まったりと過ごす秩父の夏
2012年08月14日-16日


8月16日、秩父から帰京した。
東京は今だ炎暑である。
滞る空気が煮えたぎっているようだ。

秩父には14日から16日まで滞在した。
最初の日は秩父市皆野にある、日帰り温泉「秩父川端温泉・梵の湯」へ出かけた。
ここの湯はつるつるすべすべして気持ちがよい。

湯質は関東随一の重曹泉との評判だ。
湯は透明で、手で掬い嗅ぐが臭いはしない。
そして柔らかで優しく身体を包みこんでくれる。

ゆったりと時間を掛けて湯味を愉しみ、「梵の湯」を後にする。
途中秩父神社近くにある「武甲正宗」の蔵元へ行き、社長がお勧めの日本酒を購入。
その時、社長も登場すると言う、TV放映をダビングしたCDを、お土産に頂戴した。

小鹿野町にあるママの実家に到着した時は、すでに夕刻近くであった。
遠くでヒグラシの泣き声が、物悲しく響いていた。
すでに親戚の人たちが集まり、仏壇の前で団欒をしている。

仏壇にお線香を焚いて手を合わせる。
やがて日が落ち始め、空の紺青は色を失う。
さらに鮮やかな夕陽の紅が滲み流れ、雲を覆う灰色も深く霞み漂う。

折り重なる山々は黒い影となり、稜線に残光が照り返す。
すでにツクツクホウの忙しない声も消え、ヒグラシの声が仄暗い夕靄へ誘う。
こうして親戚が再会するのも、伊勢路を旅した、今年の4月以来である。

お盆の再会、近況を語りながら、お酒を酌み交わすのは愉しい。
翌日、ママは高校時代の同級生との25年振りの再会へ、小鹿野町市街へ出かけた。
ママが京都に住む友達と会う間、私は実家に残り、1人読書をすることにした。

今回、本は2冊持ってきている。
井上ひさし著「表裏源内蛙合戦」と色川武大著「なつかしい芸人たち」
2階の部屋で読むことにした。


2階の居間はかつてはカラオケルームで、バーカウンターも備え、ハイスツールが5脚ある。
だが今はカラオケの音響設備は撤去され、ゴルフの練習場に化していた。
たくさんのゴルフクラブが置かれ、スイングも出来る。

さらに人工芝が敷かれ、パターの練習もしているのであろう。
たくさんのゴルフボールが、ピンの前に転がっていた。
部屋の窓を開け放す。

道路に面した窓を開けると、生暖かい外気が部屋に流れた。
その後、爽やかな風が吹き込んできた。
夏の炎天、長閑な山里の吹きい寄せる風は、気持ちが良い。

そして反対側の窓を開け放つ。
清涼な空気が流れ込む。
緑深い木々の彼方に、清流が流れ、その涼気と森の霊気が響き合い、吹きわたる風に運ばれてくる。

森と川のハーモニーが湧きたち、部屋に流れ込む。
大きく呼吸をすると、空気は匂い薫り、飲み込むと身体の細胞が蘇るようだ。
道路側の温度と森側の温度差は、4度位はあるであろう。

板の間に仰向きになって読書を始めた。
床板の感触が背中にひんやりと涼感を誘う。
ごろり横になりながら読書をする。

すると眠気が襲い本を置く。
眠りに誘われながら目を閉じる。
すると風にそよぐ竹林のざわめきが聞える。

さらに1昨日の雨で増水した清流の瀬音が響く。
そしてツクツクボウシが忙しなく啼き飛び去って行く。
都会の喧騒を離れ、自然に包まれながら1人読書をする。

何処へも行かずに、旅先で静かに本を読む。
豊かな自然に囲まれながらの読書は至上である。
そこには心を癒す、緩やかな時間が流れていた。