日帰り温泉の帰り道、蛙たちの大合唱
2017年6月15日

梅雨入りの日曜日、埼玉県越谷まで出かける。
僅かに東京を離れただけで、街道沿いに若緑が広がる。
車窓から柔らかな風が、新緑の香りを運ぶ。

越谷には、お気に入りの日帰り温泉があり、夕刻近く立ち寄る。
サウナ風呂、塩サウナ、ジャグジー風呂、そして露天の高濃度炭酸風呂。
39度のぬるめの、広い炭酸風呂に入る。

しばらくすると、お湯の中の身体が、気泡に包まれる。
夕暮れ時、空はだんだんと灰色が濃くなる。
やがて雲間から漏れる残照が、灰黒色の空を、鈍い金彩に染める。

風は爽やかに吹き抜け、いつしかうとうとと、まどろみ始めた。
都会の喧騒を離れ、露天風呂で、のんびりと夕景を愉しむ。
そのあと、硫黄の匂いが心地よい、白濁した湯に浸かる。

10畳ほどある露天風呂で、足を延ばしゆったりとくつろぐ。
お風呂の中で、日々の生活の滓を流し、何も考えず、頭の中を空にする時間。
何もしないことの豊かさを、教えてくれる。

午後8時ころに、日帰り温泉を出て、東京へ向かう。
住宅街の道を進むと、左に一枚、右に一枚の小さな水田が広がる。
このあたりは、かつて一面の水田が、広がっていたのだろう。

すでに田植えも終わり、稲の緑が夜目にも美しい。
先ほどから、輝き始めた月明りが、水面を照らしていた。
ヘッドライトを消し、静かに車をとめる。

水田から、姿なき無数の蛙たちの、大合唱が聞こえる。
すると前から、ヘッドライトの眩しい車が来た。
蛙の声はぴたりと止まった!