繁枡大吟醸の贈り物

先日、お客さまのHさんからお酒が送られて来た。
Hさんは現在は名古屋に住んでいるのだが、かつて福岡の大学で教鞭をとっていた。
今でもHさんは福岡が好きで、忙しい中、暇をみて福岡へ出かける。

福岡の水が性にあっているようだ。
ある時、私の店でHさんと北九州の日本酒の話題になった。
私は佐賀県なら「窓の梅」、福岡県なら「繁枡」が好きですねと言ったことがある。

原料米:山田錦100% 精米歩合:50%
アルコール分:15度以上16度未満 日本酒度:+2.5度
すると或る日のこと、私の店に電話が掛って来た。
「マスター、今福岡に来ています。『繁枡』を送りましたから、明日頃、店に届くかと思います」
翌日、宅急便でお酒が届いた。

早速、お店から帰り、家で深夜、お酒の栓を開き、とくとくとグラスへ注いだ。
グラスは瞬時の内に霧がかかり、純白に煌めいていた。
「繁枡大吟醸」は、口元に近づけ優しく揺らすと、柔らかな芳香が立ち上った。

そして口の中に含むと、清冽で爽やかな味わいが広がる。
微かに口を開け空気と触れると、さらに高雅な匂いが漂う。
そしてするりと呑みこむと、爽快な香りを残して、するすると喉元を滑り落ちる。

大吟醸の濃醇な重さがなく、端麗で気品に満ちた淑女のようである。
50パーセントに磨き上げられた米の芯が、優雅に踊り歌う。
やがて戻り香が鼻孔を満たし、華やかに咲き匂う。

熟れた果実の精華が、心地よい上品な甘みとなって、胃腑の中に消えて行った。
初秋の深宵、一献また一献、静寂の中、日本酒を味わう。
やがて酔いがゆっくりと訪れ、豊かな眠りに落ちて行った。