青梅の里「澤乃井・新酒初しぼり」を求めて
2012年11月18日

小澤酒造株式会社:東京都青梅市沢井2-770
創業は元禄15年(1702年)、赤穂浪士の討ち入りの年

今日の東京は昨年よりも23日遅い「木枯らし1号」が吹き、本格的な冬将軍が訪れた。
日本列島には冬型の気圧配置となり、北海道の旭川にも、過去124年間で最も遅い初雪を観測した。
昨日は一日中氷雨が降り寒い一日であったが、今日は朝から青空が高く広がる。

午後1時頃に家を出て、青梅の里にある小澤酒造へ向かった。
首都高にのり中央高速の八王子ICで降り、国道411号の鄙びた街道を青梅に向かった。
天気はうららか、助手席で爽やかにビールを飲み、陽気に誘われながら進むと、やがて清酒澤乃井で名高い小澤酒造に、午後3時頃に到着した。

酒蔵の前の駐車場に車を置き、多摩川の渓流沿いにある澤乃井園へ向かった。
駐車場の前の青梅街道の信号が青になり横断する。
そこは澤乃井園の入口で、大勢の人で賑わっていた。

前方を眺め渡すと色づいた木々が、昼下がりの陽光に輝いていた。
正面の多摩川にかかる吊り橋を、観光客が往来している。
本格的な紅葉には未だ少し早いのであろう、今一つ黄葉紅葉に鮮やかさが足りない。

澤乃井園に向かって進むと、多摩川の渓流を見渡す東屋がある。
その中で老若男女がテーブルの上に、小澤酒造「初しぼり」の四合便や一升瓶を置き、楽しそうに飲んでいた。
庭園の中ではテーブルを囲み椅子に座り、「初しぼり」をテーブルの真ん中に置いて、ほろ酔い気分で歓談している。
その中には金髪の女性や外国人たちと、日本人の若者たちが酒を酌み交わしていた。
日本酒は今では世界での評価も高い。
日本に滞在する外国人たちにも人気があり、青梅の紅葉を愛でながらの新酒「初しぼり」を楽しみに、遠方から来たのであろう。

売店では「初しぼり」を求める人々が並び、名物の酒まんじゅうや味噌おでんを求める人たちで大盛況である。
庭園を抜けて左手に多摩川の清流を見渡せる散策道を進む。
やはり晩秋の渓谷の昼下がり、辺りには冷気が漂う。

自然石を連ねた石畳の散策道には、すでに枯れ落ちた赤銅色の枯葉が季節を添えていた。
そして黒い木橋を渡ると目の前に、渓谷の明媚な風景が広がった。
清流は音もなく静かに、静寂の中を流れてゆく。
翠の清澄な流れは降り注ぐ陽光に、銀鱗の漣となって流れ下る。
手前の枯れ錆びてきた木々と、その澄んだ水面の色とが、美しいコントラストを描き出していた。
来週ともなれば、この渓谷一帯は黄葉紅葉に燃えて、さらに鮮やかさを増すであろう。
そして日一日と寒気が押し寄せ、本格的な厳しい冬が訪れる。
川面を見渡せる一角に長椅子が置かれていた。
秋の日の日差しは西に大きく傾き始めている。

木陰の長椅子に座り辺りに漂う霊妙な空気を大きく吸った。
幽谷の自然に溢れた空気に、柔らかくふくよかな晩秋の匂いを感じた。
この先にはまだ散策道は広がる。
川辺に降りて川淵から多摩川の瀬音も楽しめるようだが、元来た道を引き返すことにした。
木々の合間から遠く吊り橋に目をやると、木々の黄葉に包まれ静寂をたたえていた。
さらに進むと右手に大きな石碑が立ち、日本を代表する彫刻家・朝倉文夫の文字が刻まれていた。
川合玉堂や吉川英治などの文人墨客と親交を結び、こよなく芸術を愛した澤乃井主人との交流があったのであろう。
短い逍遙を終え庭園に戻ると、テーブルを囲み酒を楽しむ若者たちの彼方、紅葉が西日に照らされていた。
すでに夕刻も近い山里は4時を迎えようとしていた。
だが若者たちは元気に晩秋の饗宴を楽しんでいる。
人々が笑顔を湛えて快活に語り飲む姿は美しい。
最近どこか暗く元気のない社会、若者たちが活き活きと仲間たちと酌み交わす姿は楽しい。
その若者たちの彼方、黄葉紅葉に萌える木々と、多摩川の水の碧色とが対照をなし、清流に掛かる吊り橋が風情を添えていた。
清流を見渡す東屋には天井から吊っている大きな雪洞の照明が情緒を醸していた。
私たちも東屋で一休みをすることにした。
厚手の木造りテーブルには、大勢の人たちが「初しぼり」を飲み、意気軒昂に語り合っていた。

私たちも席に着き、早速、「初しぼり」を購入しに売店へ行く。
「初しぼり」の一升瓶は冷えていないので、冷えた四合瓶を購入し、家飲み用に一升瓶も購入した。
そして席に戻り昔懐かしい木の年輪の文様を描く椅子に座り、頂いたカップに酒を注いだ。
微かに霧が霞む四合瓶の口を開け、カップにとくとくと注ぐ。
カップを持ち鼻先に近づけると柔らかな芳香が広がる。
口に含む瞬間、口内に爽やかに広がり、瑞々しく口の中に溢れた。
今年の冬のさきがけの新酒は、清冽な味わいを齎してくれた。
晩秋の日の光は大きく傾き始めている。
山間の里に日足は長く伸び、光と影を鮮明に移し、深山幽谷に雅な世界を現出させていた。
東屋から多摩川を望むと渓流の水面に陽光が反射し、水際に小さな波紋を描き、静寂な趣を添えていた。
ほろ酔い機嫌で東屋を出た時はすでに4時半頃。
庭園の賑わいは衰えることもない。

庭園の散策道には枯れ落ち葉が、これから訪れる季節の到来を知らせている。
それは季節が贈る枯葉の宝石たちである。
毎年自然は私たちに大きな感動と喜びを与えてくれる。