マスター&ママの紅葉旅情Ⅱ
栃木県日光市龍王峡を訪ねて

(栃木県日光市藤原)
 
源泉かけ流し100%の、朝風呂を浴びたあと、午前10時半ころ、ホテルをチェックアウトする。
今日も快晴の行楽日和。
鬼怒川温泉と、川治温泉の間にある、龍王峡へ向かった。
 
会津西街道を南下し、30分ほどすると、川治温泉を通過。
さらに20分ほど行くと、龍王峡の無料駐車場に出た。
建ちならぶ土産物屋さんの横に、石の鳥居が建っている。
 
鳥居を潜ると、傾斜の緩い下り道を進む。
平日の午前、予想に反して、大勢の観光客がいた。
どうやら東南アジアからの、団体さんのようだ。
 
老若男女の団体さんで、賑やかだ。
だが傾斜の緩い散策道は、一転、勾配が急峻な、九十九な道が続く。
遠くにエメラルド色の清流が、樹々の間に見え始めた。
 
だがそこまで、かなりの距離があるようだ。
さらに下ると、正面右に、水量も豊富な滝が、勢いよく落下していた。
その左手に、虹見橋が優雅な姿を見せる。
  
九十九折りの石段を下ると、断崖の上に、小さな五龍王神社があった。
それは鬼怒川と川治の守り神とされ、御神体の龍神像が祀られる、神聖な神社である。
狭い境内は、先ほどの団体客で、ごった返していた。
  
神社にお賽銭を供え、手を合わせる。
前方を見渡すと、虹見橋の全景が広がり、右手に瀑布・虹見滝が、陽に輝いている。
落差20メートルの滝から、怒涛のように、鬼怒川へ流れ落ちる。
 
時には、滝の飛沫が陽光に反射し、美しいい虹を描くので、この名前が付いたのだろう。
今日は快晴だが、残念ながら、虹を見ることはできなかった。
しかし、鬼怒川のエメラルドと、鮮やかな紅葉と、豪快な滝のコントラストは、圧倒的である。
  
これから展開する景色に、わくわくと心が躍る。
木漏れ日の射す、木の階段を下る。
下るに従い、樹々の間に、清涼な空気が流れ、流れ来る風が薫る。。
  
さらに、ごつごつした、石の道を下ると、虹見橋に出た。
正面に、渓谷美が広がり、右手に虹見の滝が、怒涛のように流れ落ちる。
この渓谷美は、川治温泉と鬼怒川温泉の間、3キロメートルも続く。
  
およそ2200万年まえに、海底火山により、火山岩が地上に噴出。
そして長い年月により、火山岩が鬼怒川に侵食され、複雑な渓谷美を、つくりあげた。
その姿は、龍がのたうつ姿のようで、龍王峡と名付けられた。
 
台風や豪雨の時、厚く黒い空に、稲妻が光り、雷の轟音が轟く。
清流は瞬くうちに、黒褐色の濁流となり、岩礁の樹々を飲みこみ、岩を抉り取る。
耳をつんざく豪音を響かせて、激流は巨岩を切り裂き、傲然と流れ下る。
 
そして下流の里村をのみ込み、甚大な被害を与える。
だが季節になれば、水神の龍王がもたらす慈雨が、自然を育て、季節の恵みを与えてくれる。
竜王は恐怖と畏怖の対象であるが、それはまた畏敬と尊崇、恵みの神でもある。

  虹見橋を渡ると、渓谷沿いに、遊歩道が整備されている。
ここから、むささび橋巡回コースが始まるようだ。
全長1.5キロ、所要時間は45分のようだ。
 
それ以外に、川治湯元まで、5キロメートル、所要時間2時間のコースもあるようだ。
もちろん私たちは、所要時間の少ない、、むささび巡回コースを選ぶ。
橋を渡り、木製の柵の内側の、遊歩道を進む。
 
やがて道はアップダウンする、厳しい道が続く。
遊歩道を歩く人も、殆どまれで、時おり、むささび橋方向からくる人たちと、すれ違う。
想像したより、手ごわい散策になった。
 
すすむに従い、遊歩道の足元は、さらに険しくなる。
やがて、むささび橋まで、0.4キロメートルの標識の前に出た。
ほっと一安心し、少し休むことにした。
  
そしてさらに、遊歩道を進むと、むささび橋のたもとに出た。
虹見橋に比べると、質素な橋であった。
だが橋の上から見る景色は、圧倒的な迫力に満ちていた。
  
灰褐色の岩場を、鬼怒川が深く切り込み、その間を鬼怒川が、蛇行しながら流れ下る。
川面はエメラルド色に染まり、川水が岩にぶつかり、白い水泡が、陽光で耀く。
切り裂かれた岩が、陽光を受け、対岸の岩に影を映す。
 
ここまで来なければ、この雄壮な景色を、見ることは出来なかった。
ここから先、川治湯元の方へ進めば、さらダイナミックな、渓谷美が続くであろう。
私たちはここから、先ほどと異なる遊歩道を、0.7キロメートル先の虹見橋へ向かった。
 
こちらの遊歩道の方が、人気があるのであろうか。
先ほどより、道が整備され歩きやすく、歩く人の数も多かった。
やがて右手眼下に、紅葉に包まれた、鬼怒川の清流が見えた。
 
静謐な川面は、エメラルド色に染まり、灰白色の岩と、紅葉がハーモニーを奏でる。
深山渓谷の秋は、色とりどりに燃えている。
雑木林の遊歩道は、根株が張り出し、厳しい自然を映し出す。
  
足元を気をつけながら進むと、清涼な空気が漂う。
やがて眼下に、渓谷美が一層明瞭に、見え始めた。
遊歩道を歩く人の、数も増え始め、愉し気な会話が聞こえる。
  
やがて虹見橋まで、0.3キロメートルの、表示板が現れた。
いよいよ巡回コースも、最終章に近づいた。
想像したより、厳しい散策も、もうすぐ終わるのかと思い、ほっと気が休まる。
 
程なくすると、竪琴の滝が、左手に見えた。
ここにたどり着くまで、幾つの滝を見たことだろう。
この渓谷には、たくさんの滝が、鬼怒川に注いでいる。
 
苔むした岩の間を、白い絹糸をひくように、幾筋に流れ落ちる。
そのせせらぎが、森厳な森に、共鳴しているようだ。
濃い緑に包まれた、木々の間を、滑り落ちる滝は、アイリッシュハープのようである。
 
そして滝をあとにし、さらに行くと、木漏れ日が落ちる、木橋に出た。
その橋の下を、水量溢れる川が流れる。
その先50メートルくらいで、大きな滝となり、鬼怒川へ流れ落ちる。
 
やがて前方右に、虹見滝が姿を現わした。
所要時間約45分の、散策周遊は終わった。
想像以上に、きつい散策だった。
  
先ほど下った九十九折れの、急峻な坂を上りきり、駐車場前に到着した。
そして一休みして、龍王峡駅に行く。
すると改札口の女性駅員が、「もうすぐ、会津若松行きの特急が、この駅を通過しますよ」と。
 
さらに、写真を撮る、絶好のポジションも、教えてくれた。
駅の裏階段を下り、線路に架かる鉄橋から、浅草発会津若松行きの特急を、待ち構える。
列車は時間通りに現れ、紅葉が燃えるトンネルへ、消えていった。