師走の第1日曜日、群馬県藤岡市「桜山公園」の冬桜を訪ねて
2015年12月6日

三の酉も終わり、師走の第1日曜日、関越道を北上し、藤岡市へ向かった。
空はどんよりと雲が広がり、やがて前方に、雪を頂いた山並が姿を見せる。
約50分ほどで、本条児玉ICに到着した。

国道462号を進み、さらに県道177号を行く。
道幅は狭くなり、神流川に沿いながら進むと、なだらかな上りになる。
山間の道はすれ違う車もなく、紅葉は深く森閑とし始めた。

やがて山深く抱かれた集落が現れ、桜山の看板が見えた。
看板に従い行くと、桜山公園の駐車場に到着した。
駐車料金を500円支払い、車を駐車した。

昼下がりの3時頃、たくさんの車が駐車していた。
駐車場からほど近いところに、冬桜展望台への階段があった。
赤土に丸太を横に渡した、素朴な階段を上る。

階段の両脇に、冬桜(コバザクラ)の老木が立ち並び、可憐な花が匂い咲く。
純白な花弁に、微かな桃色を滲ませている。
すでに冬桜は名残になっているのであろうか。

階段を上りしばらく行くと、日本庭園が見えた。
傾きかけた冬日の中に、公園は寂莫とした風情を醸している。
空の雲が夕陽に輝き、冬枯れた梢と、美しい陰翳を見せていた。

標高591mの山頂は、ここからかなり先にある。
桜山公園は、昭和12年(1937)に「三波川サクラ」として、名勝天然記念物に、国から指定されている。
しかし昭和48年(1973年)に、山火事により冬桜が消失した。

その後、三波川桜山保存会が、精力的に冬桜復興に努力した。
その結果、このあたり一帯の自然環境が復活。
そして47haの広大な森林公園として整備され、秋の紅葉と冬桜の名所となる。

春浅き頃には、蝋梅や椿などが開花し、春の訪れを教える。
桜の季節になると、コバザクラ7000本と、ソメイヨシノ3000本が咲き匂う。
そして名残の桜になる頃、ツツジの花が開花する。

さらに散策路の山道を上ると、椿の桃紅色の花が、慎ましく楚々と咲いていた。
遠く薄靄の中、紅葉に包まれた市街地が望まれた。
坂道の横には、水量も豊かな清流が流れる。

いったい何処から、これほど水量に満ちて、流れ来るのか。
このあたりには、神川の名の町があり、神流川の清流がある。
この地は神が宿る聖域であり、清流が結界を清めているのであろう。

清流の瀬音を聴きながらさらに行くと、小さな広場があり、紅葉に彩られていた。
道端に松ぼっくりが転がり、懐かしい風情を晒す。
その上に栃の紅葉した大葉が、虫食われた模様を晒し、冬の訪れを待っていた。

その奥に冬桜の花が、薄靄の中に咲いていた。
東京から高速道をとばせば、1時間半ほどで行ける群馬県の山間の地だが、すでに冬の厳しい風情を漂わせている。
これから40分ぐらい上ると、桜山の頂上へ行ける。

だがここから、下り坂を降りることにした。
坂の脇には、夜にライトアップする電灯が、長く連なっていた。
宵闇が訪れると、ライトがいっせいに灯り、夜桜を愉しむことができるであろう。

だがすでに冬桜は名残になり、厳しい夜の寒さが襲いそうだ。
素朴な階段を下ると、遠くに紅葉に色ずく山肌が、昼下がりの陽光に輝いてた。
さらに前方右手に、日本庭園と趣のある池が見える。

坂を降り切り、池に架かる小橋を渡り、池辺を散策する。
池の水面に枯れ葉が浮き、その下を色とりどりの鯉が、時を忘れたように遊泳していた。
池泉回遊式の池畔を歩くと、左手に裸婦の銅像が、枯れ枝を背に寒々しく映る。

 

池畔の椅子に座り池を眺めると、山影に沈み始めた陽光が、御荷鉾(みかぼ)の山々を、眩く照り返していた。
その陽光が、この地特産の三波石で飾られた池面に、一筋の光の道を描いている。
さらに左手に目を移すと、三波石の岩場を、清流が流れ下る。

 

その枯れ寂びた景観から、瀬音が聞こえてきそうな水嵩である。
すでに陽が傾き、山間の冷気が、肌を刺し始めた。
長椅子をたち、池畔をあとにし、先ほどの階段を下った。

階段沿いの名残の冬桜が、寂しげな風情で見送っている。
冬桜は散ることなく、冷たい外気に晒されながら、萎みながらせつなく消えてゆく。
公園の鮮やかな紅葉と、淡紅色の可憐な桜が奏でる協奏曲は、訪れるものを愉しませてくれた。