伊勢志摩・鳥羽水族館を訪ね、鳥羽港から知多半島・伊良湖岬へ
2012年4月24日

昨日は伊勢神宮の参拝を終え、温泉に浸かったあと、4家族揃っての夕食をした。
親戚一同の再会は愉しかった。
酒も程良く回り部屋に帰り、地酒を飲みながら、鳥羽湾の夜景を眺める。

地酒にほろ酔いながら、静かな春宵の夜空に、無数の星屑が煌めいていた。
月は輝き、微かに薄墨を滲ませたような青紫の夜空を朧に染めていた。
明日はきっと晴れるのであろう。

温泉を浴び、旨き酒を飲み、広がる鳥羽湾の夜景を眺め、深夜の1時頃、床に就いた。
翌日、7時頃目が覚めた。
そして早速朝風呂を浴びに出かけた。

このホテルには、1階、3階、6階にそれぞれに、趣向を凝らした浴場がある。
昨日、旅の疲れを癒した6階へ出かけた。
大浴場で目覚め切らない身体を慣らし、そして露天風呂へ入る。

岩風呂の雅趣を味わい、隣の檜風呂へ入る。
露天風呂には、時折人が訪れるだけで、それ以外に人影もない。
広い檜の風呂を独り占めしながら、洋々たる鳥羽湾を見渡す。

空は澄み渡り、明鏡な海に朝日が降り注ぐ。
その碧い海を切り割くように、小さな漁船が白い航跡を残しながら沖へ進む。
船が進むに従い、前方に鱗のような漣が揺れる。

海からは爽やかな朝風が優しく吹きそよぐ。
足を伸ばし、湯を手に掬い頭から被る。
すると檜の木香が、ふくよかに匂い漂う。

伊勢に旅して、今日は初めての晴れ。
陽光が輝きを増す静かな海に、春に燃える島々が浮かぶ。
その島影の彼方に浮かんでいるのは、伝説の島、神島であろうか・・・・・・。

朝風呂を浴びた後朝食を済まし、ホテルを10時前にチェックアウトをした。
そして車に乗り合わせ、鳥羽水族館へ出かけた。
10分位で到着したが、まだ入り口は閉まっていた。
やがて10時の開門と共に入館した。
勿論、私たちが1番乗りであった。
静寂な中、少し進むと、薄暗がりの正面に、大きな水槽があり、色も鮮やかな大小の魚が遊泳していた。
その魚たちは、伊勢湾に生息する魚たちであった。
日本の海にも、こんなにも沢山の魚類が生きていることに驚く。
さながら熱帯魚のような光彩に耀く魚たちがいる。
広い水槽の中を、数え切れないほどの魚たちが、優雅に泳いでいる。
それは楽しげに愛嬌を振り撒きながら、右へ左に、上に下に泳ぎ舞う。
様々な魚たちが、広大な海に比べれば、針の先ほどにもない水槽で、平和を楽しむように共生している。
水槽に外光が注ぎ込むのであろうか、水槽が煌めき、魚が鮮やかに眩む。
この水族館には、自然環境を再現した12のゾーンがある。
そして1,000種類、20,000点の海川の生き物が飼育され公開されている。
早朝のこと、水族館を訪れる人も疎らで、館内は静謐な空気が満ちている。
広い通路に人影は無く、だだっ広く感じるほどだ。
館内を巡る順路はなく、あちらこちらを、自由気儘に見て歩けるので気楽だ。
やがてひと際暗く感じる館内の壁に、小さな長方形の水槽が並ぶ。
そこには世界の川に生きる、希少な魚たちが泳いでいた。
この世の物とは思われない、金彩の鎧を着て泳ぐ大魚。
滑りとした流線型の身体、その先の鼻先は尖り、上に捻じれ曲がる魚。
自然が生み出す、生き物たちのユーモアに満ちた表情が可愛い。
ここに展示されている魚たちの中には、地球上から消滅しかけている、絶滅危惧魚類もいるのであろう。
 
肉眼では滅多に見ることの出来ないエイが、翼のように身体を広げて、身体の割に小さな口を動かせている。
そして鮫が悠然と泳ぐ姿は、さすがに貫禄がある。
沢山の大小の魚が、混然と調和しながら、水槽を遊泳する。
 
さらに通路を進むと、「パフォーマンススタジオ」の看板が出ていた。
12m×13.5m×4.3m(水量約650t)の広い水槽には、強い日差しが射しこむ。
きらきら反射する海水の中を、アシカやアザラシたちが、身体を翻しながら泳いでいる。
上に下に、お腹を見せ回転しながら、射し込む陽光を楽しむように、軽快に泳ぎ回る。
この水槽はアシカやアザラシの鰭脚類が多く生息する、岩礁の切り立つ、南米チリの海岸を再現していた。
水槽の脇に飼育係の中年の男性がいた。
正午を過ぎると、この男の人が動物たちに、様々な芸をさせるのであろう。
館内には少しづつではあるが、入館者が増えて来た。
そして中学生の団体客が入場して来て、館内はざわめき始めた。
様々な展示コーナーを回ると、「古代の海」のコーナーがあった。
カブトガニ、ハイギョ等と共に、不思議な姿の貝が水槽の中に見える。
そこには生きている化石とも言われる、オウムガイがいた。
 
それは約5億年の昔、古生代から中生代にわたり棲息した、頭足類(イカやタコの仲間)の子孫であった。
照明に照らされて、貝は青く鮮やかに光る。
形も奇妙であるが、貝の殻から出た顔の、真ん丸な眼が円らで可愛い。
 
