マスター&ママの小さな旅
晩秋の北茨城・花貫渓谷を訪ねて
2021年11月28日

北茨城に来るのは、去年の11月以来だ。
袋田の滝と、竜神峡大吊橋に、紅葉狩りに出かけたのだった。
季節はすでに、名残の秋の風情だった。
 
花貫渓谷の駐車場に、着いたのは、10時半頃だった。
東京を発って、約2時間半である。
福島に近い北茨城は、意外に近い。
 
駐車場には想像以上の車が、停まっていた。
今日は花貫渓谷の、紅葉祭りの最終日。
駐車場代500円を払い、係員の指示に従い駐車した。
 
駐車場には、露店が数店たっていた。
だが紅葉狩りの、盛りを過ぎたせいか、どこか寂しげである。
駐車場を過ぎると、汐見滝吊り橋へ向かう、素朴な階段があった。
  
階段を上り、舗装された、広い散策道へ出た。
路面に杉林の木漏れ日が、斑模様を映していた。
杉林は整備され、清々しさを湛える。
  
散策道の左手に、花貫川の清流が、音もなく流れていた。
昼近い陽光が、水面を照らしている。
すでに水温が、かなり低いのであろう、魚影は皆無だった。
  
杉林を過ぎると空が開け、日差しが眩しいくらいだった。
すでに紅葉狩りを終え、戻る人たちとすれ違う。
すると紅葉した木々に、迎えられた。
 
さらに進むと、散策道に、たくさんの枯れ木が、散乱していた。
昨日、かなり強い風が、吹き荒れたのであろう。
強風が吹き折る、烈しい音が聞こえるようだ。
 
ママは懐かしそうに言う。
「子供のころ、実家の近くで、枯れ木を集めたのよ。
この枯れ木が、焚きつけになり、パチパチとよく燃えたの」
やがて、汐見滝吊り橋に到着した。
キャットウォーク式の、長さ約60メートル、幅1.5メートルの、木製吊り橋。
想像していたより、こじんまりしていた。
 
吊り橋と言うと、つい静岡県・寸又峡や、伊豆・城ケ崎と、比較するからだろうか?
吊り橋を渡り、下を見下ろす。
水量豊かな汐見滝が、流れ落ちていた。
 
紅葉の最盛期なら、滝と紅葉が美しい、コントラストを、描くであろう。
だがすでに、紅葉は名残である。
吊り橋を包む木々も、冬枯れが近いことを、匂わせていた。
  
橋を渡ると、吊り橋の付け根の溝に、枯れモミジが、模様を刻んでいた。
吊り橋は逆光となり、景色を鮮やかに、染め上げている。
紅葉祭りの期間は、11月6日から11月28日。
  
紅葉の盛りの時期には、この吊り橋は、人で溢れていたことであろう。
さすがに紅葉狩りの最終日。
閑散とした風情である。
先ほど来た、吊り橋を戻る。
橋下の花貫川が、きらきらと輝いていた。
吊り橋を渡り、吊り橋の下へ降りる。
 
遠くに吊り橋が、雑木林の中に見える。
昼近く、吊り橋を渡る人も少ない。
すでに紅葉から、季節は冬枯れに、変わり始めている。
 
吊り橋の下から見上げると、名残の紅葉が、吊り橋を包んでいた。
吊り橋の下を潜ると、正面に汐見滝が、迎えてくれた。
昨日は強い風と、雨が降ったのであろ。
地面に水たまりがあった。
岩の裂け目を、豊かな水流が、滝壺に落ちる。
その瞬間、飛沫がたち、滝壺が白く変わる。
  
日本人は滝に、どこか神秘的なものを感じる。
滝を眺めた後、吊り橋の下を戻り、散策道へ。
途中、水たまりを囲むように、落ち葉が地面を、秋色に染めていた。
 
散策道に人影は少なく、閑散としていた。
風もない好天気だが、日陰に入ると、ひやりと冷気がさす。
この季節、日が落ちれば、かなり厳しい寒さが、襲うであろう。
駐車場への戻り道、モミジカエデが、陽光を浴び、
青空を背景に、くっきりと浮かびあがる。
1週間くらい前なら、鮮紅色も見事に、映えたであろう。
晩秋の陽光を、浴びながらの散策は、約1時間半だった。
紅葉狩りの人混みもない、のんびりした時間を過ごした。
駐車場をあとにし、昼食へ出かけた。
 
国道461号線を、高萩市街へ向かう。
その途中、先日テレビで紹介されていた、ドライブインに着いた。
幸いにも席は空いていた。

この時期、メニューはうな重と、焼肉定食だけだった。
ドライブイン名物の、うな重を食べる。
値段は2500円、甘口のたれで美味しかった。

そして宿泊予定の、横川温泉郷へ向かった。
山間の道を、30分ほど行くと、温泉郷に着いた。
横川沿いに、旅館が数軒たっていた。
 
旅館のチェックインには、少し早かったが、部屋へ案内してくれた。
2階の部屋から、北茨城の山稜が、陽光を浴びている。
そして一休みし、買い求めた地酒を一杯やってから、階下の風呂へ行った。
 
身体を洗い、湯船に浸かる。
微かに硫黄の匂いが、立ち上る。
湯はつるつると肌を包み、ころころと肌を滑る。

この湯は、八幡太郎義家の湯と言われ、義家旗下の兵士の傷を、癒したと伝わる。
湯船の横に蛇口があり、「飲泉ができます」と書いてあった。
口に含むと、冷たかった。

この泉質は、昔風に言えば、鉱泉なのであろう。
懐かしい硫黄の香りが、口内に広がる。
そしてふんわりと、マシュマロのような、弾力を感じた。

さらにごくりッと飲み込むと、甘みが余韻となった。
飲泉は長野県別所温泉以来であろうか。
身体の芯が、洗われたような気がした。