埼玉県日高の里・巾着田、曼珠沙華を訪ねて
2012年09月30日

台風17号が本州に近づいてきている日曜日。
果たして天気は如何にと気がかりだったが、朝起きてみれば快晴だった。
予定通り日高の里、高麗川の畔に咲く、
曼珠沙華(彼岸花)を見に出かけた。

関越から圏央道を下り、299号を進むと目的地に着いた。
すでに広い駐車場は満杯。
少し離れた私設の駐車場へ車を預けた。
 
そこからのんびりと
曼珠沙華咲く巾着田へ向かった。
道すがら、畑の稲穂は黄金色に実り、娘衣装の案山子がたっていた。
すでにここは稔りの秋に彩られていた。

やがて遠くに高麗川の清流が開け、長閑な風情を醸していた。
さらに進むと、雑木林の彼方、巾着田へ誘う、「あいあい橋」が見える。
高麗川を眼下に見ながら進むと、微妙に湾曲した反橋の前に到着した。
 
長さ91.2メートルのこの橋を渡るのは5年振りだろうか?
あの頃はまだ、巾着田を訪れる人たちは、今ほど多くはなく、駐車場も整備されていなかった。
その時に比べると、日和田山の麓の
曼珠沙華の園一帯が、かなり賑わいを増していた。
  
木製トラスト構造の橋から高麗川を望むと、釣りを楽しむ人や、川遊びをする家族連れが見える。
そして昼下がりの陽光を浴びながら、橋を行き交う人たちで華やいでいた。
遠く眺めると、曼珠沙華が朱色に咲き匂っている。
橋を渡り切り少し進むと、曼珠沙華畑への入り口があり、入場券200円を払い入園した。
広々とした曼珠沙華の園は、朱色に染まっていた。
だが園はいまだ8分咲であろうか?
夏場の猛暑のため、年々開花の時期が遅れて来ているようだ。
例年ならすでに曼珠沙華は、咲き終わる時期のようなのだが。
それでもさすがに広い園内は、朱色の海が洋々と開ける。

燃えるような朱色が彼方まで、悠々と広がっていた。
散策道をのんびりと進む辺り、
薄緑の茎の先に、開花を待つ曼珠沙華が広がる。
同じ畑で同じ花であるのに、僅かな光と土壌の差異で、開花がずれるのであろう。
それは自然の不思議であり、自然のいたずらなのか。
さらに歩いてゆくと、陽光に照り映えて、蜘蛛の巣の糸が銀色に輝く。
その巣の真ん中に、逆光に晒され、蜘蛛が黒い影となり獲物を狙う。
 
紅に染まる曼珠沙華の花園も、昆虫たちにとっては、生存競争をかけた戦場なのであろう。
そしてこの花園には、農薬などから守られた、豊かな自然が温存され、そこにはたくさんの昆虫たちが共生している。
暖かな秋日が降り注ぎ、雑木林越しの木漏れ日が、朱色の園に光りの波紋を映している。
するとまた蜘蛛が巣を張っていた。
今度は陽光が順光となり、蜘蛛の姿が明瞭に浮かび上がり、木々の緑と、曼珠沙華の紅が背景に滲む。
自然の生みだす諧調が、柔らかな光彩となり耀く。

すると蜘蛛がゆっくりと動き始めた。
望遠レンズの視線を感じたのであろうか?
その動きはゆっくりと、スローモーションを見るようであった。
現在は5.5ヘクタールの花園に、曼珠沙華の花が200万本咲き誇る。
が8世紀の過去へ遠く遡れば、この地は不毛の地であったであろう。
そこへ高句麗から渡来した人々が、荒れ果てた土地を灌漑し開墾をして、田を開き稲を実らせた。
 
曼珠沙華は元来、日本には自生していなかった。
高句麗からの渡来人が渡来した時、日本に曼珠沙華をもたらした
曼珠沙華はサンスクリット語のmanjusakaの音写で、天界に咲く花の意味を持ち、学名は
lycoris radiata。
曼珠沙華は多年草ユリ科のリコリスに属し、radiataは放射状を意味する。
まさに 曼珠沙華の花々は、放射線状に花弁を広げ、妖艶な朱色に咲く。
日が落ち人影もない夕闇になれば、月が煌々と夜空に輝き、清流の瀬音が静寂に響きわたる。
 
その時、月明りに照らされ、薄墨に濡れた朱色の花園は、縹渺として不気味に妖しく咲き匂う。
そのさまは
曼珠沙華の別名でもある、地獄花や幽霊花を想像させるであろう。

曼珠沙華の広い群生地を散策するに従い、花園に人影が溢れ始めて来た。

 
携帯電話で写真を撮る人、三脚を構えて撮影する本格派の人たち。
そして何やら談笑をしながら散策する人達に、陽光が降り注ぐ。
台風が近づいていることが信じられない程に、陽光は暖かく、身体が少し汗ばむほどである。
花園に点在する雑木林には、それぞれに木々の名前を書いた札が吊るされていた。
その名前の木々は、かつて子供の頃に慣れひたしんだ、懐かしい雑木林たちであった。
高麗川の清流の水に育まれ、燦々と耀く陽光を受け、木々は大地に慈しまれているようだ。
雑木林の力強い存在感と、燃えるような曼珠沙華の紅が、見事に調和している。
そして高麗川の崖伝いの木々の緑が、陽光に照らし出されて眩い。
さらに曼珠沙華に目を向けると、強い日射しに反射した花々が、燃えるような紅に耀いていた。
高麗川に目を移すと、河原に外国人が集い談笑をしている。
ショートパンツ姿の人や、リュックを背負うハイキングスタイルの軽装備の人たちが、偶然にここで出会ったのであろう。
高麗川の川面が昼下がりの陽光に煌めいている。
すると大きな看板が目の前に現れ、かわせみの保護区であることを知らせていた。
高麗川には様々な生物が生息し、野鳥の宝庫なのかもしれない。
都会から程遠くない距離に、このような自然が溢れている。
曼珠沙華の花園には、さらに人出が溢れ賑やかさを増していた。
だがやはり台風が近づいているのであろうか?
時折、日が黒い雲に隠れるかと思うと、その暗雲を切り裂くように、強い日差しが差し込む。
  
すると不思議な咲きようの曼珠沙華を見つけた。
二股に枝分かれした老木の肩に、曼珠沙華が楚々と咲いているではないか。
まさに老木と曼珠沙華の幽玄な室内楽が聞えるようだ。
  
曼珠沙華の園を下って、高麗川の岸辺へ出る。
水は清く透通り、浅瀬の石が色とりどりに耀いていた。
川の流れは穏やかに、堰となる川石から、川面を白い糸の束となって流れ過ぎてゆく。
川辺ではのんびりと、川遊びを愉しむ人たち。
さらに白と黒の毛並みも美しいワンちゃんが、岸辺で遊んでいた。
川の奥の崖では、子供が蔦にぶら下がりながら、川に飛び込んでいた。

やがて空模様も段々と怪しくなって来た。
やがてぽつりぽつりと雨が落ちたかと思うと、また日が射したりの覚束ない天気に変わる。
川辺を早々と切り上げ、
曼珠沙華畑を抜け、露店が並ぶ「ふれあい広場」で一休みすることにした。
 
すると空に暗雲が垂れ込め、雨が本格的に降り出す気配。
そこそこに切り上げ、急ぎ足で駐車場へ向かった。
やがて大粒の雨が降り出し、駐車場の車の中へ避難した時は、雨脚が聞えるほどの土砂降りとなった。