横浜に開設し、翌年には、日本初の世界一周団体旅行を実現した。
禁酒運動を契機に、世界初の旅行会社が誕生した不思議。
でも、美しい景色を眺めながら、ゆったりと旅を愉しみながら、のんびりと美酒を飲んでいたいですね。
旅に旨酒は、絶対に欠かせません!!