小さな旅&日記「大谷石記念館&大谷寺」
2008年8月25日

8月25日の朝、
鬼怒川のホテルを9時30分にチェックアウ。
大谷石の採掘場跡へ向かう。
昨日と同じように、しとしとと雨が降り続けなか、
日光街道を東へ進む。
途中、日光街道の旧道に沿って、
風情のある杉並木を通過して40分、宇都宮へ出る。

さらに、30分ほど進むと、目的地に到着した。
雨はほとんど上がり始めていた。
雨に濡れて、緑が美しい木々が生い茂る小高い丘。
裸掘りにされた大きな穴が抉られ、
壮観な風景が、至るところに出現する。
さらに進むと、
採石の跡を残す丘に囲まれた広場があり、そこに記念館があった。

入場券600円を購入して、中へ入る。
狭い通路を抜けると、ひんやりと冷気が漂う。
すると、前方に、微かな明かりに照らされて、
想像以上に巨大な坑道が出現した。
鉄製の階段を下り降り、なだらかな坂を下ると、
さらにさらに、広く大きな空間が広がる。
四角く垂直に掘られた大きな部屋の数々。
まるで、地下の神殿のようだ。

ぼんやりと灯る明かりは、灯明のようで幻想的だ。
天井も壁も、染み出た地下水でうっすらと滲んでいる。
時おり、天井から、ぽたりと冷たい雫が落ちる。
家族連れや若いカップル達が、あちらこちらで記念写真を撮っている。
子供達には、きっと、楽しい夏休みのプレゼントになるだろう。

この地下を舞台に、演劇や舞踏やコンサートが開かれるている。
1986年には、世界的に有名な、
天児牛大が主宰する暗黒舞踏集団「山海塾」も公演したこともある。
静謐で霊気に満ちた聖域のような、無機質で異様な巨大な空間。

音が吸い込まれながらも、微かに反響する。
籠もるでもなく、揺れながら振動する。
すべてが、垂直と水平の幾何学の世界。
江戸の昔から、えんえんと掘り進められた大谷石。
かつては、全てが、人間の手による手作業だった。

鶴嘴と鑿により、巨大な石が削り取られた。
それを人間の手により、外へ運び出された。
その時の鑿の跡が、石の壁に、くっきりと残る。
人と石との長い歴史の営み。
はたして、この空洞は何処まで続くのだろうか。

地下30メートル。
東京ドームと同じ面積を誇る。
我々が見学出来るところは、ほんの僅かな空間なのだ。
それでも、全て見て廻れば、大変な時間を要する。
昔から、宇都宮の大谷石の採石場のことは知っていた。
しかし、これほどまでに、巨大なものだとは、想像できなかった。
自分の目で見て、初めて、ものの実態をを、理解できるのであろう。

一時間余りの地下逍遥。
地上に戻ると、外気が迎えてくれた。
肌寒く、薄明かりの巨大な洞窟から戻った我々を、
生暖かい外気が迎え、小雨交じりの外光は眩しかった。
土産物屋を覗き、車に戻り、次の目的地、大谷寺へ向かった。
寺には程なくして到着。
無料の駐車場に車を停め、山門から境内へ。

拝観料200円を払い中へ。
いまだ、雨は降ったり止んだりで愚図ついていた。
鄙びた山寺の風情の本堂が、正面に建っていた。
お賽銭をあげ、鰐口を叩き、手を合わせる。
右手から、本堂の中へ。
木戸を潜り中へ入ると、巨大な大谷石の壁が張り出している。

その青白く鈍く光る壁に、大きな大谷麿崖仏の千手観音。
日本最古の石仏立像が彫られていた。
この千手観音、
弘法大師が、810年に、彫られたものと伝えられている。

ふくよかに慈悲に溢れる尊顔は、
見るものを優しく包み込むように豊饒。
その足元から、1万1千年前の縄文人の骨が、偶然にも発見された。
さらに、すすむと、
薬師三尊や釈迦三尊像が、大谷石の巨壁に彫られていた。

巨壁に飾られた観音様を眺めつつ進むと、境内に出た。
雨は上がり、青空さえ顔を出していた。
隣接する資料館に入る。
受付で入場券を渡す。
熟年世代のおばさん、
にこりともせず、無言でティケットを受け取った。

中には、お寺で発掘された縄文時代の土器類が飾られ、
かの千手観音様の下で発掘された、縄文人の骨も展示してあった。
それは、横臥屈葬されたままを、復元したものであった。
1万1千年後に、このような姿を晒すとは、縄文人には迷惑な話。
この資料館の最大の展示物になっているのだ。

狭い館内をぐるりと見学して外へ。
出る時、お世話様と、おばさんに声をかけた。
またもやおばさん、
こちらを見やることもなく、一言も声を発しなかった。
ここはお寺の境内。
もうすこし、心の修養でもしてくださいよと、言いたくなった。

お寺の庭園を散策して、平和観音へ。
露天掘りにされた巨岩に囲まれた広い道を進むと、
巨大な観音様が、優美な姿で現れた。
見上げれば、27メートルの立像。
昭和29年、第2次世界大戦の戦没者を慰霊し、
世界平和を祈念して建てられた。

優美にして、高貴。
典雅な立ち姿が、青空に映える。
観音様の横の階段を登ると、頂上に出た。
観音様の慈悲深い、気品に満ちた、
彫りの深い顔が目の前に見える。
遠くには、緑に照り映えた、大谷の市街が広がっていた。