探偵小説とお酒、そして映画
2013年6月12日

バーテンダーはお客様に色々な本を紹介されることが多い。
そのうちの一つに、外国のハードボイルド小説もある。
外国のハードボイルド小説の探偵は、とにかくよく酒を飲み、そして酒に詳しくカクテルへの造詣が深い。

有名なのはレイモンド・チャンドラー「長いお別れ」で、フィリップ・マーロウの「ギムレットにはまだ早い」は有名な科白だ。
さらにスペンサーシリーズで有名な、ロバート・B・パーカー の作品に登場する私立探偵スペンサーはとにかく格好が良い。
日本の俳優に例えれば、高倉健と渡り哲也に松田勇作と加山雄三の良い所を、全て混ぜ合わせたような金髪の二枚目。

そして酒はめっぽう強く、カクテルの飲み方は気障だが嫌みがなく、ジャズを好みさらに教養がありダンディーだ。
彼に近づく美貌の女性は、依頼人であろうとたとえ犯人でも、ホテルでねんごろになるのがなんとも心憎い。
ある時そんな話をしていたら、競馬好きのO氏が「マスター、ディック・フランシスを知っている?」
「知らないね・・・・・・」
「元々は障害競走のスター騎手だったの。でも騎手を辞めた後に作家になった変わり者だね」

それもやはり推理小説で、オーストラリアの牧場主・ダニエル・ロークが、難事件を見事に解決してゆく。
題名は「プルーフ(証拠)」
プルーフは証拠の意味と、お酒の度数の意味がある。

もともとがガンパウダーを用い、お酒のアルコールの燃え方で、アルコール度数を証明したことに始まる。
「証拠」ではアイラモルトのラフロイグが登場し、この酒が事件の重要なモメントになり、物語は展開してゆく。
さて酒と小説といえば、作家のチャールズ・ブコウスキーが大好きなKさんに紹介された「町で一番の美女」は白眉であろう。

ブコウスキーの自伝的な小説で、詩人と高級娼婦の出会いから始まる。
作家チャールズ・ブコウスキーの毎日は、酒を飲んで酔っぱらい、喧嘩が日常の懶惰な生活。
酒であるならバーボンでも何でも、ボトルごとラッパ飲みの酒豪だ。

だがその小説と詩は、独特な詩情に溢れる。
さらに自ら脚本を担当した映画「バーフライ Barfly」(1987年制作」の)ミッキーロークは、まさにチャールズ・ブコウスキーの人生をリアルに演じていた。
その淫らで破滅的な大酒飲みの無頼な作家は、美貌の女性と同衾し別れ、また違う女と同棲をする。

その自堕落な生活ぶりを演じるミッキーロークが秀逸だった。
もともと探偵小説などは私の趣味でなかったのだが、お客様に勧められたおかげで、自分の趣味の世界は広がった。
なんとバーテンダーは愉しいかなもの哉!