デザートはフランス料理の華
2013年7月10日



フランス料理の肉料理・ヴィアンド(viande)には、肥育された動物の肉料理とジビエ(gibier)の料理がある。
肥育した牛や豚などの料理が終わると、口直しにシャーベット(sorbet)などが出る。
そして肉料理の華である野生の鳥獣料理がサ−ビスされる。

かつてフランスの特権階級である封建領主たちや王侯貴族は、狩猟をするのが紳士の嗜みである。
それは戦に備える野戦の訓練でもあった。
自分の領地で部下を従え、野生の野鳥や獣を銃で仕留め、その戦果を屋敷に持ち帰り、お抱えの調理人に調理させた。

フランスにおいてテーブルに出されたジビエの中から、弾丸が出てきたとしたら、それはまさに正真正銘のジビエ。
饗された客人は怒るどころか、笑みが漏れるであろう。
そしてジビエが終わると、テーブルの物は全て片付けられる。

この片付けることをフランス語で、デセール(dessert)と言う。
それを英語読みにするとデザートになる。
つまり全てのものをテーブルからかたす事により、料理の最大のイベントが始まる。

砂糖をふんだんに使ったお菓子が登場する。
最近は甘い小さなお菓子類が多いのだが。
勿論この時、様々なチーズ(fromage)も出される。

かつて美食家の元祖のような存在のブリア・サヴァラン(BulliatーSavarin1755年ー1826年)が『美味礼賛』で言った。
「チーズのないデザートは、片目の美女のようなものだ」
砂糖はもともとアジアモンスーン地帯の作物であった。

それをコロンブスたちが大航海をして、中南米に運び植樹した。
すると砂糖は適性を示し、大変に繁茂し大いなる富をヨーロッパへ齎した。
その砂糖は大航海の末、大変な危険を冒して、ヨーロッパに運ばれた。

それゆえに砂糖はとても高価なものであった。
それをふんだんに惜しみなく使い、お菓子を作ると言うことは、王侯貴族の特権であり権力の証明であった。
かつて私が麻布辺りの大使館へ、フレンチのサービスに行っていた頃の話である。

ジビエが終わりデザートになった。
大きなサービスのプラッター(楕円形の大きな盛り皿)に盛られたたくさんのケーキを、会食するお客様へ持ち回る。
日本人ならば甘いケーキなどどうでもよく、適当に選んで差し上げれば良い。

だが外国人は違う。
目を皿のようにし、老齢の紳士淑女が、プラッターの上に盛られたケーキを選ぶ。
まさに真剣勝負のようであったことを思い出す。

そして最後にコーヒーを飲み終わると、ホストがグラスをスプーンでカチーンッ! と軽くたたく。
クリスタルは美しい響きとなり、ホストは居間へお客を誘う。
そして広い居間で緑豊かな庭園を見ながら談笑し、甘い香りの漂うブランデーや、甘く妖艶な色のリキュールを楽しんでいた。

食後の語らいの時、それはまさに甘いカクテルやリキュールが主役になっていた。
ヨーロッパにおいて、甘い酒や甘いお菓子は、パーティーの主役である。
残念ながら日本においては、酒飲みは左党と言い、辛口と決まっている。