国内第二の重力式コンクリートダム秩父浦山ダムを訪ねて
2015年8月17日

秩父のお盆3日目の朝、雨音で目が覚める。
障子戸を開け廊下に出ると、雨が辺りの木々を濡らし、夏の葉叢を深緑に染めていた。
今日は生憎の雨か・・・・・・。

雨の山里の一日、雨霧に包まれ、なかなか趣があり、私は好きである。
自然がもたらす天候は、すべてそれなりの味わいがある。
今日は2階の居間で、ゆっくりと雨に煙る山里の晩夏に包まれながら、読書をすることにしよう。

秩父に持ち込んだ、芝木好子著『日本の伝統美を訪ねて』は、まさにうってつけである。
すると午前10時頃、雨が上がり、微かに薄日が射してきた。
のんびりと横になり読書をしていると、親戚の子供たちが、2階に上がってきた。

小学4年生で秩父太鼓が得意な、3人兄弟の長男泰杜君が「小父さん、散歩に行こうよ、ねッ!」
さらにあとの2人も「行こうよ、行こうよッ!」と、満面に笑みを湛えながら言った。
雨上りの合間、子供たちと秩父路のドライブも楽しいだろう。

昨日は子供たちと、秩父市内にある、聖地公園「あんどん祭り」へ出かけた。
今日は反対方向の三峰神社方面へ、ぶらりとドライブすることにした。
そして5人で車に乗り、ママが運転し出かけた。

最近は滅多に通うこともない、山間の道を行く。
ほどなくすると柴原鉱泉の前に出る。
かつては4軒あった宿も、今は2軒となり、昔ながらの湯治宿「菅原館」がなくなったのは寂しい。

柴原鉱泉を過ぎると、緑深い1車線の蛇行した道が続く。
時には猪や鹿も顔を出す深い森、もちろん民家はない。
やがて道は小野原稲荷神社の前を通過し、彼方に点在する家々を見渡す下り坂になる。

坂を降り切ると、車が行きかう、山梨と熊谷を結ぶ、国道140号に出る。
車窓を開けると、雨に濡れた木々が香る、涼風が吹き込む。
深い渓流となる荒川を左手にして進むと、秩父鉄道の終着駅、三峰口駅に到着した。

この先を行くと山は深く、荒川は切り立つ渓谷となる。
私たちは三峰口駅から、秩父鉄道沿いの、鄙びた旧道を進む。
沿道に寄り添う民家の中を行き、白久駅前を抜け、荒川に架かる橋を渡り、国道140号へ出た。

幸いに雨雲が垂れ込めた空から、雨は降らず持ちこたえている。
まだ時間に余裕があるので、影森方面へ行くことにした。
やがて秩父鉄道武州日野駅に到着する。

駅に人影もなく、昔ながらの佇まいの木造駅舎が、郷愁を誘う。
武州中川駅前を通過し、THE ALFEEの櫻井賢さんの実家・櫻井商店の前を通り過ぎて、しばらく行くと浦山口駅に着いた。
そこから右折して上り坂を行くと、浦山口ダムがあった。

ダムの堰止湖前の駐車場は人気なく、雨に濡れた石畳が、灰白色に光っていた。
車を降りると微かに霧雨が降り、彼方に市街地が靄に霞む。
時おり山鳥が啼き、緑深い山に抱かれたダム湖は、静謐を湛え、神秘的であった。
 
この幻想的な湖の底に、村落49戸が水没し、ダムは28年の歳月をかけ、1998年(平成10年)に完成した。
ダムを眼下に望むと、真っ逆さまに飲み込まれそうな錯覚に陥る。
ダムの堤高は156m、日本の重力式コンクリートダムとして屈指の高さを誇る。
 
福島県と新潟県に跨る、奥只見ダムの堤高157mに次いで、堂々の2番目に位置する。
荒川水系浦山川に建設された、高低差132mのダムは雄大で壮観である。
ダム湖に小ぬか雨が降り注ぎ、湖面に微細な漣が揺れる。
 
ダム湖は別名「秩父さくら湖」と言われ、春には湖畔にたくさんの桜が咲き匂う。
その桜が湖面に映り、桜色に染めるであろう。
やがて晩夏が去り、紅葉の季節が到来する。
 
湖面は満艦飾に照り映える。
そして冬になると、湖面にボートが浮かび、ワカサギ釣りの風景が広がる。
すでに湖畔を包む山々に、微かに紅葉の気配が忍び寄っていた。