天使のわけまえ「Angels' Share」

天使の分け前って知ってますか?
お酒好きの人ならば、たぶん何処かのお酒の席で、聞いたことがあるのではないでしょうか。
特に、洋酒好きの人ならば、行きつけのバー等で、誰かが酒談議などをしている時に。
スコッチウイスキー等が蒸留され、樽の中で熟成している時、
無色透明の蒸留酒が、歳月を重ね、やがて琥珀色に変わる

その時、樽の中の液体が、少しずつ気化して、
年間約3パーセントから5パーセント位、蒸発すると言われています。
その蒸発した気体を、天空の愛くるしい天使たちが愉しむと言う。

酒のお話としてはとても愉快で、ほのぼのとした比喩、ついつい微笑みも漏れる。
お酒の熟成とは、まさに神様が与えてくれる摩訶不思議で、豊饒な贈り物。
樽から溢れ出るエキスと、自然の気候と、お酒が造り出す予定調和の賛歌。
きっと、天使もお酒造りに、にこやかに参加しているのだろう。

だから、当然の事、「
天使のわけまえ」を貰う権利もある。
しかし、ここが肝心。
アルコール分子は、水の分子よりも大きい。
だから、水分は蒸発するが、アルコールは樽の中から、一滴も外に蒸発することはない。
すると、天使が飲んでいる分け前は、蒸発した水を飲んでいる事になる。
なるほど、それならば、天使は酔っぱらうこともなく、天から落ちることはない。
お酒造りを手伝う天使が、堕天使になっては、余りにも可哀そうだ。


ところがである。
コニャックーの場合、単式蒸留器で2回蒸留して、68〜70度の蒸留原液を得る。
それをリムーザンオークなどで熟成させる。
熟成が進むとともに、平均にして、15年経過すると、おおよそ、6〜8度位、アルコール度数が低下すると言われている。

それは、アルコール度数の低下にもよるが、アルコールが化学変化により、
エーテル等の芳香性物質に、一部変化して、華やかな香りを放っている。

つまり、水よりアルコールの方が、蒸発が早く、熟成樽の気孔を通るとも言われてもいる。
しかし、非常に乾燥されている場合には、水も蒸発するので、アルコール度数の低下は遅く、
樽内のコニャックの減少は大きく、ハードでドライな酒質となる。
それに対して、湿度の高い熟成庫で熟成させた場合、アルコール度数の低下は大きく、容量の減少は少なく、ソフトで芳醇な酒質となる。
このように、コニャックを熟成する場所の条件にも、大いに左右されるデリケートなお酒なのである。

それでは、天使は、水かアルコールのどちらを飲んでいるのだろうか。
結論として、湿潤な条件では、アルコールを分け前として飲み、乾燥した熟成庫では、大いに水を飲んでいるとも、言えるのではないのだろうか。
天使さま、どちらにしても、天界を飛翔できなくならないように、分け前は程々に愉しんでください。