東京演劇アンサンブル公演「ラリー」観劇記

2009.7.19(日)



東京演劇アンサンブルの田辺さんから、公演の連絡が来た。
私の店に置くチラシも一緒に送られてきた。
連絡があれば、毎度必ず観に行く。
もうあれから、何年になるだろうか、田辺さん主演の、
ベルトルト・ブレヒト「ガリレオ・ガリレイの生涯」を観てから。

科学と信念の狭間で苦悩する人間、ガリレオを好演した。
かつて、アンサンブルでは、塚本信夫・山下勝洋・伊藤克が演じた大役。
この作品を演じるには、気力・体力・実力が伴わなければ演じることができない。
それゆえに、その時、アンサンブルを象徴する役者が演じることになる。
それ以来、田辺さんは、しばらく、劇団活動の本流から離れていた。

何時復活するのか、私はとても楽しみにしていた。
彼から公演の報せが来ることを心待ちにしていた。
そして、今年の年賀状に、今年の夏、大きな役ではないが、芝居に出ると書いてあった。
かつて、同じ釜の飯を食った仲間、とても嬉しかった。

公演は19日の日曜日の午後7時。
ゆっくりと家を出て、
あちらこちら昼下がりのドライブを楽しみながら、劇団のある武蔵関へ。
6時40分頃に到着した。
私宛のチケットを貰い中へ。
すでに、たくさんの観客が座っていた。

舞台正面には、上手と下手を繋ぐ、銀色に鈍く光る階段。
そして、その階段を上り切ったところに、両階段を結ぶ舞台が設えてある。
その奥に丸く切り取られたスクリーン、そこに照明があたっていた。
劇場内は、天井に吊られたスポットライトの薄明かりで、室内の空気が灰色に煌き漂う。
やがて、灯かりがすべて落ち、そして、再度、舞台に照明が灯った。

17歳の内気な高校生ジョシュは、同級生のベスに淡い恋心を抱いている。
だが、ベスにはスポーツマンの二枚目、トッドという恋敵が立ちはだかる。
だが、ジョシュには、もう一つの秘密の顔がある。
それは、「ラリーの福音書」なるネットの管理人だ。
そこで、ラリーは世界に向かって、メッセージを発信している。
暴力なしに、怒りなしに、自由で、欲望から解放された平等な社会の実現を謳う。

やがて、このサイトに、U2のボノが参加した時に一変。
100万件のアクセスで爆発、「ラリーの福音書」は一人歩きをしだす。
否定していたはずの欲望の再生産企業に、飲み込まれる破目に。
やがて、ネット上で、ラリー探しが始まり、正体を暴かれる。
尊敬をしていたラリーが、実は同級生のジョシュであったとは。
ベスは裏切られたことに衝撃を受け、ジョシュと決別を決心する。

「ラリーの福音書」の管理人ジョシュは、
義父ペータゴールドの愛情も踏みにじり、ベスの信頼も失う。
ジョシュはマスコミの寵児になるとともに、
否定していた大量消費社会の縮図に飲み込まれて行く。
そして、ジョシュの辿り着いた結末は寂しい。
偽装自殺のはずが、現実の死で購われた。
世界にメッセージを送ることも大切だが、
目の前に、そして、近くにいる人々へ、注ぐ愛と信頼の大切さを語っている。

高校生群像を演じる役者さん達も、劇団の若者。
まだまだ粗削りではあるが、溌剌としている。
田辺さんの演じる義父ペータゴールが、しっかりと若者達の演技を支えていた。
今日が初日、これから、日一日、芝居は練れて行くことだろう。