板橋演劇鑑賞会、劇団テアトルエコー「フレディー」迎えて
2014年11月20日

今年最後の板橋演劇鑑賞会へ出かける。
私の店から徒歩2分ほどで、会場の板橋文化会館に到着する。
劇場の入り口横には、板橋演劇鑑賞会の文字も鮮やかな幟旗が、肌寒い微風にそよいでいた。
その隣に今日上演される、劇団テアトルエコー「フレディー」のポスターも見える。
開演は18時半だが、今日は17時半頃に会場入りをした。
生憎の雨模様だが、すでに会場前で、会員が待ち合わせをしていた。
劇場ロビーでは劇団テアトルエコーの方が、本日のスケジュールの説明をしている。
演劇鑑賞会は、会員の積極的なボランティアにより、成り立っている。
劇団テアトルエコーの方が説明する横に、ボードが立っていた。

それは板橋演劇鑑賞会の会員数と、今月の会員の増減を示していた。
入会が12名で退会が10名。
2名増で総会員数が833名になったことを示していた。
板橋演劇鑑賞会は、毎月僅かながらではあるが、会員数を確実に増やしている。
全国的にみると、年々減少する傾向にある、演劇鑑賞会の中において、会員増の更新は特筆に値する。
これは板橋演劇鑑賞会の会員の皆様による、地道な努力の賜物であろう。
今日も朝の10時頃から、会員の有志が板橋文化会館に集合し、「フレディー」で使う大道具などの、搬入のお手伝いを済ませた。
そして公演が近づくと、開場時のチケットのもぎりなども行う。
1年に6回公演される芝居の内の1回は、サークルが希望する芝居のお手伝いをする。
さらに劇場のロビーでは、担当サークルの会員が、開場の整理や案内なども行う。
担当役員の人たちは、思い思いの手作りの案内板を掲げ、にこやかに誘導する。
普段は触れることのない、演劇現場のお手伝いをすることで、演劇がより身近で楽しいものになる。
演劇を鑑賞するだけでなく、裏方仕事のお手伝いをすることで、演劇と楽しい距離が生まれる。
劇団の方の説明の後、板橋演劇鑑賞会の役員の方の説明が終わり、開場の18時を迎えた。
担当サークルの方々が、笑顔で迎えチケットのもぎりをする。
大勢の会員が入場し、会員同士が笑顔で、挨拶を交わす姿が微笑ましい。
2ヶ月に一度の会員同士の再会である。
担当の会員がパンフレットなどを手渡す。
会員の人たちが、次々とロビーの中へ入る。
するとロビーの奥から、サーカスの衣装を身にまとう若者達が、駆け足で登場した。
それぞれ手に楽器や小道具を持ち、足取りも軽やかに、入場客を迎えてくれた。
広いロビーでは派手なサーカスの衣装を着た、劇団の俳優たちが、玉乗りや一輪車などの曲芸を披露している。
ロビーはサーカス会場のように華やぎ、俳優たちの顔に笑顔がこぼれる。
今日は劇団テアトルエコーが上演する、ロベール・トマ作「フレディー」。
天才クラウン・フレディー率いる、サーカス一座で繰り広げられる、人間喜劇である。
本番が始まる前の30分の短い時間。
劇場のロビーは、賑やかで躍動的な、サーカス劇場に変容した。
芝居は古来、祝祭性の強いものであり、ギリシャの時代は春と秋の祭典で、悲劇と喜劇が上演された。
シェークスピアの時代は、旅籠の内庭で上演され、台詞は全て韻を踏んでいた。
芝居が額縁の中に収まり、観客が舞台を覗きこむスタイルは、アンドレ・アントワーヌ(1858年-1943年)の「自由劇場」以降である。
その時から演劇の舞台は閉鎖的になり、観る者と演じる側が、截然と分けられた。
本来、舞台は開放的で躍動的であり、猥雑でさえあった。
コンスタンチン・
スタニスラフスキー(1863年-1938年)の弟子で、
天賦の才能を持つ演劇革新家、フセヴォロド・エミリエヴィッチ・メイエルホリド1874年 ?1940年)は、
演劇の祝祭性と猥雑さと肉体言語の再生、さらにサーカス的なものとの総合を目指した。
開演前の短い時間、観客と俳優が交流する姿を見て、演劇本来が持つ楽しさを再認識した。
演劇の持つ娯楽性と、役者たちのサービス精神に拍手を送る。
そして劇場へ入場する人達を、舞台衣装姿で、アコーデオンやフルートを吹きながら迎えている。
玄関のドアは閉まることもなく、次々と観客が入場する。
外から寒風が吹きこむ中、黒いドレスの女性がフルートを吹き、ジャグリングの青年が、にこやかに迎えていた。
安原義人さんが演ずる、フランス随一、当代きっての天才クラウン・フレディーが率いる、サーカス一座の物語は間もなく始まる。
今ではかつての一座の栄光は、見る影もなく凋落していた。
公演ごとに客足は減り続け、借金は雪だるまのように嵩み、フレディー一座は風前の灯になる。
一座の存亡を掛け、金策に走るフレディー。
そして金策に訪ねたパトロンの老婦人が、何者かに殺され、フレディーは殺人犯の容疑を掛けられた。
すると後藤敦さん演ずる狡猾な刑事ボリュスが、フレディーに策を授ける。
フレディーが殺人者になり済まし、公然と自白することであると。
フレディーはサーカスの舞台で、犯人であることを宣言し、ボリュス刑事が舞台上で劇的な逮捕をした。

刑事は犯人逮捕の功績により昇進し、フレディーは時の英雄となる。
サーカス一座の公演は、連日の満員御礼となった。
もちろんフレディー一座の借金は完済され、蓄えさえできるようになる。

だが事態は急転、杉村理加さんか演じる真犯人マルゴが、フレディーの前に現れた。
そしてフレディーを脅迫し、目が飛び出るほどの金額を要求され、フレディーは絶体絶命となる。
ところがそのマルゴは、犯人でないことが露呈した。
犯人は寺川府公子さんが演じるエバであり、殺害された老婦人の姪っ子であった。

舞台は二転三転のどんでん返しの連続。
テアトルエコーの若い役者たちの迸るエネルギーと、ブイッスを演じる山下啓介さんの軽妙で洒脱な演技など、
熟達したベテラン俳優たちのアンサンブルが愉しい。
そして犯人のエバは逮捕され、フレディーは晴れて無罪になる。

抱腹絶倒の中、フレディーと息子ニコラス親子は和解し、川本克彦さんが演じるニクラスが、フレディーの後継者となる
間一髪、田村三郎さんが演じる、無二の親友パパ・ジゴがピストルで撃たれた瞬間、フレディーは友人の大切さと、人間の情愛を悟る。
フレディーとパパ・ジゴの会話は、永い時を共に生きた、二人の友情に溢れていた
喜劇不毛の日本の新劇会(現在は死語かも?)にあり、喜劇一筋の64年に乾杯をする。