小さな旅日記
関東最古の大社にして、お酉様の本社、鷲宮神社を訪ねて
うららかな日曜日、埼玉県久喜市にある、鷲宮神社へ出かけた。
東北自動車道の久喜インターを降り、10分ほどで到着した。
大鳥居の横にある駐車場へ車を駐車した。
大鳥居をくぐり参道を進むと、阿吽の獅子が迎えてくれた。
さらに朱色の灯篭に挟まれた、真っ直ぐな石畳の参道を行くと、左手に小さな池が見える。
鏡面のような水面に、陽光が降り注ぎ、木々の緑を鮮やかに映していた。
池の名前は光天之池(みひかりのいけ)と言い、平成11年(1999年)から始まる、境内整備事業により復元した。
長い年月の間に、土砂が池を埋め、地中深くに埋もれていた。
その土砂を搬出すと湧水が溢れ、龍のような霧が空を覆ったという。

それは池に龍神様が住むという伝承を、証明すかのような出来事であった。
池から参道の前方を望むと、横向きの神社の拝殿が望まれる。
すると参道を正装の神官が歩き、ゆっくりと遠ざかってゆく。
さらに少し歩くと、清楚で素朴な拝殿の前に到着した。
一説によると、鷲宮神社は関東最古の大社とされ、さらにお酉様の本社でもある。
祭神天穂日命(アメノホヒ)とその子の武夷鳥命(タケヒナトリノミコト)、および大己貴命 (オオナムジノミコト)としている。
別名を土師の宮(はにしのみや)とも言われ、「はにしのみや」が転訛し、「わしのみや」になったようだ。
またこの神社には、関東神楽の源流「土師一流催馬楽神楽」が伝わり、鎌倉時代の「吾妻鏡」にも記載されている。
その神楽は古事記や日本書紀の神話をもとに、平安時代に唄われた歌謡の催馬楽をうたう、宗教色に満ちた舞踊劇である。

一社相伝の格式高い社伝神楽も、一時は代々世襲の後継者が育たず、存亡の危機に晒された。
だが鷲宮神社の氏子衆たちは、保存会が結成し、窮地を乗り越えた。
現在は国の重要無形民族文化財に指定され、みごとに復活している。

神楽殿は拝殿の正面に建ち、素朴な佇まいである。
舞殿の柱や舞台は、長い年月に晒され、木目が浮き上がっていた。
そして舞殿の梁下には、大きな絵馬が飾られている。
初酉の日や元旦や年越祭などの祝祭日には、神楽が奉納され、大勢の見物客で賑わう。
拝殿には大きな注連縄が飾られ、垂れさがる紙垂(シデ)の純白が眩しい。
お賽銭をおさめ、大鈴を鳴らし手を合わせる。
拝殿の中には三種の神器が飾られ、大きな神鏡が鈍く反射している。
その前に神官がたち、厳かに祈祷をしていた。
拝殿のお参りも済まし、拝殿の裏手へ向かう。
途中、拝殿を取り巻くように、様々な境内社が祀られている。
灰白色の石鳥居を潜り、石畳の参道を進むと、正面に朱色の素朴な小社があった。
飾り気もなくひっそりと、雑木に包まれていた。
その小社の奥を望むと土手があり、その上を線路が走っている。
昼下がりの陽光を受け、小社は深い影を落とし、鉄路は眩く反射していた。
小社から境内に戻ると 祭神天穂日命と武夷鳥命と大己貴命を祭る社殿が見える。
優雅に流れる葺き屋根に、陽光を浴びた境内の木々が影を映す。
二つ並ぶ社殿は優美で、端正な姿で碧空に聳え立ち、強い冬日を受けながら、深い陰影を刻んでいる。
由緒は神代の昔に遡る社殿は、厳かに静謐を湛えていた。
境内脇の朱色の灯篭に守られる、境内社の前を行くと、左手前方に鳥舎が見える。
近づいてみると、大きな孔雀が一段高い棚に、羽を休めていた。
胸の辺りの水色が、射し込む陽光に眩く輝いていた。
午後の2時過ぎ、陽光はいまだ燦々と降り注ぎ、境内の銀杏の影を地面に映す。
2月の日曜日の昼下がり、鷲宮神社は三々五々の人影が、絶えることもない。
やはり2007年頃にヒットしたアニメ「らき☆すた」の舞台に、この神社が描かれた影響なのであろうか?
参詣の人たちに若者たちも多く、アニメファンの「聖地」と言われることも頷けた。
初詣にはコスプレ姿の若者たちも多く、初詣客は毎年増加し、現在は50万人近くにのぼる。
散策を終えた戻り道、左手の建物の中に、黄金に輝く神輿が光る。

近づきガラス越しに見ると、巨大な神輿が飾られている。
それはこの神社の主祭である土師祭(はじさい)の時に奉納され、渡御する通称「千貫神輿」であった。
だが不幸にも大正2年で、神輿の町内練り歩きは途絶えた。

担ぎ手の減少により、千貫神輿は台車に乗せられ、町内を引き回された。
だが昭和58年のこと、鷲宮の若衆たちが熱く立ち上がり、70年ぶりに復活させたという。
現在は関東近県から、法被姿の担ぎ手が参集し、神輿は辻々を練りまわされ、年々生彩を放つ。
立春も過ぎ雨水も近い穏やかな一日、降り注ぐ陽光が柔らかい。
境内の冬枯れた老樹の枝にも、小さな蕾が芽生えていた。
参道を戻ると左手に青銅の灯篭が、陽に照らされ荘厳な趣を添える。
大鳥居を潜り駐車場に戻る。
大西茶屋は西日を浴び、窓や扉のガラスが、眩しく反射している。
そして駐車場には、アニメファンの聖地を象徴するように、アニメのキャラクターを描く車が停車していた。