久々に出会った、スマートで豪快な酒飲み
2011年11月21日


先週の或る日の9時頃、顔に少し髭を付けた男の人がやって来た。
最初に飲んだのは、ダーク・ラム酒のキャプテン・モルガンのストレート。
濃厚なラム酒が好きだと言うので、私は次のラム酒に、インドのマックダウェルズを勧めた。

お客様は、始めて飲むインドのラム酒の、甘美な味に陶然としていた。
さらに、ボンベイ・サファイヤ・ジンを注文、ロックで飲み、そしてカクテルに移った。
そのカクテルは、見ようによっては、うっすらと色ずくピンクジン・カクテル。

ドライ・ジンとアンゴスチラ・ビターの絶妙なミキシングが決め手だ。
グラスに注がれたカクテルを口に含み、良いですねと、にっこりと笑顔で応えてくれた。
さらに、スコットランドで一番売れてるブレンディッドウイスキー、のフェイマス・グラウスのジンジャー・エール割り。

レモン・スライスの真ん中に、ナイフを入れ、ツイストをしてグラスに添えた。
ジンジャー・エールが好みのようなので、私は当店自慢の、本物のモスコ・ミュールを勧めた。
銅のマグカップに氷をたっぷりと加え、スミノフ・ウォッカを注ぎ、ライム・ジュースを搾りいれ、ジンジャービアを加える。

初めてのモスコ・ミュールの味は新鮮で、深く堪能していた。
そして私は、この冬に向けて作った、生姜を使ったホット・オリジナル・カクテル「ホット・ウイスキー・マック・ピーポッポ・スタイル」は如何ですかと。
すると答えは「ぜひ!飲みたいですね」

そこで、本年初の出来たてのオリジナル・カクテルを作って差し上げた。
耐熱グラスに、フェイマス・グラウス、生姜のワイン・ストーン・ジンジャー・ワイン、好みの量の蜂蜜を入れ、
暖かいお湯を注ぎ入れ、シナモンを加え、レモン・スライスを浮かべる。

さらに仕上げに、生の生姜の搾り汁を流し入れて、出来上がりである。
すりおろしている時から、あたりには生姜の香りが漂い、グラスに注いだ瞬間、お湯の熱により、さらに香りが広がった。
「マスター、まさに、これは薬膳カクテルですね。身体が温まり、滋養強壮にも良いです」

「節電の今年の冬、体が温まり、新陳代謝を活発にする生姜が、色々なシーンでブームになるようです」
「そうですか? お酒はもともとが薬ですから。カクテルを飲んで、健康を促進できれば愉しいですね」
「リキュールの語源は、ラテン語のliquefacereで、(溶かす、溶かしこむ)の意で、身体に優しく吸収することを、助けることから来ていますから」

さらに、アイリッシュ・コーヒーをオーダー。
柔らかすぎず硬すぎずに、私は生クリームをホイップする。
そして耐熱グラスへ、赤ザラメの砂糖と、アイリッシュ・ウイスキーを注ぎ入れる。

お湯が沸騰したので、火からポットを降ろし、80度位まで冷ます。
そしてグラスの上に置かれたコーヒーフィルターの中のコーヒー粉へ、湯を落とし、ゆっくりと蒸らす。
コーヒーの香りが豊かに店の中に漂う。

その後、お湯を幾度となくつぎ注ぐ。
濃いめに入れたコーヒーがグラスに、程よく満ちた処で、ホイップ・クリームを滑らかに浮かべる。
硬すぎず、さりとて柔らかすぎない純白のクリームが、漆黒のコーヒーの上に浮かび、白と黒色の美しいコントラスを見せる。

「マスター、これです本物のアイリッシュ・コーヒー。熊本にある有名なバーで飲んでいたものです。
わざわざ、私のために、クリームをホイップしてくれていたのですね」
彼は1年くらい前まで、熊本城下に住んでいたらしい。

熊本城下には、たくさんのバーがあり、そのレベルもとても高いようだ。
そしてアイリッシュ・コーヒーを飲み終えた後、「マスター、今日はこれで終わりにします」
仕上げに、20_の小鬢入り、薬種のウンダーベルグを注文した。

まさにこれこそ薬種の代表格、本場ドイツでは、1日に8万本ほど飲まれると言われる。
ドイツでは、ビールを飲み疲れると、この酒を飲み、胃を活性化し、またこの酒を飲み、そして最後の最後に、この酒で明日への備えをする。
人差し指よりも小さな瓶から、小さなグラスへ注がれた薬種を、一息に飲みこむ。

「マスター、最後にと思っていたけど、もう一杯飲ませてください。マンハッタンをお願いします」
私はミキシング・グラスへ氷を入れ、ライ・ウイスキーのオールド・オーバーホルトを注ぎ、
フレンチ・ベルモットのスイートを加え、アンゴスチラ・ビター垂らしステアーした。

冷えたカクテル・グラスに、ミキシング・グラスから、カクテルを注ぎ入れ、マラスキーノ・チェリーを添えてお客様の前に。
グラスに注がれた、仄かに赤いカクテルを、いとおしむように、香りを愉しみながら、ゆっくりと口元へ。
そして一言、美味しいですね!

たくさんのお酒やカクテルを、愉しい会話を交わしながら、ゆっくりと時間は流れた。
マンハッタンは飲み干され、今度こそ、最後の一杯になった。
そして、会計を済ませ、笑顔で「ごちそうさま」と言って、しっかりした足取りで店を後にした。