マスター&ママの紅葉旅情Ⅰ
福島県南会津郡「塔のへつり」&湯西川ダムを訪ねて

2018年10月28日
 
南会津郡下郷町にある、「塔のへつり」に、到着したのは、午前8時ころだった。
紅葉に包まれた駐車場は、閑散としていた。
駐車場の管理人も、まだおらず、適当なところに、車を駐車する。
  
車を降り、紅葉も美しい道を下ると、「塔のへつり」の入り口に出た。
「へつり」とは、会津方言で、川に迫る断崖絶壁を表す。
その方言の響きに、東北らしい、ユーモアを感じて楽しい。
  
「塔のへつり」に向かう入り口に、新観光名所福島三十景と書かれた、看板が立っていた。
入場料もなく、石段を下ると、前方に灰白色の奇岩が見える。
さらに下ると、遠くに吊り橋が、大川に架かり、川面は深いエメラルドに輝く。
  
その橋の向こうに、「塔のへつり」が、朝日を浴び、絶壁の灰白色が眩しい。
そしてしばらく下ると、木造の吊り橋・藤見橋の前に出た。
吊り橋を渡りながら、下を見下ろすと、大川の清流が、陽光できらきらと、煌めいていた。
  
橋を渡りきり、塔へ降りる螺旋階段を下ると、崖下に出た。
百万年の長く厳しい、浸食と風化で形成された断崖は、深く大きく抉りこまれていた。
その先200mにわたり、聳えたつように、奇岩が立ち並んでいる。
  
その数々の奇岩に、それぞれ名前が付いている。
この辺りの大川が形成する、河食地形の渓谷は、大川羽鳥県立自然公園であり、
1943年(昭和18年)に、国の天然記念物に、指定されている。
 
吊り橋に戻り、右手を見ると、凸凹な石段がある。
足元に注意しながら、石段を登ると、虚空蔵菩薩と書かれた、小さなお堂があった。
お堂は奇岩の中に、鎮座していた。
 
薄暗いお堂の中に入り、鰐口を鳴らし、拝礼する。
このお堂は、807年に坂上田村麻呂が、創建したといわれる。
参拝を終え、お堂を背にし、舞台岩から、吊り橋へ目をやる。
 
吊り橋に人影はなく、川面に黄葉紅葉した山が、エメラルド色の水面に、逆さ絵を描いていた。
そして彼方を眺めると、山々が朝日を浴び、黄金色に照り輝いていた。
今日は絶好の紅葉狩り日和。
 
この数年、紅葉シーズンを、外すことが多かったが、今回は絶好の紅葉狩りに恵まれた。
先ほど登った石段を下る。
下から石段を登る、若い女性とすれ違う。
 
そして橋のたもとから、吊り橋を見上げる。
橋と紅葉が、美しいコントラストを、描いていた。
川のエメラルドと、紅葉と木橋は、秋色に風情を添えている。
 
すでに午前9時、観光客の姿も多くなり、賑やかになり始めた。
橋を渡る人たちも、橋上から秋色を、愉しんでいる。
先ほど下った、螺旋階段を登り、橋の上に出る。
 
見渡せば、川面に映る紅葉が、さらに強いコントラストを、刻んでいた。
5年前だろうか?
三春の滝桜を見物し、会津若松の、由緒ある旅館に泊った。
 
それは4月を過ぎた頃だった。
ところが、その日は、想定外の大雪だった。
翌日は快晴となり、会津若松から帰京する途次、大内宿を散歩した。
 
だが「塔のへつり」に立ち寄る、時間的な余裕がなかった。
今回、湯西川温泉に行くついでに、「塔のへつり」まで、足を延ばしたのだ。
今日は秋好日、ゆっくりと「塔のへつり」の秋を、愉しむことができた。
 
「塔のへつり」で秋を堪能し、駐車場へ戻る。
先ほど無人だった、管理事務所は開き、管理人が車を、整理をしている。
300円の駐車料金を払い、「塔のへつり」をあとにし、湯西川温泉へ向かった。

会津西街道を、湯西川温泉へ南下する。
途中、道の駅湯西川で休憩し、さらに行くと、湯西川ダムがあった。
時間に充分、余裕があるので、立ち寄ることにした。
 
駐車場に車を置き、ダムの上の散策道を歩く。
見下ろせば、鬼怒川へのみ込まれそうで、スリルがある。
このダムの堤高は119メートル。
 
鬼怒川や利根川の下流域の、治水と利水のために計画された。
そして2012年3月に、鬼怒川上流ダム群の4番目の、特定多目的ダムとして完成した。
ダムの下方に、放水口があり、大量の水が、鬼怒川へ放出されていた。
  
その水飛沫が、陽光に反射し、美しい虹を、映し出していた。
鬼怒川の川筋は、紅葉した山に挟まれ、蛇行しながら流れ下る。
ダム上の散策道から、堰止湖を望むと、水陸両用の観光バスが、湖を滑ってゆく。
  
先ほど道の駅で休憩したとき、道の駅から出発した、湖上クルーズの、「ダックツアー」だった。
約60分くらいの、湖上ツアーのようだ。
湖は秋色に包まれ、燃える秋を、湖上に映し出す。
  
風もなく、湖は静寂で、神秘を湛えている。
そして燦々と降りそそぐ陽光が、湖面に銀鱗を描く。
麗らかな秋の一日、湯西川ダムの秋景色を愉しみ、湯西川温泉に向かった。
 
会津西街道を南下して、20分ほどで、目的地に着いた。
湯西川温泉に来るのは、2008年8月以来だから、ちょうど10年ぶりになる。
そのとき訪れた、平家の里へ行ってみた。
 
そのあと、平家が身分を隠すために、鎧や兜や太刀など埋めたといわれる、平家塚を訪ねる。
そして平家の里の前の駐車場へ戻ると、威厳に満ちた老木が、秋色に染まっていた。
樹齢何百年なのであろうか?
 
立札には、御神木・太政大臣・平清盛公の木と記されていた。
その姿は神々しく、陽光に照り返された葉叢が、金色と紅色に輝いている。
車に戻り、ホテルへ向かった。
  
そして3時にチェックインする。
部屋に荷物を置き、窓際の椅子に腰を下ろし、窓外を眺める。
湯西川渓谷は、傾きかけた陽に、秋色がきらきらと輝いていた。