雪深く、三春の滝桜は幻に?
2013年4月21日


深夜東京を出発し、福島県三春の滝桜を見物に、常磐道を北上する。
福島県へ出かけるのは、いわき市を訪れて以来だから、3年ぶりになるであろうか。
その1年後に東日本大震災が、東北地方を震撼させた。

勿来関や白水阿弥陀堂を訪れたことを、懐かしく思い出す。
今回は日本五大桜とも日本三大巨桜の一つとも言われる、桜の老樹を訪ねる旅である。
滝桜情報をインターネットで調べると、すでに桜の盛りは過ぎているようである。

やがて車は北茨城を過ぎ、福島県の玄関、いわきJCTから磐越道へ入る。
すると空に暗い雲が立ち込め、やがて雨模様になってきた。
予想はしていたが、やはり雨かと思い、気が少し重くなる。

せめて本降りにならず、小雨ぐらいで済ませて欲しいと心に念じる。
だが無情にも雨足は強くなり、6時半すぎから霰模様に変わり、フロントガラスを礫が弾けるように氷紋を描く。
そして山深くなるに従い、雪に変わり始めた。

ゴールデンウィークも近い春、まさかの雪はないだろうと、心の中で叫ぶ。
だが雪は小降りになるどころか、本格的に降り始め、路面も白く変わり始めている。
高速道からの景色は、雪化粧の幻想的な世界を描く。


早朝の高速道は車も少なく、白い路面を通過する車が、2本の並行した轍を残してゆく。
その上をなぞる様に、速度を落としながら進む。
やがて小野を通過する頃、雪は綿のように大きな塊となり振り落ちてきた。

小雪舞う春景色などとのんびりと構えているような余裕もなく、やがて危機感に変わり始めた。
計画では滝桜に近い船引三春ICで降り、滝桜へ直行する予定であった。
だがこの吹雪では、桜見物など出来るはずもない。

宿泊予定の磐梯熱海の旅館へ、直行することに変更した。
だが雪はさらに深く降り積もり始める。
ラジオから流れる交通情報では、まだ通行止めにはなっていない。

だが磐梯熱海ICはいまだ遠い。
やがて最初の計画の船引三春ICまで、ほうほうのていで辿り着いた。
高速道の通行止めと立ち往生を避け、磐梯熱海ICは諦め高速を降り、一般道を行くことにした。

さすがに一般道は交通量も多く、路面の雪も通過する車に踏み敷かれ、路面が顔を出していた。
やがて三春滝桜の表示も見え、さらに進むと滝桜へ7キロの表示が見えた。
もちろん立ち寄る余裕などない。

市街地から離れた道の周りは、かなりの積雪で白銀の世界を描く。
そして国道49号を一路郡山へ向かうと、郡山の市街地に辿りついた。
郡山の市街地を抜け、さらに10キロ以上進むと磐梯熱海へ到着した。

途中、日帰り温泉や温泉プールなどの設備が整う、郡山ユラックスがあり、その駐車場へ車を停め旅館に電話を入れた。
すると旅館の人が電話口に出て、事情を理解してくれた。
部屋へチェックインは出来ないが、温泉に入り休憩室で休んでくださいとのこと。



郡山ユラックス駐車場

すると雪も小降りとなり、霙混じりになってきた。
どうやら危機的状況は脱出し、ほっと胸を撫で下ろす。
時間は10時半頃、郡山ユラックスで休憩をすることにした。



郡山ユラックス駐車場の景色


郡山ユラックスの景色

館内に入ると温泉プールの前は人だかりで、中を覗くと子供たちの水泳競技会が開催されていた。
やがて館内のレストランもオープンし、雪の中を独り運転したママは疲れたようだ。
ママはお蕎麦とお稲荷さんのセットを注文し、美味しそうにお昼ご飯を食べる。

郡山ユラックス内レストランからの眺め

私は食欲もなく生ビールを飲む。
一日の計画は全て変更し、三春の滝桜は幻と消えた。
東北の春の恐ろしさを、まざまざと体験した。
 
旅館からの眺める雪景色

東北の気候の厳しさを、再認識をしながら飲むビールは、一際心に沁みた。

そして一休みのあと旅館へ出かけた。
磐梯熱海駅に近い旅館に、程なくして到着。
荷物をロッカーに収め、フロントでバスタオルとタオルを貰い、風呂場へ向かった。

浴場へ行くとすでに先客がいた。
日帰り入浴のお客様なのであろう。
大浴場で身体を洗い髭を剃り、露天風呂へ行く。

目の前の庭には椿が咲き、降り注ぐ氷雨に濡れていた。
正面に立つ欅の針金のような梢が、右に左に風に揺れている。
冬の厳冬に耐える木々は、細く強靭な姿を晒す。

無駄を削ぎ落としながら、蓄えた栄養で長く厳しい冬を生き延びるのだ。
少し熱めの湯が、旅の疲れを癒してくれる。
体の芯まで染み渡り、無事に辿りつけたことに感謝した。

そして露天風呂を出て、サウナ風呂に入り、そのあとぬる湯に入った。
温度は37度、姫の湯と書いてあった。
開湯伝説によれば、遡る建武(1334年ー1338)の頃、公家の娘である萩姫が不治の病にかかった。

その時、姫の夢枕に不動明王が立ち、姫へお告げをした。
都から東北方面へ下ると、500本目の川岸に霊験あらたかな温泉があると告げ消えた。
その500本目が名前の由来となる五百川であり、その川の周囲に磐梯熱海の旅館街が建ち並ぶ。

萩姫はお告げに従い、幾多の困難を乗り越え、この地に辿りついた。
そしてこの霊泉で湯治し、萩姫は全快し京へ戻ったと伝えれれている。
湯は人肌で柔らかく、冷たさを感じさせない。
ふんわりとマシュマロのような肌触りで、身体を包み込む。

湯温が低いぬる湯なので、のぼせることもなく長湯ができる。
旅の疲れが出たのであろうか、やがてうとうとと微睡む。
体の中に溜まった澱が、湯の中へ染み出してゆくようで気持ちが良い。

早朝の厳しかった旅の疲れを、磐梯熱海の湯が優しく癒してくれた。
明日から春の日差しが広がることを期待しながら、ゆったりと湯味を楽しんだ。
そして晴れたならば再度三春を訪れ、樹齢千年の滝桜が見られることを願った。