村上水軍とイタリアの酒カンパリ

インターネットで録画を観ていた。
ピーター・バカランが、村上海賊ミュージアムを、訪れていた。
戦国時代、村上水軍は、瀬戸内海を支配し、織田信長軍の水軍を、完膚なきまでに叩き潰したことで知られる。

村上水軍の本拠地の能島・来島・因島周辺には、大小さまざまな島々が密集し、航路は入り組み、海流は夥しく変化する。
現在も海の難所で、外国船舶や日本の貨物船が、衝突事故を度々起こす。
だが古来、来島海峡などは、多くの船が行きかう、海上交通の要であった。

村上水軍は、時には航海する船舶の水先案内や、海上警護、海上運輸を担い、また船舶の通行税を取り、莫大な財力を持った。
通行税を拒否するものには、強権を発動し、金品を強奪した。
それゆえに瀬戸内海の海賊と、恐れられた。


村上海賊ミュージアムに、村上水軍の武将村上武吉が着た、猩々陣羽織(しょうじょうじんばおり)が展示されていた。
の紋が、鮮やかな鮮紅色に、染め抜かれている。
資料館の学芸員が、陣羽織の赤は、何で染めたか分かりますかと、バラカンに訊いた。

バラカンは分からない。
学芸員はヨーロッパから、来たものですと言う。
私は直感的に、アレだと思った。

学芸員は答えを言った。
それはカイガラムシからとった、天然色素ですと。
私の直感は当たった。

海賊の棟梁村上武吉は、この陣羽織のために、莫大な金を使い、染め上げさせたことであろう。
見事なまでな鮮紅色は、水軍の将に相応しい。
この色に魅了された、勇猛果敢な武将の心意気を感じる。

ではなぜ、この赤がカイガラムシの色素だと、私が分かったのか。
それはイタリアを代表する、鮮紅色のリキュール、カンパリの着色料を、知っていたからだ。
このカンパリの色が、南米などで植物に寄生する、カイガラムシのコチニール色素なのである。

だが現在のカンパリは、2007年以来、代替着色料の食用赤色102号、食用黄色5号、食用青色1号に変わっている。
戦国時代の昔、遥かな異国、ヨーロッパから、日本へ届いた、天然色素カイガラムシ。
ヨーロッパとアジアの外れを結ぶ糸、歴史の浪漫を感じた。  

2023年2月7日