愛の行方は、お酒で分かる?
2010年8月28日


2人の若いカップルがカウンターに座った。
何回目のデートなのだろうか? 互いの恋心は確かなのだが、まだ何処かに距離があるように見える。
男性は女性にポートワインを勧めたが、女性は小さく顔を横に振り、カクテルを飲みたいと言った。
そして、ショート・カクテルのブルー・ムーンをオーダーした。
そのカクテルは、薄紫の美しく高貴な菫色に耀く。

男性は、ジン・トニックを注文し、トール・グラスの中の、絞りいれられた櫛型の緑のライムを眺めながら、静かにに飲んでいる。
2人の間には、微妙に揺れる恋情が漂うが、言葉少なに、それぞれのカクテルを味わっている。
果たして、2人は、飲んでいるお酒の意味を知っているのだろうか。

ブルームーンとは、青い月の意味であり、滅多に見ることのできな月の色である。
滅多にというよりは、それは起こりえないこと意味し、それが発展し、
「once in a blue moon」 (滅多にない)というj熟語が生まれ、「出来ない相談」「叶わぬ恋」と言う意味に使われるようになった。

さて、男性が女性に勧めたポートワインにも、深い意味がある。
それは、男性が女性に愛の告白をしているのだ。
もし、女性が受けてくれたら、女性は求愛をOK、「(ウィンクしながら)今夜は、貴方のお気に召すままに・・・・・・」と言うことになる。


だが、女性の答えは、哀しくもブルー・ムーンだった。
それは、女性のつれない拒絶だったのだ。
あとは、彼女がカクテルの意味を、知らないことを望むだけだ。

だが、男性はまだ諦めきれないのだろう。
ジン・トニックを飲んでいるのだ。
ジン・トニックに使われる、トニック・ウォーターとは、もともとは、キニーネ(キナの樹皮のエキス)を混ぜた炭酸飲料であった。
現在は、キニーネの代わりに柑橘類の皮を使っている。
かつては、使われるキニーネが、マラリヤ等の熱病の予防に効くと言われ、強壮剤としても珍重された。
現在でも、Tonicには、強壮剤[薬]
(肉体的・精神的に)元気づけるもの、という意味がある。

そして、しばらく時がたち、男性はアイラ・モルトのラガブーリンLAGAVULINのニート(生のままで)を注文した。
(LAGAVULINはゲール語で、LAGは窪地・小さな谷間を、VULINは水車小屋を意味する)
そのモルトは、強いピート香りとヨード香が漂い、海藻の打ち上げられた磯のように強い匂いを放つ
モルト評論家の故マイケル・ジャクソンは、100点満点で、95店のスコアを与えている。
そして、世界的なスコッチ・ウイスキーの先駆的鑑定家ウォーレス・ミルロイも、
「他のものと間違えることは決してない。堂々たる重量感。おだやかな巨人的な存在」と評している)

すると、女性は男性にそっと囁いた。
「私、シェリーをいただいてもいいかしら?」
男性は彼女の顔を見ながら、大きな黒い瞳に笑みを湛えながら、小さく頷いた。
そして、普段はアペリティフであるはずの、ドライ・シェリーが、カウンターに座る彼女の前に。
私は、つい心の中で、微笑んでしまった。

女性がシェリーを、男性におねだりする時は、女性が男性に、「今夜はずっと貴方と一緒にいたいの・・・・・・」と、恋心を打ち明ける時。
そして、男性がOKする時、「今夜は君を、何時までも離さないぞ!」と暗黙のうちに語っていることなのである。
果たして、この事を、2人は理解しているのであろうか?
でも、取りあえずは、2人の間に結ばれる心の糸は、前にも増して、より深くなっていることは確かなことである。