さらに進むと全面ガラス張りで、天井や左右を見れば、水槽の中にサンゴ礁が広がる。
その前を色も鮮やかな熱帯の海に生きる魚たちが、煌めきながら泳いでいた。
そして大きなアオウミガメが、優雅に王者の風格で、お腹を見せながら泳いでゆく。
展示場の水槽には、世界の様々な珍しい魚たちが、見る者を楽しませてくれる。
広くゆったりとした散策通路は、全長1.5キロもあるのだが、美しい生物たちに魅せられ、その距離を忘れる。
この水族館を訪れる老若男女の数は、1年間で94万人にもなり、全国の水族館入場者番付で8位だと言う。
そしてイルカの遊ぶ水槽へ出かけた。
沢山のイルカが、広い水槽を縦横無尽に泳いでいた。
その仕草は愛嬌に溢れ、小さな瞳は愛らしく、口元は横に筋のように広がり、何か語りかけているようである。
 
イルカたちはダンスを踊るようにリズミカルに、身体をくねらせながら泳ぎ過ぎる。
イルカにも様々な性格があるのであろう。
水槽の透き通った正面のガラスに、身体を寄せながら、媚びるように顔を寄せるイルカがいる。
また見る者を意識することもなく、流線型の身体で水を切り泳ぐもの。
その表情や仕種は、何処か人間の子供のようでもある。
人は動物の中に、人間に近い仕種や表情を探し、そこに人間との親近性を感じるのであろう。
館内には様々な世界から集められた、魚や動物たちが展示されていた。
その種類や数も驚きだが、展示のされかたが自然に近く、伸びやかである。
それが見るもいのに、(安らぎと癒しを与えるのであろう。
やがて水族館も最終コースに来た。
そこは「ジャングルワールド」、朱色も鮮やかな、嘴の長い鷺のような姿の鳥が、岩の上に静かに立っていた。
大きな檻の下では、円らで大きな黒い瞳を瞠きながら、青草を食べている。
カピバラとは草原の主の意味を持つ。
すでに時間は10時半頃、館内は段々と賑やかになってきた。
私たちは水族館を出て、海辺で記念写真を撮った。
海に目を移すと、これから乗船する伊良湖行きのフェリーが停泊していた。

ここで四日市の親戚と別れ、我々は 伊勢湾フェリーへ向かった。
桟橋は水族館の隣に位置していた。
手続きを済ませ、乗船した時刻は1、0時40分ごろだった。
 
車を置いて階段を上り、甲板のウッドデッキに落ち着いた。
やがてフェリーは、鈍い汽笛を残し、岸壁を離れてゆく。
湾内には海上保安庁の監視船が停泊している。
 
やがてミキモト真珠島が優雅に広がり、その前をフェリーはゆっくりと通過した。
昨日宿泊したホテルが、青空の中に霞みながら遠ざかり、やがて水平線に消えてゆく。
昨日までとは打って変わって、今日は快晴。
 
真っ青に澄み渡る空から、陽光が降り注ぎ、海面の漣を鱗光に変える。
波は穏やかで、海は鏡のように静かだった。
洋上を様々な船が行き交い、漁船があちらこちらに浮かんでいた。
 
そして白と水色も爽やかな、鳥羽港を目指す伊勢湾フェリーが、目の前を通過する。
降り注ぐ陽光は柔らかく、紺碧の海に光沢をもたらす。
やがて静かな海に、蜃気楼のように小島が朧に浮かぶ。
フェりーの後甲板を見れば、日の丸の赤が際立つ国旗が、煌めきながら翻る。
一路伊良湖岬を目指すフェリーは、碧い海に真っ白な航跡を残して行く。
遥か望むと、遠く近くの島影は、青紫に浮き立ち、この辺りの海には、時折、イルカの回遊も見られるらしい。
ウッドデッキから客室を抜けて特別室へ行く。
ゆったりとした船内に、客はほとんどいなかった。
ガラス越しに前甲板を見ると、太いロープを巻き付けた大きな機械が、強い陽光を浴びていた。
 
やがて神島が姿を現し、ゆっくりとフェリーは通過してゆく。
三島由紀夫作「潮騒」の舞台となり、映画にもなった島である。
神秘的な名前が示すように、島には多くの祭が伝わり、様々な伝承と神話に彩られる島である。
 
標高171mの灯明山の低い稜線はなだらかな姿を見せ、新緑に覆われていた。
海辺沿いには民家が密集し、そこだけに生活の匂いが漂う。
小高いなだらかな丘のような島は、春霞みの洋上に浮かびながら、碧い海の彼方へ姿を移す。
甲板に神島を紹介する放送が流れる。
ウッドデッキで渡り来る風と、降りそそぐ陽光を浴びながら、伊勢湾の景色を楽しむ人たちは、一斉に神島を望む。
55分の鳥羽から伊良湖岬への航海。
やがて遠くに伊良湖岬が見える。
伊良子岬には、31年くらい前に、家族で訪れたことがある。
豊橋からバスで到着した伊良湖岬は殺風景で、巨大なホテルが1軒立っていただけだった。
子供連れの家族旅行。
伊良湖岬からその足で、フェリーに乗船し、渥美半島へ渡り、さらに篠島へ、小さな客船に乗って渡った記憶が蘇る。
その時に比べれば、伊良湖岬は観光開発され、隔世の感があることであろう。
 
朧に霞んでいた伊良湖岬は、明瞭な姿に変わり、岬に立つ建物もくっきりと見え始めた。
そして鳥羽港への出航を待つフェリーが、桟橋に横づけになっていた。
伊勢志摩の鳥羽港から、伊良湖港への55分の航海、伊勢湾横断のクルージングは終わった。