三島由紀夫のカクテル説
2012年02月21日


三島由紀夫「魔群の通過(1958)」で、銀座のバーテンダーが登場する。
三島由紀夫は、バァテンダァと表現する響きに、氏が抱くバーテンダーに対する、心地よい余韻を感じる。
その作品の中で、蒼白い小男が、吃りながら、たどたどしく、カクテルの講釈を始める。

「十八世紀中葉の一書誌の著者が云う。
その処方は著者がヨンカーズ町のコックステール・タバーンなる居酒屋の美しい女将ペギー・バン・エイクよりの直伝の秘法であって、
彼女はさる年の某月この調合法をば、許婚なる船長アプルトンのために調整し、
その酒の勢で、彼女の父親の不機嫌に圧倒されないように元気を附けたのだった。
すると彼女の大好きな闘鶏があたかも重大事件を寿ぐかの如く、声高く鶏鳴をつくり、思い切り羽博いたので、
彼の素晴らしい尾羽が一本ヒラヒラと舞い降りてこの美しい娘(今はコックステール・タバーンが女将)の前へ落ちた。
その羽を拾って、彼女はグラスの中を攪きまわした。かくしてこの飲み物がカクテルと命名され、爾来その名で呼ばれるようになったのである。」
三島由紀夫「魔群の通過(1958)」より

私にとっては、今まで読んだことのないカクテル説。
インターネットを駆使して調べてみたが、原典は今だ分からず。
資料を精確に渉猟する氏のことであるから、きっと何処かに、その原典はあるはず。
暇な時に、「十八世紀中葉の一書誌の著者」を探す、遊び心の旅をするのも愉しいもの。