フランスでは何時から、昼食が夕食になったのか?
2016年2月23日

このところ、小説を読み続けているので、久しぶりにエッセイを読むことにした。
本は木村尚三郎〈1930年-2006年)著)『パリ 世界の都市物語』(文芸春秋、1992年)。

すると「アラ・スープ! 全員集合」に、興味ある話が載っていた。

かつてフランス料理のサービスをしていたので、フランス料理やマナーのことなどに、おおいに興味を惹かれる。
現在はバーテンダーをしているので、映画や小説に登場するお酒のシーンに、自然と心誘われる。
さて、その興味ある話とは、フランスの食習慣についてである。

アラ・スープ! とは「スープを食べる」の意味で、夕食時にフランスのお母さんの、「ご飯ですよ!」の呼び声でもある。
つまり、「ご飯ですよ! 全員集合!」なのである。
それは暗くなる前に、家族が軽くとる食事が、スープであった。

パン屋で早朝に買って、硬くなったパンを、家族は熱々のスープに浸して食べた。
その名残が、ポタージュスープに付いてくる、小さな揚げパンのクルトンとして今にいたる。
それゆえに、スープは飲むものではなく、食べるものである。

さてこれからが本題になるのだが、フランスが電化されていない、⒚世紀から20世紀初頭の頃の話。
人々はまだ暗いうちから起き出し、仕事をし始めていた。
その時食べる重い食事が、デジュネ(déjeuner)である。

jeuner)とは断食の意味で、つまり長い夜の食事にありつけない状態から、解放(dé)されることを意味している。
それはまさに、現在の朝食にあたる。
ではなぜ朝食が、昼食の意味になってしまったのか。

それには19世紀から20世紀に発達した、電灯の影響が大きく作用した。
電灯のおかげで、夜も明るくなり、一日の生活時間が長くなる。
さらに仕事で忙しい昼間をさけ、夕方の食事をゆっくりと愉しむようになった。

するとデジュネは昼食に格上げされ、昼食のディネ(Dîne)も、夕食(晩餐)になってしまった。
そのために、本来のアラ・スープの行き場がなくなり、自然消滅した。
その結果、かつてをしのばせる表現として、「アラ・スープ」が残った。

では朝食はどうなったかと言えば、簡素な食事のプチ・デジュネ (petit déjeune)となったのである。
文明の革新や発達は、日常生活にも大きな影響を与える。
そして食習慣をも、変えてしまったのである。