マスター&ママ京都旅情Ⅱ
宇治の平等院から夜の八坂神社へ
2019年1月20日

京都の2日目の11時頃、N青年と娘が、ホテルへ向かえに来てくれた。
今日はN青年の実家に、招待されている。
京都駅から、真っ直ぐに伸びる国道を、宇治に向かう。

京都の道路は、広くて何処までも、曲がることなく伸びる。
市街地から離れると、京都の景色も変わる。
やがて宇治に向かう、国道24号を進む。

なだらかな坂道を行くと、やがてつづらな、片側一車線の道になる。
左手に宇治川が流れ、天ケ瀬ダムを超す頃は、深い渓谷になった。
かつてこの峠道はなく、川沿いの道を利用していたそうだ。

だがダムができ、村が湖底に沈み、この県道が開通した。
秋になれば、このあたりは、秋色に染まることであろう。
やがて峠を越し、県道62号を行くと、平地が前方に、広がった。

そこはお茶で名高い、宇治だった。
やがて宇治茶の中心地、宇治田原町に着いた。
その宇治田原町の中心地に、N青年の家があった。

旧道に開けた、商店街の中で、町屋造りの、趣のある構えの旧家である。
玄関を開けると、N青年のお父さんが、迎えてくれた。
玄関を上がり、奥座敷へ案内される。

そこは畳敷きの大広間である。
先祖を祀る仏壇に、手を合わせ、主人と挨拶を交わす。
そして主人が淹れてくれた、昆布茶をいただき、歓談する。

やがて黒漆に沈金のお重が運ばれ、ビールで乾杯をする。
2段のお重の下段に、お寿司が並び、上段にはお造りが盛られ、別添えに天ぷらと、茶わん蒸しが置かれた。
そして主人が、高知に旅したときに購入した、日本酒「四万十の風」の口が切られた。

昨日に続き、酒宴が始まった。
座敷障子の、嵌め切りガラスの向こうに、坪庭が見える。
奥に勧進したお堂が建ち、その前に石灯籠が置かれている。

枯れ泉水の、周りの岩は苔むし、京都らしい風情を添える。
その手前に、山茶花の花が、紅に咲き匂い、季節を演出している。
今日も又、美味しい酒を頂いた。

今日はこれから、N青年の案内で、宇治の平等院まで、出かける計画である。
すでに3時近く、主人のもてなしに、深く感謝しながら辞去した。
そして先ほど上って来た道を下り、20分ほどで平等院に着いた。
 
さすがに、肌寒い1月の宇治、駐車場は閑散としていた。
駐車場から少し歩くと、平等院表門が迎えてくれた。
簡素な佇まいの、表門を潜ると、右手前方に、朱色の優雅な、平等院が見える。

修学旅行を含め、京都に何度も来ているが、ここへ来るのは、初めてである。
お札やコインで見慣れているので、何となく親しみを感じる。
3時半からの、鳳凰堂内覧最後に、かろうじて間に合った。

拝観料を払い、平等院鳳凰堂の中へ入る。
拝殿の中には、2.84メートルの阿弥陀如来坐像が、二重天蓋の下に、厳かに安置していた。
平安時代を代表し、寄せ木造りを完成させた、定朝作である。

仏さまの衣文は、滑らかな曲線を描き、優雅に流れる。
その尊顔は高貴で、微かに笑みを湛えているようだ。
壁には木造雲中供養菩薩たちが、様々な楽器を奏でている。
 
内殿の装飾は、今は剥落しているが、創建当時は、極彩色に輝いていただろう。
キュレイターの説明を聞いたあと、鳳凰堂を出る。
阿字池の向こうに、見学者の姿が、ちらちら見える。

行楽の季節には、このあたりは、見学者で溢れるであろう。
小雨が降りだし、池面に漣が、微かに揺れる。
見学を終え、外に出ると、雨が僅かに残っていた。
  
だが程なく、雨はやみ、雨雲が切れ始めた。
阿字池を回り、平等院の正面に来て、拝殿を見る。
先ほど見た阿弥陀如来のお顔が、照明を浴び、金色に輝いていた。
 
そして左右に、翼廊を広げる平等院が、池面に優雅な逆さ絵を、映していた。
そして池を巡り、近代建築の鳳翔館に入る。
そこには、様々な平等院に関するものが、展示説明されていた。
 
そして梵鐘や鳳凰一対などの国宝を見て、鳳翔館館を出る。
平等院の裏手を歩くと、鳳凰堂の甍の両端に、鳳凰が雨上りの、燦光を浴びていた。
なだらかな下りの道を行くと、塔頭が点在し、閑静な趣を漂わせる。
  
禅寺風のお寺に、人影も少なく、森閑としていた。
そして石畳を下ると、平等院の横に出た。
午後の陽は大きく傾き、冷気が辺りを包み始める。
   
陽が落ち始めると、宇治の里は、寒さが忍び寄る。
そして平等院に別れを告げ、駐車場に戻った。
駐車場には、私たちの車が、ぽつりと1台停まっていた。
  
それから京都駅に向かった。
途中、祇園で降ろしてもらい、夜の京都の町を散策する。
さすがに京都の町の夜は、観光客で溢れていた。

その賑わいの中を、八坂神社に行くことにした。
前回来たときは、近くまで行ったが、時間の都合で断念した。
前方に八坂神社の西楼門が、ライトアップされ、朱色に浮き出ていた。

参道を進むと、右手に祇園えべっさんが鎮座していた。
商売繁盛の神様に、手を合わせる。
そして西楼門の前に出た。

その前の石段に、中国人の観光団が、ガイドの説明を聞いている。
石段を上り、楼門を潜ると、正面の舞殿を、花街の置屋や料亭から奉納された、たくさんの提灯が照らす。
花街祇園の夜の神社に、提灯が似合う。
 
提灯の列の真ん中に、井上八千代と記された、提灯が灯る。
京舞井上流家元の名跡の提灯が、ひときわ輝きを、帯びていた。
そしてひっそりと静まる、本殿の鈴を鳴らし、拝礼し柏手を打ち、手を合わせた。

舞殿を回り、ライトアップされた、南楼門へ行く。
楼門を潜ると、広い参道が真っ直ぐに伸びる。
その参道を囲むように、料理屋などがたちならび、京都の風情を醸していた。
  
そして京都の情緒を愉しみながら、散策したあと、タクシーで、京都駅に向かった。
途中、京都伊勢丹に立ち寄り、白杉酒造「白木久BASARA」を購入する。
ホテルに戻り、8階の廊下から、外を眺めると、ホテルの正面が、金色に輝いている。
 
部屋に入り、窓外を眺めると、京都タワーが、昨日とは違う色で、夜空に聳えている。
そして京都駅前の道路が雨に濡れ、ネオンの光りが、反射していた。
服を着替え、先ほど購入した京都北部丹後の銘酒を、グラスに注ぐ。
 
今日一日の予定は、つつがなく終わった。
窓外を眺めながら、ゆっくりと日本酒を飲む。
瓶囲い無濾過原酒のふくよかな香りと、豊潤な味が、心地よく体に浸みこんだ。