秩父の秋、三峰の麓、贄川宿(にえがわじゅく)秋の縁側展を訪ねて
2014年11月09日



奥秩父で毎年開かれる、縁側展を訪れるのは、何年ぶりになるであろうか?
ママの実家の義兄が、スクラッチ・ブラスの技法で、銅板を克明に刻む作品を、毎年出品している。
そこで秩父路の晩秋を愉しみながら、彼の新作を見に出かけることにした。

秩父鉄道最終駅の三峰口から、徒歩で12分程に位置する、かつての秩父往還贄川宿で、縁側展は毎年11月に開かれる。
江戸時代の昔、贄川宿は三峰神社へお参りする、三峰神社講中の人たちの宿場であった。
また甲州へ抜ける街道であり、秩父と甲州にまたがる険しい雁坂峠へ向かう、最後の宿場でもあった。

この地よりさらに奥地にある、現在の秩父市大滝で、鉱山開発に携わった平賀源内や、
幾多の文人墨客や商人たちも、秩父最後の宿場・贄川宿で、草鞋を脱いだことであろう。
雁坂峠の手前には栃本関所があり、「入り鉄砲に出女」を、厳重に取り締まったことでも知られる。
その関所からさらに山へ上れば、荒川の源流が、岩間に清冽な流れを見せる。

現在、贄川宿の街道沿いには、30余りの町家が立ち並び、江戸時代の風情を漂わせている。
江戸の面影を偲ばせる旧家は縁側を持ち、柔らかな日射しを浴びながら、お婆ちゃんが干し柿を作り、隣に猫が眠っていそうである。
その縁側で絵画や書や写真などを展示し、土地の特産品などを販売する、楽しい催しが縁側展である。

贄川宿には12時過ぎに到着した。
小雨が降る肌寒い天気、幾重にも折り重なる秩父の山並が、煙霧に包まれ幻想的な佇まいを見せている。
すでに木々は紅葉に染まり、灰黒色の山並みと、美しいコントラストを見せていた。

車は街道から少しそれた、秩父市立荒川小学校の校庭に停める。
そして街道へ向かう細い山道を下る。
木立ち越しに黄葉した広葉樹が、雨に濡れている。

この先木枯らしが吹けば、木々の葉ははらはら舞い散って行くであろう。
葉裏と表をひらひらと見せながら散る姿に、日本人は美を見出す。
その葉が風に巻かれながら、かさかさと乾いた音を響かせながら、吹き流れて行く姿に無常を感じる。

程なく道を下ると、宿場の街道に出た。
奥秩父の道は雨に濡れ、寂寥を漂わす。
すでに大勢の見物客が、傘を差しながら、小雨降る往還を歩いていた。

街道沿いの民家の縁側に、様々な展示品が所狭しと並んでいる。
その前でじっと佇み見入る人たち。
展示している作品の作者が、見物の人に親切に説明をする姿が微笑ましい。

江戸の昔の情緒に溢れる街道は、訪れた老若男女の人たちで賑わっていた。
やがてママの実家の義兄が展示する、スクラッチ・ブラスの前へ来た。
銅板に細かい点を刻み、風景や動物や人物を彫り込む、作者が創始した技法による作品である。

彫られた作品は、金色に燦然と輝き、絢爛としている。
今回の新作・阿弥陀如来の像が、神々しく崇高な輝きを放っていた。
作品は製作者の心情を映し出し、作者の心持が柔らかく見る者へ伝わる。

すでに親戚の人たちも、展示場に来ていた。
来月の秩父の夜祭りには、祭り衣装に着飾る親戚の子供たちが、元気におどけている。
子供の笑顔や仕草の健気さに、大人たちは元気を頂く。

小雨降る中、大勢の人たちが、奥秩父の秋を愉しんでいる。
やがて12月になると、厳しい冬を迎える。
秩父の夜祭りの頃から、本格的な冬が訪れる。

つかの間の晩秋、立冬を過ぎ11月10日には一の酉を迎える。
日一日と晩秋は深まり、山里の日は短くなる。
江戸の風情を醸す贄川宿は、昨日と今日の2日間、縁側展に訪れる人たちで賑わう。

この宿場で毎年開かれる展覧会が、晩秋の訪れを知らせ、師走も近いことを伝える。
山々の紅葉黄葉は小雨に濡れ、鮮やかな秋色に染まる。
旧家の庭から見越しの松の老樹が、常緑の美しい輝きを放つ。

家々の縁側は傘を差しながら、見物する人達が絶えることもない。
着物姿の少女が2人、仲よさそうに見物している。
秩父の山家の里には、着物が似合う。

長閑な宿場に、華やぎと雅を添えている。
朝から降り続ける霧雨は、街道を濡らし風趣が匂う。
民家の庭の木に、橙色のカラスウリが、ぽつりと寂しげに垂れ下がっていた。

なだらかな道を進むと、背中にリュックを背負う、初老の人たちがいた。
たった今到着した様子で、何やら真剣に眺めている。
また車椅子の女性が、のんびりと織物作品を見物していた。

誰でもが自由に愉しく見物できる縁側展に、ほのぼのとした人情を感じた。
さらに下ると遠くの山並が、墨絵のように広がる。
すでに午後の2時過ぎ、贄川宿には冷気が漂い、晩秋の気配に包まれていた。

街道から逸れて下る所に、金色に染まった木々に包まれた旧家が見える。
妙齢の女性3人が、下り坂を愉しげに降りて行く。
旧家の2階の格子戸の白い障子と、戸板の鈍い茶色が美しく調和していた。

すでに街道の終着地点に近づいていた。
道端の売店で秩父名産の食べ物を売る少女が、こちらににこやかな笑顔を送ってくれた。
何気ない仕草の中に、心が通い愉しくなる。

さらに行くと木の切り株が置かれ、焚き木の炎が見える。
すでに焚き木は燃えつきそうで、灰色の煙が微かに立ち上っていた。
かつての宿場町には焚き火が似合う。

焚き火の温もりが、ほのぼのとした情趣を醸し出してくれる。
奥秩父の
贄川宿は縁側展を終えると、寒気に包まれ師走が忍び寄る。
晩秋の秩父は雅趣に溢れ、錦秋に鮮やかに装われていた。