GIMLET(ギムレット)

日本でも大変に人気のあるカクテルに、GIMLET(ギムレット)がある。
1953年に刊行された、レイモンド・チャンドラー作「長いお別れ」のなかで、主人公の私立探偵・フィリップ・マーロウが語る、
「ギムレットには早すぎる」の科白に、ハードボイルド好きならば、誰もがぞくぞくしたことだろう。
スタンダード・カクテルならば、バーでオーダーされるカクテルのトップテンには入る人気カクテルだ。

今では、ドライ志向で、生ライムのジュースを使うところも多い。
私もやはり、生ライム・ジュースを使い、少し甘口にする時は、フランス産の天然砂糖液100%のカリブを加え、ハードにシェークする。
だが、もともとは、ジンにライム・コーディアルを加えて飲んでいた。
今で言うならば、ジン&ライムである。
それが、現在のように、シェークしたものがギムレットで、
オンザロックスタイルのジン&ライムと、使い分けられるようになったのは、20世紀半ばの事である。

ところで、このカクテルの起源は何時か?
イギリス海軍では、水兵には毎日半パイント(568ml×1/2)のラム酒が振る舞われ、下士官や将校にはジンが提供された

だが、半パイントと言えば、ビールの中瓶の二分の一強のかなりの量だ。
昔から、インド洋を航海するイギリス東洋艦隊の悩みの種は、長航海による船員の脚気だった。
つまり、野菜や果物不足による、深刻なビタミンCの不足だった。
それを解決するために、ライム・ジュースに砂糖を加えたシロップを発明した。

生のジュースだけでは腐敗してしまう。
もともと、ライムは熱帯アジアモンスーン地帯が原産地。
植民地のインドのボンベイやマドラスで、大量に詰め込んだライムジュースに、
砂糖を加えることにより、ビタミンCを長期保存したのだ。
その代表が1867年に発売された、ローズ社のライム・コーディアルである。
それ故、100%オーバー(57%)のアルコール強度を誇る、海軍御用達のプリマス・ジンと、
ローズ社のライム・コーディアルを使用して、シェークしたものを、ギムレットの正統派と考える人たちもいる。

その頃はすでに、アンモニア圧縮により、人口製氷機が1870初頭に発明されていたので、冷たい氷を使ったカクテルを飲んでいたであろう。
それでは、ギムレットの名前は何処から来たのかと言うと、東洋艦隊の海軍医に、T・O・ギムレット卿がいた。
当時、海軍の水兵たちは、ジンのストレートか、ジンに僅かの酒精強度も高いビターズを加えて飲んでいた。
強いアルコール度数を持つラム酒を、ストレートやビターズ入りで飲むのは、水兵の健康に良くない。
そこで、1890年の事、ビタミンCのたっぷり入った、「飲むサラダ」のライム・コーディアルを加えて飲むように、軍医ギムレット卿は提唱した。
これが、ギムレットの名前の来歴であり、生まれたのはインド洋上であったということなのである。