ショットバー・ピーポッポ版「厩家事」
2013年6月28日

それは雨のそぼ降る一日でした。
こんな日はお客様の来店は、期待できないと覚悟していた。
しかし物事は不思議なもので、期待すると外れるのだが、諦めていると予想に反して大賑わいのこともある。

梅雨時の一日、しとど降る雨は止むこともなく降り続く。
すると若いふたり連れが店へぶらりと。
... あれま〜ッと嬉しい驚き!

するとどうした事か、お客様が次々と来店した。
やがて奥までいっぱいになりの盛況ぶりだ。
だから秋の空と女性の心と水商売はわからない。

カクテルに追われオーダーの嬉しい雨。
そしてやっと仕事は一息つく。
カウンターのお客様とにこやかに談笑していた。

ママは溜まったグラスや器を洗い、グラスを吹き上げている。
するとグラスタオルで吹き上げるグラスが、手元からするりと落ちた。
それを私の目が一瞬捉えた。

思わず「あッ!」と小さな声とも溜息ともつかない叫び? を上げてしまった。
グラスはスローモーションのように落下し、ママの足元でパリンッ! と乾いた音を立てた。
そのグラスはバカラグラスの高価なものである。

お客様もその瞬間、ママの顔を見た。
ママもしまったッ! という表情で私の顔を見た。
私はママに言った。

「怪我はなかった?」
ママは無言で頷いいた。
ママは割れた破片を、手で集めようとした。

「手を切るから、そのまま!」
私は店の裏から箒と塵取りを持って来て、破片を集め新聞紙にくるんだ。
ママは少し悄然としていた。
「怪我しなくてよかったじゃないか」

形あるものは何時かは壊れる。
人の心の亀裂は、修復するのが難しい。
するとお客様の声がした。
「マスター、偉い!」
さてこの話は作り話か真実か、皆さま、お好きなように。