ママの義兄の個展を観に秩父へ
「NEW ART SCRATCHED BRASS(ニューアート・スクラッチドブラス)」

2010年2月28日

このところ、何かと日曜日に用事が重なり、何とか2月の最終日、ママの義兄の個展を観に、秩父へ出かけた。
桜の蕾も少しずつ膨らみ始める季節、今日は幸いも、ドライブ陽気で嬉しい。
オーナーのお店と「秩父国際劇場」の間の路地を入る
昨日の仕事が4時過ぎに終わり、早暁も近い時刻の帰宅となった。
家で、バンクーバー・オリンピックを観ながら、日本酒を飲み、暫くして床に就いた。

目を覚ませば11時、そして、家を出たのは午後の1時頃だった。
川越街道から、所沢径由で一路、春を待つ秩父路へ向かった。
道路は空いており、車は渋滞することもなく進む。
個展会場の蔵 蔵の入り口
正月に見た高麗川沿いの峠道、冬錆びた山々は、木々の緑も心持、色を戻していた。
飯能と秩父を結ぶ正丸トンネルを通り抜ければ、山は深く、鬱蒼と茂る木々に、漏れる日の光も薄い。

上りの道を暫く行けば、やがて下りのなだらかな路。
横瀬を過ぎれば、彼方に秩父の市街地が広がる。

そして、秩父神社の前を通リ過ぎ、目的地の個展会場に到着した。
個展会場の前の駐車場に車を停め、道路を渡れば、そこに、「三橋照勝展」のポスターが掲示されていた。

上石商店と、かつて映画館だった「秩父国際劇場」との間、狭い路地を通り抜け、40メートルくらい進むと、個展会場に出た。
門を潜ると、三橋さんが迎えてくれた。

すると、会場のオーナーも、笑顔で私たちを出迎えてくれた。
そして、個展を観終わった後に、隣り合わせた自宅へ、立ち寄るようにとのお誘いをいただいた。

個展会場は、オーナーの裏庭に立つ、古い蔵を改造して造ったものだった。
どっしりと構えた蔵は、その佇まいだけでも、すでに古き時代の情調に溢れていた。
蔵の狭い入り口を、背を曲げ、頭を下ろして、大股で跨ぐと、そこには別世界が開けていた。
三橋さんとママ
三橋さんの金色に輝く、スクラッチアートの世界だった。
蔵の壁に飾られたアートが、会場の柔らくな仄かな灯りに照らされて、鈍い金色の光を放っていた。
三橋さんと私
真鍮を引き削った、気の遠くなるほどに無数の鑿の跡。
かつて、ヨーロッパ画壇を席巻した、スーラなどの点描画のように、途方もないほどの切り疵、引き疵が共鳴しながら観る者に迫る。
それは、決して押しつけることもなく、柔らかなメタリックイェローの黄金の輝き、観る者を華やぎに包み込む。
2階の会場へ続く階段 天井の梁
この技法は、三橋さんの独創の芸術世界だ。
三橋さんは、もともと、特殊精密技術を持つ技術者、自分で精密製作の会社も経営する。
きっと、その精密技術を応用して、独自の芸術世界を創造したのだろう。

1階から2階へ階段を上ると、さらに、三橋さんワールドが広がっていた。
蔵の組み木の匂いが、会場の中に懐かしく漂う。
蔵に切られた格子窓からは、陽光も淡く、部屋の中に流れ込む。
2階の個展会場
蔵の組み木の落ち着いた茶色、照明のほの灯りに照らされて、会場には心も和む空気が漂う。
誰もかつて創造した事のない、三橋さん独創のスクラッチアートの雅を、心ゆくまで堪能する。

金色は地上を照らす太陽の光。
その輝きは生命の象徴。
古来日本の仏像も然り、室町時代に始まる狩野派、さらに俵屋宗達、尾形光琳の琳派の世界の色でもある。

日本の伝統の生命の色、メタリックイェローは、日本美術の王道だろう。
その伝統を継承しながら、生命の色、メタリックイェローの輝きの中、新たに、独自の創造の世界を開示したのだ。

蔵の会場を外に出れば、すでに日は傾いていた。
そして、オーナーの上石さまのご厚意に甘えて、表玄関から中へ。
玄関横の昔ながらの部屋。昔はここで、商談がなされたのであろう。正面に大木くて、頑丈そうな金庫が置かれていた
昔ながらのガラスの嵌めこまれた、木造りの表玄関を開けてみれば、そこには生活の美が宿っていた。
石庭を思わせる玄関、大きな敷石が、部屋まで続き、壁には日本画が幾つも飾られていた。

靴を石の三和土に置いて、部屋の中へ。
居間に掘られた炬燵に入る。
ご主人が手ずから、コーヒーを淹れてくれた。
玄関の中の風景
ご主人は、この蔵を、秩父に住む芸術家たちに、無料で提供している。
かつてご主人の祖父は、秩父に映画文化をという熱い思いで、「秩父国際劇場」を造ったそうだ。
三和土に続く石の通路
その「秩父国際劇場」は、浅草にかつてあった「浅草国際劇場」を模して造ったのだった。
その、「秩父国際劇場」も、耐震構造の問題などを抱え、今年いっぱいで取り壊すことになった。
オーナーの経営する上石商店の正面
にこやかで穏やかなご主人との語らいの中、やがて、上品で笑顔の美しい奥様が、さらに美味しい緑茶でもてなしてくれた。
秩父の個展を観に来て、秩父にまた1人、愉しいお友達が増えたようで、とても充実した1日を送らしていただいた。
三橋照勝さんのこれからのご活躍を、大いに期待するとともに、上石夫妻に深謝!。


「NEW ART SCRATCHED BRASS(ニューアート スクラッチドブラス)」
三橋照勝氏の世界
2010年2月14日ー3月12日
「ギャラリー上石」
AM10時ーPM5時
 
 
  
  
  
 
 
 
 
 
ポスター写真を除いて、三橋照勝氏撮影