小さな旅日記 関東最古の大社にして、お酉様の本社、鷲宮神社を訪ねて 東北自動車道の久喜インターを降り、10分ほどで到着した。 大鳥居の横にある駐車場へ車を駐車した。 さらに朱色の灯篭に挟まれた、真っ直ぐな石畳の参道を行くと、左手に小さな池が見える。 鏡面のような水面に、陽光が降り注ぎ、木々の緑を鮮やかに映していた。 長い年月の間に、土砂が池を埋め、地中深くに埋もれていた。 その土砂を搬出すと湧水が溢れ、龍のような霧が空を覆ったという。 それは池に龍神様が住むという伝承を、証明すかのような出来事であった。 池から参道の前方を望むと、横向きの神社の拝殿が望まれる。 すると参道を正装の神官が歩き、ゆっくりと遠ざかってゆく。 一説によると、鷲宮神社は関東最古の大社とされ、さらにお酉様の本社でもある。 祭神天穂日命(アメノホヒ)とその子の武夷鳥命(タケヒナトリノミコト)、および大己貴命 (オオナムジノミコト)としている。 またこの神社には、関東神楽の源流「土師一流催馬楽神楽」が伝わり、鎌倉時代の「吾妻鏡」にも記載されている。 その神楽は古事記や日本書紀の神話をもとに、平安時代に唄われた歌謡の催馬楽をうたう、宗教色に満ちた舞踊劇である。 一社相伝の格式高い社伝神楽も、一時は代々世襲の後継者が育たず、存亡の危機に晒された。 だが鷲宮神社の氏子衆たちは、保存会が結成し、窮地を乗り越えた。 現在は国の重要無形民族文化財に指定され、みごとに復活している。 神楽殿は拝殿の正面に建ち、素朴な佇まいである。 舞殿の柱や舞台は、長い年月に晒され、木目が浮き上がっていた。 そして舞殿の梁下には、大きな絵馬が飾られている。 拝殿には大きな注連縄が飾られ、垂れさがる紙垂(シデ)の純白が眩しい。 お賽銭をおさめ、大鈴を鳴らし手を合わせる。 その前に神官がたち、厳かに祈祷をしていた。 拝殿のお参りも済まし、拝殿の裏手へ向かう。 灰白色の石鳥居を潜り、石畳の参道を進むと、正面に朱色の素朴な小社があった。 飾り気もなくひっそりと、雑木に包まれていた。 昼下がりの陽光を受け、小社は深い影を落とし、鉄路は眩く反射していた。 小社から境内に戻ると 祭神天穂日命と武夷鳥命と大己貴命を祭る社殿が見える。 二つ並ぶ社殿は優美で、端正な姿で碧空に聳え立ち、強い冬日を受けながら、深い陰影を刻んでいる。 由緒は神代の昔に遡る社殿は、厳かに静謐を湛えていた。 近づいてみると、大きな孔雀が一段高い棚に、羽を休めていた。 胸の辺りの水色が、射し込む陽光に眩く輝いていた。 2月の日曜日の昼下がり、鷲宮神社は三々五々の人影が、絶えることもない。 やはり2007年頃にヒットしたアニメ「らき☆すた」の舞台に、この神社が描かれた影響なのであろうか? 初詣にはコスプレ姿の若者たちも多く、初詣客は毎年増加し、現在は50万人近くにのぼる。 散策を終えた戻り道、左手の建物の中に、黄金に輝く神輿が光る。 近づきガラス越しに見ると、巨大な神輿が飾られている。 それはこの神社の主祭である土師祭(はじさい)の時に奉納され、渡御する通称「千貫神輿」であった。 だが不幸にも大正2年で、神輿の町内練り歩きは途絶えた。 担ぎ手の減少により、千貫神輿は台車に乗せられ、町内を引き回された。 だが昭和58年のこと、鷲宮の若衆たちが熱く立ち上がり、70年ぶりに復活させたという。 現在は関東近県から、法被姿の担ぎ手が参集し、神輿は辻々を練りまわされ、年々生彩を放つ。 境内の冬枯れた老樹の枝にも、小さな蕾が芽生えていた。 参道を戻ると左手に青銅の灯篭が、陽に照らされ荘厳な趣を添える。 大西茶屋は西日を浴び、窓や扉のガラスが、眩しく反射している。 そして駐車場には、アニメファンの聖地を象徴するように、アニメのキャラクターを描く車が停車していた。 |