桃の霊力とピーチツリー
2012年03月10日


3月は桃の節句とお彼岸。
啓蟄から春分への頃は、桃の花が爛漫と咲き匂う。
この時節、山梨県の御坂は、一面の桃の花が咲く桃源郷。

桃花が薄紅に匂い咲き、桃の海には、柔らかな陽光が降り注ぐ。
遥か彼方、中央アルプスの山々には、銀嶺となって、雪が眩むように耀く。
その山稜から、仄かに暖かい風が、来る春を寿いでいる。

桃花は薄紅の絨毯となり、真っ青に広がる空に、大きな真綿のような雲海が流れる。
桃には古来から、不思議な力が潜むと信じられている。
おとぎ話の桃太郎は、山の霊に満ちた上流の川から、流れ下って来た桃から誕生した。

「古事記」によれば、イザナミノミコトは、ホト(陰部)から火の神を産み落とし、その火でホトに火傷を負い死んでしまう。
そして黄泉の国へ下る。
だが、イザナギノミコトは、別れがたく、イザナミノミコトを、忘れることは断ち難い。

イザナギノミコトは苦悶し、黄泉の国へ、イザナミノミコトに会いに出かける。
その時、黄泉の国へ降りて来たイザナギノミコトへ、「私の亡骸を見ることだけはならない」と、
イザナギノミコトへ約束を誓わせ、黄泉の神へ相談に出かけた。

だが、長い間、イザナギノミコトは戻ってこない。
イザナギノミコトは我慢できず覗き見てしまった。
イザナミノミコトの死体には蛆がたかり、腐乱した恐ろしい姿になっていた。

イザナギノミコトは、イザナギノミコトを見て驚愕。
その恐ろしさのあまりに、その場から逃げだす。
誓いを破られ、恥をかかされたイザナミノミコトは、猛然とイザナギノミコトを追いかける。

イザナミノミコトと醜悪な形相で追いかける、ヨモツシコメラの鬼女たち。
イザナギノミコトは必死に逃げ、黄泉と現世の境界まで逃げ切る。
そして逃げながら、三つの桃の実を投げ、黄泉国から脱出した。

やはり、古代より、桃には霊力が備わっていると信じられていたのであろう。
逃げ延びた場所は、黄泉比良坂(よもつひらさか)
黄泉の国からの地上への出口を、大きくて重い石で塞ぎ、イザナミノミコトとから逃げ切る。

この時、大石を挟んで交わした凄惨な会話。
イザナミノミコト「お前の国の人間を、毎日、1000人、殺してやる」
イザナギノミコト「ならば、私は、毎日、1500人の産屋をたてましょう」

中国にも、桃の花咲く桃源郷があると、古来から信じられている。
詩人・陶淵明(365年 - 427年)に描かれた桃源郷の世界。
或る日のこと、中国の武陵(湖南省)に住む漁師の男が、山深く谷川を上ると、かなりの上流の両岸に、桃の花が爛漫と咲きこぼれていた。

その桃花の匂うばかりの美しさに魅せられ、花の精に誘われるように、さらに奥へ遡った。
やがて遥々、水源にまで辿り着いた。
するとそこは山肌が迫り、小さな穴が開いている。

その穴を抜けると、何百年の間、地上のものとは思えない、桃の花が咲き乱れる、桃源郷がひらけていた。
人々は罪と穢れを知らず、歓喜の唄が木魂する理想郷。
歴史の汚濁から程遠く、桃の花が甘く咲き乱れ、桃花の香気に包まれていた。

3月は桃の季節、桃の妖艶な霊気を愉しんでみては、如何でしょうか。
世界的に、桃のリキュールは人気がある。
1949年、イタりアのベネチアにある、ハリーズ・バーで、桃とスパークリング・ワインで作られたカクテル、「ベリーニ」が誕生し人気を博した。

それ以来、世界のリキュール・メーカーは、桃のリキュールを、競って開発した。
そして、1984年に、オランダのデ・カイパー社が、「オリジナル・ピーチツリー」を、世に送り出した。
その誕生秘話。

アメリカにある、ナショナル・ディスティラーズ・プロダクツ社の、研究所に実っていた桃に始まる。
研究所長・アール・G・ラローは、その桃に魅せられ、その艶やかに匂う桃の香気を、酒に出来ないものかと考えた。

そこで事業提携先のデ・カイパー社に相談したところ、様々な創意と工夫の末、開発され、アメリカ市場で発売されたのが、「オリジナル・ピーチツリー」
それ以来、アメリカは勿論、若者に絶大な支持を受ける、世界的に有名な桃のリキュールとなった。
そして、様々なカクテルとなって、世界中で飲まれている。


ピーチツリーのカクテル
桃のリキュールとオレンジジュースで作るファジーネーブル。
桃のリキュールとウーロン茶で割る、レゲーパンチは、何故か紅茶の味がする。
爽やかな季節、桃のリキュールのトニック割りも美味しい。



最近、お客様に、桃のリキュールのアーチャーズを頼まれている。
だが、日本では輸入元がなく、検索したらイギリスの酒屋がヒットした。
お客様はロンドンに住んでいたころ、何時も飲んでいた酒だそうだ。

調べてみれば、確かに、ロンドンではポピュラーなリキュールのようだ。
お酒の輸入の不思議な所で、当然、輸入されていてよい酒が、何故か輸入されていなかったりする。
さらに、人気があるお酒なのに、輸入がストップしていることもある。