小さな旅&日記
「熱海梅園を訪ねて」
2011.01.31


初島の朝、ホテルの屋上の露天風呂からの朝焼けは美しかった。
曙に空が金色に染まり、鏡のように静かに凪いでいる海面が、陽光で照り映えていた。
初島の朝を迎え、朝食の後、10過ぎにホテルをチェックアウトした。

送迎バスに送られて、フェリーの着く港には、10時50分頃に到着し、暫くして乗船した。
やがて、イルドバカンス2世号は、岸壁を離れる。
初島の港はだんだんと遠ざかり、島影が小さくなっていく。

抜けるように青い澄んだ空、フェリーは紺碧の海に、白い航跡を残しながら熱海へ向かう。
穏やかな海を滑るように船は進み、初島はやがて、霞みながら視界から消えて行く。
やがて、前方には熱海のホテル群が、洋上に蜃気楼のように出現した。



鄙びた初島の港と対照的な近代建築群は、壮観な眺めである。
フェリーは真っすぐに熱海に向かい、熱海のホテル群の威容が明瞭になり始める頃、たくさんのカモメが飛び交い、我々を出向かえてくれた。
それにしても、初島ではカモメの姿を見ることもなかったが、何故に熱海が近づくに従い、こんなにも多いのであろうか。


やがて、フェリーは熱海港に接岸し、乗船客は下船した。
そして、昨日停めておいた駐車場に向かう。
駐車場には、殆ど駐車している車はすでになく、車に乗り梅が日本で一番早咲きと言われる、熱海梅園へ向かった。


坂の多い熱海の市街地を抜け、上り道を進めば、左手彼方に相模灘が陽光に耀いている。
さらに進めば、昨日訪れた来宮神社の入り口近くを通り過ぎ、熱海梅園に到着した。
前回訪れたのは何年前のことだろうか。


梅園前を通過して、梅園近くにある有料駐車場に駐車した。
今回は前回の時に比べ、かなり駐車スペースに余裕があった。

車を置いて、早速熱海梅園へ向かった。
 
梅園入り口には、梅まつりの大きな紅梅色の看板が立ててあった。
梅園入り口で、入園券を購入しようとしたら、「熱海に宿泊ですか?」と訊かれた。
「はい、先日、初島に泊まりました」と言って領収書を見せた。

 
すると、300円の入園券が100円になり、とても有り難く嬉しい気持ちになった。
熱海梅園の歴史は古く、茂木財閥を築いた
、横浜を代表する豪商茂木 惣兵衛(1827年 - 1894年)により、
2.5haの敷地面積で、明治19年(1886年)に現在の地に開園された

後に、梅園は、皇室に献納され皇室財産となるも、その後国有財産に変わる。
さらに熱海国際観光温泉文化都市建設法のもと、昭和35年10月に、大蔵省から熱海市へ払い下げられ、昭和41年4月1日に開設した。
現在の広さは34.394平方メートルであり、熱海市の西側の山間に位置している。
 
梅園の中に入れば、近くに蝋梅が楚々と、黄色の可憐な花を咲かせていた。

鼻先を近づければ、妖艶な匂いが微かに漂う。
梅のそこはかとない匂いは、何処か媚薬のようで魅惑的である。
 
麗らかな昼下がりの陽光を浴びながら、なだらかな坂の散策道を上りながら進む。
平日の月曜日のせいなのだろう、熟年や老年世代の人が、圧倒的に多い。

そういう私も、すでに立派な熟年であり、そう遠くない招来には、間違いなく老年になっている。
 
この世に生を受けた全ての人間にとって、歳だけは確実に平等にとる。
そして、何時かは必ず死が、待ち受けている。

梅園の梅の開花には、はまだ少し早いのだろうか。
  
薄桃色の紅梅はまだ蕾も多く、梅の艶麗な匂いも弱く薄い。
さらに進むと、幾軒かの売店があり、食事どころでは、ほろ酔いの酔客もいた。

ぶらりぶらり微かな渡りくる風を愉しみながら歩けば、小さな池があった。
 
陽光を浴びた池面は光り、澄んだ水の中を、たくさんの鯉が泳いでいた。
日本の名所旧跡の池や湖には、何処に行っても鯉が優雅に泳いでいる。
鯉は日本を象徴する魚なのかもしれない。

 
微かにそよぐ風を嗅ぎながら、さらに進めば、高く澄みきった青空を背に、白梅が可憐に咲いていた。
さらに散策道を進むと右手に、昭和の風情を醸し出す、二階建の木造の建物が建っていた。
それは、作曲家中山晋平の熱海の別荘を移築したものだった。
 
第二次世界大戦の最中、戦災を避けて、東京の中野から、昭和19年に熱海へ移住し、昭和27年に亡くなるまで、この家に住んでいた。
その建築物は今は中山晋平記念館となり、参観は無料で開放されていた。
建物には燦々と陽光が差し込み、昔懐かしい縁側に座ると、心が何故か和む。
 
そして、縁側から裏手の庭を眺めれば、黄花亜麻の花が、眩いほどに黄色い花を咲かせていた。
散策道に戻れば、紅梅や白梅が咲き匂い、水仙の花も可憐に咲いていた。
だが如何した事なのだろうか? 花の蜜を求めて飛んでくるメジロの姿が見えない。
 
 
前回訪れた時には、たくさんのメジロが愛くるしく蜜を啄んでいたのだが。
さらに進むと、澤田政廣(さわだせいこう・1894〜1988)記念美術館へ続く、梅園(うめぞの)橋を渡る。
橋から遠く望めば、なだらかな傾斜面に、60品種457本の紅梅白梅の花が咲きこぼれていた。

 
川を流れる真っ青に透通った水面は、陽光に照らされ、銀鱗の煌めきを見せていた。
陽は燦々と差し、麗らかな陽気だが、遠くから微かに橋上に流れ来る1月の風は冷たい。
橋を渡り、澤田政廣
記念美術館前で一休み後、また散策を続けた。
 
早いもので、時間はすでに午後の1時半を過ぎていた。
散策道をぶらりぶらりと下り、大きな石に腰を下ろして記念写真を撮った。

一足早い春を待つ、初島と熱海梅園の一日は終わった。